お見合い大作戦決行~計画殺人の間違いじゃないの?~
「…………分かんねぇな」
僧侶も首を傾げる、天使ちゃんも同様だ。
それだけ大きな概念操作が世界全体に実行されていたのは確かだ。
「あたし達は呼びかけあってますけど」
「違和感に気付かなくて当然よ。だって、日常においては変わりないんだもん。私だって、自分の名前を知らなくても問題が起きていない。名前を呼ばれない日があっても悪くないんじゃない?そーいう人達はいるはずよ。けど、確実に世界がおかしくなっていく」
「父はなぜ、そんなスキルを使ったんですか?」
魔王の娘の問いかけに、魔女も本人じゃないから言えない。
ただ、そこにあるのは、真正面から戦えば勝てない相手がいたということだろうか。勇者ご一行の前に立ちはだかった魔王軍が、それでも
「魔王軍が勝つための、最終的な手段なのかもね。私にはその辺が分からない」
世界全体の概念を捻じ曲げるスキルというのは、存在してはいけないほど。
使えばどうなるか、分かったもんじゃない。分からないんだから。
「争う理由は時代によって異なると思う。だけど、取り戻さないといけないモノがある。それが”名前”って奴なの。……女神様の警告にも影響が出ているはずよ」
世界の異変をどうするか。それを取り戻すには、勇者がそのスキルを解除してくれること。
「じゃあ、8年もあいつはその異変を知ってる……というより、自分だけ”理解”して8年も生きているって事か?」
なら、なおさら。
勇者が見ている世界は、自分だけがおかしい状態で生きているわけか。
「つ、」
天使ちゃんは
「つ、強すぎるのが悪いんじゃ。あはははは、だって、レベルだけならあの人が一番でしょ。はははは」
思った以上に勇者が苦労しているという一端を知り、焦り顔になる。僧侶は気にするなというが、勇者の思想に影響を与えているのは、天使ちゃんのミスだというのも確かだ。
「……そうね。概念系の類って、格下への”暗示”が基本になってる。事実に私や女神様とやらは、レベルが近いから、違和感に気付けてる。時間が経てば経つほど、その効果も弱くなるはず。あなた方も気付くと思うけど、……その前に寿命が無くなり、未来に引き継げない事になれば」
「全滅ってわけか。その事実を知らないのなら、”名前”なんて一生作らないよな」
「父が残したモノがどれだけ大きい事になるのか……父さん、どうして……」
この世界の異変を解く。それも自分達が理解できないという、強い暗示をかけられている状況の中でだ。勇者をどうにか”説得する”という方法で
「結婚は最適解なのかもな。誰かを呼び合うための特別な”名前”って奴。あいつがそーいうのを望めば、……それを解く気になるはずだ」
具体的に話せない状況の中で、勇者の生活を変える手段。それが結婚というものか。
方法の1つが、平和的なら、それでだ
「はぁ?」
「違うのかよ」
言いたい答えは分かってる。魔女が言っていたのは、この世界の異変の事だけである。
「そんな悠長でできるか分からないやり方よりも、3つも確実な方法がある」
「3つも!?」
「魔女のその表情は、ロクでもねぇな……」
勇者と結婚なんかせずとも、この異変を勇者に解かせる方法がある。
1つ目は、妃様から
「死ぬ寸前になるまで追い込めばいいの♡」
勇者を追い込んで脅迫し、無理矢理、世界にかけられた概念系のスキルを解除させる。死んでしまったら、失敗するリスクもあるが。それならそれで構わないとする、妃様の考え方。
2つ目は、魔女から
「勇者を超える力で概念系のスキルを上書きする」
勇者が気付いていて、なおかつ、解除できるというのなら。それを上回る手段で概念系のスキルを使えばいいという、単純な作戦。世界に掛かった概念を元に戻せるスキルを持つ者だけが使える。これができるのは、魔女だけだと思っている。
3つ目は、勇者から
「僕が勇気を出して、自分で魔王がかけたスキルを解く」
…………以上の3つの手段が、この世界を戻す方法になる。
勇者は女武術家ちゃんとの同棲生活を終えて、1日ほど、自分だけの時間を頂いた。
「魔女と…………これ、絶対に妃様が来るよね。紹介してくれる人だよね。絶対ヤバイよね?」
どうやら自分が、くじ引きで同棲した人達を誘わなければならないようだ。商業娘ちゃんは良いと思えるのだが、他の3人は正直、嫌だと思っている。
しかし、その4人を軽く超えるくらいに会いたくないと思う。
自分を本気で殺しに来ている妃様が選んだ女性なんて、とてもじゃないが会いたくない。絶対に仕掛けて来るよ。死なないけど、痛いから嫌だ。あの人のやり口はいつも、レベル差なんて無視するんだもん。
「僕への殺意が強すぎるんですけど、この面子。僧侶達は、何をしてくれてるの……?」
魔女がまさかホントに来るとは思わなかった。絶対にまだ、あの時の事を怒っているに違いないよ。確かに僕の会いたい人ではあるけれど、お見合いという形式で再会するとは思っていなかった。戦闘になるかもしれない。
でも、魔女に殺されるのなら、覚悟はできている。魔女なら僕を絶対に殺せる。そーすれば、僕としてはそのまま世界が良くなると思うんだ。魔女には絶対に悪いんだけどね。
「というか、これに関しては、なに……?」
魔王の娘とのお見合い…………魔王さぁー、何してくれてんの?僕、君の家族が迫害されない選択も、可能性にいれたっていうのにー。僕とあなたの娘がお見合いを申し込むって正気なの、この娘?僕としては、絶対に魔王の娘と結婚どころか、会うことすらダメでしょーよ。
あの小さい子も8年経てば、大きくなったと思うけれど。それ以上に僕への復讐心が強いんじゃないかな。こっちも殺す気で来るよね。復讐の繰り返しはダメだから、僕は止めるよ。約束が違うじゃん。いなくなってる魔王に言ってもしょうがないんだろうけどさ。
よーするに、纏めると
「僕に死ねって言ってるんですかね?」
◇ ◇
”勇者、殺す。”
そう思ってやってくるのは、3名だけである。
そして、誰一人、結婚という一生をかけることに意識はいっていない。それでも、やるというのが、婚活の仕事を任された1人の男である。
「……魔女はまぁーいいが、魔王の娘はこっち来い。ついでに天使ちゃんもだ」
「はぇ?」
「なんですなんです?」
「おめかしって奴だ」
魔王の娘は小さいし、実年齢は10歳。結婚がどーいうことかもよく分かっていないだろう。なのに、お見合いのメンバーの中で、もっとも優しく勇者に出会おうとしている。勇者の好みとは正反対だし、勇者の事情的には絶対にできない相手と分かっていても
「女の子にとって、1人の男の子に会うのは大事なもんだ。特に大切な席ではな」
服装をそれなりに揃えておきつつ、今後の事も考え、お化粧のお勉強である。10歳じゃ、無理な話であり、その手のアドバイザーもいなかっただろう。
「宜しいんです?僧侶。忙しいんじゃ」
「そりゃー忙しいけど、その前に片が付くかもしれない。妃様が紹介する女が、タダモンじゃねぇし、魔女も魔女だ。……2人に結婚を期待するのは、ちょっとは難しいが……場を弁えるくらいの事はするだろうよ。それより、この子には魔族でも将来、良い男が現れるもんだろ?」
「将来を考えてくれるんですね!僧侶、すげー、常識人じゃん!!」
「あたし、人間界で使えるお金があまりないんですけど」
「そこは俺達のところの税金を使うから、気にすんな」
と、魔王の娘を優遇しつつ、天使ちゃんと魔王の娘が楽しくお買い物に向かおうとするところを、魔女はつまらなそうにしている顔に気付いては、
「お前も化粧と、花嫁姿にでもなれ」
「突飛過ぎでしょうが」
「着たことねぇーだろ」
「失礼な奴。待遇がおかしくない?」
当然ながら、魔女も買い物である。
開催までにはそれなりの身なりはもちろん、礼儀作法も仕込むつもりではあるが。それはたぶん、魔王の娘だけだろう。魔女も知ってるとはいえ、
「私が会うのは、勇者を殺すためだけ。概念系のスキルで上書きするってんなら、邪魔するのは分かってるしね」
「………………」
僧侶が思ったことは、魔女のやり方が彼女らしくないところにある。それでも会ってくれることには納得してくれて
「だったら、一番大人っぽい服で会ってやるんだな。せめて、あいつには最後に良い姿を見せてやれ。ほれ、買い物に行くぞ。お前の買い物も税金で済むから、好きなだけ買え」
「……ふん、しょうがないわね」
最初は嫌だという表情であったが、
「……………」
服を選ぶ際に見せる表情は、幸せそうとは言えない。むしろ、
「うひょ~~、可愛いのいっぱいあるね!あたしも買っちゃっていいですか!?税金いくらでも使っていいんですよね」
「心配すんな。全て、あの王様が解決してくれる。俺もスーツを買い替えたいし、サングラス(自分の収集癖が発動中)も買っておこう。もちろん、俺も税金で買ってやる。……そうだ、仕事仲間の分のスーツも新調させておこう」
「む、むむ……あたしにはその、……背が小さいからかな?胸の周りが少し」
僧侶は完全に王国への嫌がらせ&部下達へのご褒美目当て。
天使ちゃんは、自分は参加しないというのに、天使という種族などを忘れて、女性の可愛い服を試着しては買いまくる。一番この買い物を楽しみつつ……。
魔王の娘は、自分の身体に合ったサイズの服が少なく、やや悪戦苦闘。ロリで巨……
「ううん、ううん、違う。違うのよ。私はっ」
なんなのよ、あの子達。あたしの胸は普通。普通。普通よ。歳がなんだっていうのよ。身長に対して、胸のサイズが違うってなに!あの子の母親は絶対、サキュバスの類よ!!
如何わしいわっ!!絶対にダメ!!
「くっ…………」
参加者の中。いえ、あいつと同棲してた奴の……っていうか、勇者より年上で、……
『魔女さんってお肌かっさかさ~。どんなところで過ごしてるんです?』
『そんな貧相なお胸で元勇者が好きって、マジ~?元勇者も散々ですね~』
『勉強と復讐に囚われているだけで、恋愛が成就したらよかったですね~』
『ウチが言うのなんですけど。もう少し、女性らしさをですね~』
自分の身体への自信のなさが、幻聴として聴こえる始末である。
当て馬になるくらいなら、そんなのとは縁を切るのも正しいし。そんなことしないでも自分を見失いでいられている。
「逃げちゃダメ。逃げちゃダメよ。私」
自分を見失わないって事で、自分に言えること。
ここ一番では踏み込むべき、場所が分かってる。
とはいえ、いかんせん。この場で誰よりも貧弱なステータス(戦闘には関係のないパラメータ)を持っている魔女に
「魔女。お前」
「な、なによ!僧侶。私のスタイルやらお肌が、良くないとか、年齢とか」
「まだなんも言ってねぇよ……」
こーいう被害妄想というか、思い込む力が強すぎる故の、魔女らしさがある。
「着飾ってやるだけで、お前は普通にそーしろ。その方があいつも落ち着く」
「お、落ち着くって何よ!」
「お前がそーいう見栄を持ってないのは、誰でも知ってるからだ。普通にしてるお前が、一番可愛いよ」
「!………………」
「何着てもイマイチだろうしな」
「その一言が余計よ!!私に見合う服だってあるわよ!!」
そー言って探すのは、露出度の少ない服ばかりである。そーいうのを選ぶ場ではないのだけれど。
そんな僧侶、魔女。天使ちゃん、魔王の娘。4名の服選びであった。
それとほぼ同時刻。
「ふむ。それで私から声をかけたというのは、嬉しいな」
「……僕は、君のような人が話しやすいからね」
「あくまでビジネスライクだ」
勇者は商業娘ちゃんに、お見合いのお話を最初にした。彼女の言葉通り、ビジネスライクというお付き合いなら十分に可能であり、お互いの関係性は友人に近い立ち位置で保てる自信がある。
「仕事で女性を誘うなんてこと……。簡単にお金を使うのがいいんじゃないか?幸いにも、私以外のその3名は、お金という経済力を求めているのであろう?」
「うん」
「なら、お金を使って交渉すればいい。補填とは金額だ」
「そ、その交渉を君に頼みたいんだけど……」
「……そんな気がしていた。そもそもツッコミどころの多い、同棲生活だったがな」
赤面なく、呆れるようにツッコミを入れてくれる。そして、やっぱり相談して良かったと思う、勇者の表情である。あぁ、こいつに結婚は無理だわーって、自分も人の事が言えない。けれど、困っているのなら助けてやりたい。それに、自分以外の女性がどんな奴なのかも気になるところだった。純粋に
「私が4人の中で一番なのは分かった。じゃあ、2番目、3番目、4番目と。順々に選べ。この紙に書け」
「わ、分かった」
こいつの婚活は大変だなーって表情をしながら、勇者が良かったな~って思う女性を知る。
『村人ちゃん、遊び人ちゃん、女武術家ちゃん』
「……横一列か?順番を決めてくれ、と言ったはずだが?」
「それが?」
「眉唾ものだが、選択肢を横書きにする奴に、比較というモノがないそうだ。私も左寄りになんだろうが……横並びで選ばれるとはな」
「そーいうつもりはないんだけど……誰かとの生活を考えたら、こーなっただけ」
「お前に恋愛を期待するのは無理だと分かった」
勇者と別れてからちょっと恋の入門書みたいなのを読んでいた、商業娘ちゃん。だからこそ、思えるのだが。こいつに婚活はおろか、恋愛すら無理だわーってなる。
時には情熱的になる一面が、こいつにはこと人間関係としてはない。こっちは自分が3番目に選ばれたとはいえ、1番に選んだのだ。ちょっとは他の3人が気になるところだ。単純な興味でしかないぞって、心の内に秘めて、
「じゃあ、まずは村人ちゃんに会いに行こう」
「うん」
唯一、彼女との交流は深くはないのに、自分が妃様に狙われている事も知っていて、普通にしてくれる。これもその、お金というのがある。仕事としての依頼でなら、自分もそれなりの付き合いができる。
勇者はそう思っている。自分の力ではないんだけれど。
ぴゅ~~~~
そうして、勇者は商業娘ちゃんを連れて、村人ちゃんがいる村に向けて、雲に乗って移動をする。勇者は一生懸命に飛ばしているのに対し、商業娘ちゃんはこの明るい空からの眺めを楽しんでいるところ。自分のスキル、”エアルック”で見ている綺麗な空は他の人達が見ている空よりも美しく、眩いのである。
ドボーーーーン
「着いたよ」
「……まったく」
その言葉をホントに地に足をつけてから言う事じゃない。雲が落ちてきたとあっては、村全体が騒然としてしまうのは当然だった。だが、その騒ぎに気付いて、猛スピードで駆け付けてくる女性がいる。勇者からすれば大したことではないけれど、商業娘ちゃんからすれば十分に早い。農家の人間だからか、体力には自信があるということだろうか
「なーーーーーーに、しに来たんですかああぁーーーーー!!」
平和的に畑仕事をしていた村人ちゃんも、怪しい雲がこの村にやってきたとあっては心当たりが有り過ぎる。自分のスキル。1分間の行動を30秒で行動できるという、”ハーリ”のスキルは極まっていないが、汎用性の高さがある故。早く走れるという動作にも適応できる。
「やぁ、元気そうだね」
ブンンッ
勢いよく走って来たかと思えば、いきなり拳を振り回してくる元気な奴。
「さっさと振り込んでくださいよーーー!!」
「……え?」
「お金ですよ、お金ですよ!!こっちは貧乏なんですから、1日でも早く金だ金だ金だ金だーーー!!」
「は、はい………」
村人ちゃんは相手がとんでもない勇者であろうと、お金を優先的に要求していた。まだ支払いが終わっていないらしい。そんなこんなの勢いであったため、
「あれ?この方は?」
「初めまして。私もあなたと同じく、勇者と同棲していた者だ」
「ええっ!?……ん?え?って……ということは!もしかして」
「いや、そーいう関係ではない。勇者の付き添いで、君にも付き添ってもらうために、勇者が順々に巡っているんだ」
商業娘ちゃんの紹介&事情の説明。村人ちゃんもその頭はよく回ってくれるので、
「お疲れ様でーす!大変でしたでしょ、この人のお相手」
「それなりに。君が1番手をしてくれたから程々に楽だったよ」
「いや~、マジで何を考えているのか、よく分からない人ですもんねー」
「はははは、それはそうだな」
村人ちゃんは凄く嫌がっていたような表情と声であったが、すぐに勇者が気を許せそうな人物だとは商業娘ちゃんも空気が読める。
「なるほど、なるほど。勇者様が3名のお見合いが決まったので、それが終わり次第、結果発表という名の報酬ってわけですか?”追加”報酬ってわけですか!そうですね、今!金が欲しいです♡別の報酬で!」
「図太いな。そーいう気持ちは大切だな。勇者よ」
「う、うん……」
村人ちゃんでも良い子なんだよなーって思える勇者の表情には理想とは違うのが、よく分かる。
「っていうか、来るなら来ると、……お金を払いに来てください。せめて、今週の生活費だけは、今!!」
「は、はい……はい……」
金にがめついのは、やっぱり振り込みが遅いからである。こんな勇者と2泊3日で過ごしたのだから当然としている顔。勇者も商業娘ちゃんのアドバイス通りに、お金を現ナマで支給。
「うひょ~~~~♡♡これです、これです~~勇者様、大好き~~♡」
視線が完全にお金に向きながら、こんな台詞を吐いている。彼女もあの生活で結構変われたのだろう。というか、お金というのは怖いなーって分かる。
受け取ったお金を満喫したことで
「じゃあ、あと2人ですか?どんな方なんです?会いに行くんですよね!早く済ませましょうよ!」
「ああ。勇者、早く案内してくれ。私も気になっているぞ」
「うん(切り替え早いなぁ……)」
村人ちゃんはま~~ったく、好きになれない勇者と一緒に行動する事を承諾してくれる。逆に御しやすいという意味で、勇者の中で村人ちゃんが2番なのが分かるだろう。不本意なんだろうけど、お金でこの子はよく動いてくれる。
それでいて家事的な事も一通りできていて、お金が絡まなければかなりいい子である。
「家を建て替えてくれる約束も忘れないでくださいね♡」
「う、うん。そ、そっちは気が向いたら……」
「私を選ばなくてもいいから、やってくださいね。趣味でしょ?」
「…………」
「にしても、勇者様って少し変わりましたね」
「そうなのか?」
「私と初めて会った日。ま~~~ったく、喋りませんでしたし、自分の事を明かす気なかったですよ!話しをさせたら、やばかったですし!」
「…………」
勇者はしばし口を閉じていた。しかし、その無表情は何とも言えないというか。あとで考えて見れば~という名の後悔をどこかに感じさせる。
「つ、次に行こうか」
2人を雲に乗せて、遊び人ちゃんを捜しに行く。その間の村人ちゃんと商業娘ちゃんの会話を聞く。
「最悪ですよー」
「はははは、だから私達の時は少しずつ改善できたのか」
「ところで勇者様とのお風呂とか大丈夫でした?あの人、急に入って来たんですよ。それに暗示スキルとかかけて操ってお風呂にいれたとか、サイテーだったんですよ。ビンタしまくりました!」
「!……それは最低過ぎるな……まったく、暗示スキルなんて使うとはな」
村人ちゃんがホントに犠牲者であり、2番目に選んだところを見ると、3番と4番の女性は勇者とは気が合わないという問題なんだなって、商業娘ちゃんはちょっと大変だけど空気を読む。
そして、次の相手の居場所と状況的に
「ま、まいったなぁ」
「どうした、勇者?」
「今、寝てるみたい……」
「どんな方だったんです?」
今、昼間だというのに熟睡している模様。お昼寝タイムって感じにしては早いし、勇者が選ばなかった辺り、
「変な子なんです?もしかして、夜の人みたいな」
村人ちゃんから尋ねてくる辺り、彼女も口だけではないと分かる。こんな大金を得られるチャンスを逃してはならない感じ。
「そ、そーいう感じかな……」
「どんなことしてたんだ?話してくれ」
「買い物」
「普通~……って、そっちじゃないですよ」
「勇者が誰かと買い物か。なら、夜とかどーだった?就寝時とか」
「あんまり眠れなかった」
「「それを詳しく言えよ!!」」
「?」
遊び人ちゃんは勇者の言っていた通り、家で爆睡していた。別れた後もフラフラ~っと、刺激を求めた生活をしていた彼女。
「連れ去る?」
「止めろ」
勇者の真顔の提案に商業娘ちゃんがしっかりと止める。こーいうところがまだ分かってないなーって、村人ちゃんは頭を抱える。それはそれとして、思った通りの人だと思う。
コンコン
「………んにゃ」
コンコン
「……も~っ、誰だよー。こんな朝早くに(午後2時ですよ)」
遊び人ちゃんの眠りは浅かったようでノックで出て来てくれる。
ガチャッ
「や、やぁ」
「……………おおーーー!!」
つまんねぇ男だったら扉を閉めていたが、これはまた面白い奴が尋ねて来てくれたと。遊び人ちゃんは大胆にも勇者に飛びついて抱きしめる。その恰好、ブラもなにもしていないパジャマ姿で
「勇者じゃないかよーー!久しぶりじゃないか!!どうして、あたしの家がここだって分かったんだーー!!そんなのどーでもいいけどよーー!!家の中に入れーーー!」
「いや、その!」
「まだお前に買ってもらった奴、全部試着し切れてねぇーからよ!全部見てくれよーー!!」
「違くって!た、助けてー!」
な、なんだこの子ーって感じで、村人ちゃんは遊び人ちゃんを見る目は勇者の困り顔と同系統であり、商業娘ちゃんはこの子と勇者の相性の悪さには納得が行くが。活発な女の子ってのはこーいう子だなって納得する。そして、ようやくとばかり
「!だ、誰だこの女達は!!」
「ぼ、僕と同棲してた人達です……ホラ、ね」
「初めまして」
「は、初めまして……っていうか、その恰好で勇者様に抱き着くのはちょっと……」
むむって感じの睨み合い。村人ちゃんも本能的に、遊び人ちゃんは苦手だと察した。この手のゴリ押し系はアレだ。一方でそんな苦手意識など気にせずに
「よーし!お前等も着替えろ!!勇者!!良いだろ!!いっぱい服あるから、着せ替えてやろうぜ!!」
「いや、僕はそーいうつもりは……」
「着替えってなんですか!?」
「……そう言わず、中に入った方が良い。勇者様は外で待ってなさい」
商業娘ちゃんが事情も兼ねつつ、遊び人ちゃんに付き合ってあげる。ついでに村人ちゃんも。……かなり顔を赤くしながら……。そして、外で待機させられる勇者。(当然だが覗かないため)
「な、な、なんですかーー!このお部屋!!汚いですよー!」
「なんだよー、お前ー!そんなお前には、この牛さんの衣装を渡すぞ。胸がこぼれる服でさー。しっぽもあるんだぜー!お尻につけさせてやる!」
「こ、こんなハレンチな服なんて着れませんよ!!」
「なかなか如何わしい服が揃っている。私は試着していいかな?」
「お?あんたはイケるタイプなんだな。ならこのミニスカパンダコスプレを着てみるといい!パンダ仕様のパンツも貸してあげる!!」
「ど、どーしてそーいうのを着れる気になるんですか!!」
「まぁまぁ。勇者と同棲した仲だろう。君に会いに来たのは、かくかくしかじかでな。」
商業娘ちゃんが身体を張って遊び人ちゃんを説得してくれる。着替えながら事情の説明をし、勇者のお見合いの話しやらその結果発表のため、遊び人ちゃんも来るようにという勇者のお願い。
ガチャ
「勇者はあたしを選ぶよなーーー!!」
その言葉に本心がまったくなく、面白そうだからっていう理由でしかない。扉を開けたら、パジャマから彼女らしいカジュアルな恰好で勇者に飛びつく遊び人ちゃんだった。
「そ、それはその。その時で……」
「いいじゃないかよー。今くらいさー!面白そうだから、ついてってやる!!王国の城の中は、それなりにバズりそうだから、メルピグの撮影はOKだよな?」
遊び人ちゃんのスキル、”メルピグ”。自分で見た景色を撮影し、他の人達にその情報を送り込める。
「ちょ、ちょっとーー!そんなスキルなら先に言ってくださいよ!!恥ずかしい服を着させておいてーー!!」
「別に恥ずかしくないだろ。あたしもお前もその身体を誇れ!!母ちゃんと父ちゃんが泣いてるぞ!」
「あなたの行動に泣いてるでしょーが!!」
説得の最中でちょっと恥ずかしい服を着せられてしまった村人ちゃんは、脳内に自分の恥ずかしい姿の情報を送り込まれて、かなり顔が真っ赤になっている。
彼女には言わないでおくが、勇者からしたら、序列は3番目である。
「え?これより下がいるのか」
「??」
「いや、なんでもない」
商業娘ちゃんも2着ほど服を着てみた。しかし、ハレンチで済ませる程度の服としておこう。こーいうタイプは勇者と上手くいかないわなって。本人は楽しんでるが9割以上を占めているんだろうし
「よし!最後の1人を勧誘しに行くんだなー!行くぞーーー!」
面白いからついていくという考えである。
そして、最後の女性。
勇者がこの3人を彼女の元に連れて行く。
「!!」
ぼろい道場に足を踏み入れ、視界に入ればすぐに
「勇者様!!今日もお手合わせ願います!!」
「…………」
即座に勝負を仕掛けてくるこの女性に対し、勇者は彼女だけは自分でやるとして
バヂイイィィッ
「………えーっと、これで連れて行こう……」
「「力ずくで連れて行くのかーーーい!!」」
相性がすこぶる悪い村人ちゃんと遊び人ちゃんが揃って、ツッコミを入れるくらいに豪快な方法。これで女武術家ちゃんも説得完了である。
「ま、参りました~……勇者様、私もお供させてください」
「君、大丈夫か?」
「は、はい!ウチはこれくらいで負けません!!」
「身体の方じゃなくて、頭の方だ」
商業娘ちゃんからすると、……勇者が4番目に選ぶのも納得する。猪突猛進で、遊び人ちゃんとは別ベクトルで面倒な人。同棲生活で何度も戦いを挑まれたんだろうなって分かる。無謀な挑戦も良いところだ。
「だから、君のスキルの事は伝えたじゃん!危ないって……」
「でも、ウチも勇者様のように強くなりたい!勇者様のように強い人がい~~っぱい増えたら、いいですやん!!」
「僕みたいなの増えたら、ヤバイから!なるべく、大人しくして!。”ヴェルー”のスキルは危険って言ったでしょ。一時的に急な成長をするから、村人ちゃんや遊び人ちゃんが自覚しないままでいて欲しいの。喧嘩はダメ」
「は、はーいです……」
2人でコソコソと話す様子。恋愛というよりか、重たい師弟関係といったところか。
空気の振動を見て分かるんだが、女武術家ちゃんも苦労している側なんだと商業娘ちゃんが察してくれる。そして思っていたが、こっちの面子は
「私がしっかりしないとダメだな……」
不本意だが、勇者が自分を頼ったのがよく分かった。




