友達としての信頼と嫁は別である~強さと悪辣さも異なること~
商業娘ちゃんは勇者を口説きに行った。
「ウチに来ないか。お前には人を幸せにできる力がある」
その口説きに恋愛感情がない。
だからこそ、お互いの距離間が絶妙。一番気が合うと言える。
「ううん。それはできない」
「だと思ったよ。生きるなら楽しくしたい」
同棲というより、旅行気分で来ていて。さらには仕事という側面で付き合った。
「この報酬だけでありがたく思うよ。仕事も捗ったし、良い気分転換だった」
「……………僕もだよ」
もしも、……。勇者はそれを初めてしたと思うが
「あなたが一番話しやすかった。から、……お互いのため、だね」
その表情に彼女は揶揄うような笑いを作っていた。これでも一生懸命だったのだろうか
「はははは、告白の練習にもならなかったな」
「………そう、だね」
「その気はないだろう。言う通り、お互いのためだ。女としてはいられなかったのは悪かった」
もうすぐ、行くよって感じになる。
その間際にて、彼女もだ。
「それでだ。それでな」
自分のスキルが勇者にもないだろうなって、疑いながら、なるべく呼吸を整えて
「その…………わ、私でいいなら、……10年後にでも返事をもらう……」
「うん」
「それくらいの時間があれば、お互い変わってるよな。だから、お前が変わって言うんだからな!!私だって、その時にはもう、結婚してるだろ……たぶん……。でも、2人結ばれるなんて望んでないからな。私もお前も。素敵な人生があるもんだ」
世界は大変なんだろうけど、自分だけで大変なんだ。
だって、自分の人生なんだから。
「……………」
商業娘ちゃんとの一時はとても幸せに感じた勇者であった。だけど、その多くがお互いに関わらないという制約が機能したと言える。それが良くない事に分かり合えたのも良かった。そして、長く近くにいれば嫌いになるって事もだ。
知っている人と思えば、大分気が楽である関係性。……それでいい。自分はそれでいい。
ピュ~~~~~ッ
こうして、勇者と商業娘ちゃんの同棲生活は終わった。もし、彼女のような人と出会えたらいいなと思った勇者。次のくじ引きはそーいう気持ちを隠し切れないことに、自分の変化に気付けた。
◇ ◇
【命を懸けます!!】
政治家なり、無敵の人なりが、その言葉を吐くに。確かめる方法が一つだけある。
そして、その方法を実際に持てるのが
「私からは、あの勇者にはこの子を紹介してあげるわ♡聞いてるのよ。彼、色んな女と同棲生活をしてるそうじゃない。国の税金使って良い御身分ね」
「………………」
この妃様であるとみんなが思っている。だからこそ、王様は最大限に警戒しているのだが。少々遅すぎていたのは、妃様や自分の言う通り、油断している証拠だった。
そして、偽りがないから、僧侶や女神様、……他の者達からの信頼が非常に厚い。
「い、いやぁ……お、お、お言葉ですが」
「なにか?」
「勇者にもその、人権がありますし。わ、わ、……いや、か、彼女にも選ぶ権利がありますよ。ね?ね?勇者、ヤバイ人だよ。マジ根暗でキモイと思うよ。いや~っ……」
王様は紹介されている女性に尋ねたのであるが。彼女はスッと王様に対して、お願いの一礼と共に
「義父様。私は勇者の事をとても愛しております。どうか私とあの人が一緒になれるよう、お願いいたします」
「いや、気が早いよね!絶対に会った事ないよね!!」
「心配いらないわ。だって、勇者のことは私がしっかり教えてあげたの。彼はとても強くて、とてもお金を持っていて、家事は全部やってくれるし……」
妃様は……ガチだ。
こーいう面では勇者とガチで気が合うと思うのは、王様くらいである。
「レベル100000で、100以上のスキルを扱えていて、出身地は貧乏街の孤児であるけれど。私とあなたの子に運命的に拾われ、魔女に師事を受けながら勇者ご一行に参加し、数々の魔王軍の幹部を単独で倒し、その剣はついに魔王の首を落としたの」
勇者の知る限りの系列をスラスラと言えること。そこに恨み募った事は無く
「魔王討伐後、”…………”王国からの報酬で山を一つもらって、そこで村作りに励むの」
「あ、あの……」
王様が止めようとしたところで、勇者とお見合いを申し込む彼女も参戦する。
「村をお作りになるのは、世界を安定化させるため。腹が減っては戦ができぬ。……その言葉の通り。世界はやがて法やお金などない、深刻な食料危機に見舞われる。勇者の力ではどうにもならない事や自分がいなくなっても大丈夫なように、ご準備されている。まずは畑。最初はミニトマトから始め、きゅうり、大根、……田んぼにも挑戦。大豆など原材料が大事となる食料の製造にも着手。人類に必要な食材を作れる環境を守り抜くため、勇者様はお一人で今も戦い続けている。なんて素敵で不器用な方ですの♡」
「ちょ、ちょっと……」
儂、ボケキャラなのに。
妃様と敬愛しているこの子の前だとツッコミ&ブレーキ役になるんですけど。
「あの場所は勇者様のご尽力あって、人が過ごすことにおいては最高に整った環境です。そこに私も姫として、入れられたら。勇者様のご意志と共に、人類の繁栄とその進歩、歴史に貢献したいのです。1人よりも2人……勇者様が人を望まぬことを知っていても、私はそれをしっかりとサポートしていきたい。勇者と共に運命の全てを……」
「ちょっと待ちなさい!!勇者の事や村の真実を知っているなら、聞いてていいから!!」
王様は一度、狂喜的に語る2人を静かにさせながら、自分の元妻を
「よく分かったね。妃様。”村の真実”を知ってるの、儂と勇者だけだよ。女神様も知らんのに」
「あら~?私に隠し事が出来ると思ってるんです~?”世界の危機”も、大方、知っていますけど。興味もあります」
あの村には色々な真実が隠されているのだが。それを考察しただけで、100%と言えるくらいに察知した妃様を敬服する王様。王様が好き勝手に酷い政治がまかり通っている理由にもある。勇者のある”村”がある限り、
「人類は滅びない。あの勇者は歴史を軽んじているわ」
「重く受け止めておる」
王国とそれ以外の国の人間が死滅してもなお……。勇者の村に辿り着ける何者かがいると、彼は信じて疑わない。だから、現在の王国に関わるつもりはない。
言うなら、現状については諦めている2人であると言える。そして、2人以上に大勢が諦めかけているのもまた事実だろう。世界は今、不幸というどん底にいるだろうと。自分達の行いなど関係なく。
「で」
「で?」
「……あの。勇者が山を買った”経緯”を、どうして言わないのですか?」
「……はて~~?知りませんわ~~そんなこと~~」
「知ってるってか、あなたは当事者でしょ。虐めっ子が虐められた顔を覚えないのは」
「政治家は国民の声が大事と言いながら、耳が聞こえないタイプよね」
「………………」
これだよ~~。これ。妃様にしては大分優しい言い方ですけどね。
あなたのやり方は勇者ですら、恐れているんだから。
だからこそ、国民からこの人が帰って来て欲しいと思ってるんだよ。儂達のこと、なんだと思ってるの?同じ国の中で過ごしている国民ですよ。ちょっと年収が高くて、ちょっと税金が免除されていて、ちょっと公共料金もタダになっているだけのお仕事なんですよ。国民達の命を預かっている大事な仕事なんですよ。
◇ ◇
能力やスキルを強さというのなら、妃様のそれは別ベクトルである。
魔女が3番目に強かったと評価する僧侶の目は間違いないし、勇者もそれに同意する。しかし、もっとも対峙したくないのは、妃様だ。
それは勇者も僧侶も、……王様ですらも、頷いてしまう。強さというロマンは、強さだけ囚われているから輝く。あれは違うが、暴力である
「’785’」
そして、勇者の次の同棲相手が……
パァンッ パァンッ
「セイッ!!ヤアァッ!!」
強さを追い求めている女武術家ちゃんだった事は何の因果か。
「押忍っ!!」
強い人間にならないといけない。自分は強い人間にならないといけない。武術の家系に生まれながら、男が産まれず、不遇な思いを家族にさせてしまった。ならば、男にも負けない女になる!
自分より強い奴に負けない存在にならなければ、
「へへへへ、相変わらずここはボロい道場だな」
「もう魔物なんていねぇーんだぜ。武術なんて時代遅れも良いところだぜ」
「そんなことよりも身体を売るとかどうだい」
……強い以前に道場の経営は厳しい。
「う、ウチにはお金が……」
「はぁぁ!?金がねぇなら道場でも売れーー!!」
「色んな仕事あるだろうが!!」
「こっちはお金がねぇーと死んじまうぜーー!」
魔物がいた頃は護身のためにやっていた流行っていた道場。しかし、今では魔物の姿はなく、戦う強さが必要とされていない時代。男女という性別よりも、時代に恵まれなかった子と言える。
強さだけで乗り切ろうとする時代ではないのだ。
「し、しかし……傭兵といった事ではなく、ウチの武術は護身故」
「殺人やらができねぇーってんなら、その身体を売れって何度も言ってるだろ!」
卑怯と言われようが
バギイィッ
ボゴォッ
「顔面は傷つけるなよ。商品価値が下がっちまう」
「武術武術と言いながらよー。お前みたいな小娘なんざ」
「20人以上の男が囲って殴りまくれば、余裕でKOだぜ」
……それ、字面にするとすっげーダサい気がするんだが。
ともかく、個の強さが圧倒的であろうと。質が劣ろうとする欠点を補える手段があるのならば、結局のところ、数という暴力には敵わず。
技術発展においても、いかに優れた技術を維持するといった面も、一般に普及に至るは限られたものばかりだ。技術発展に埋もれる声はいくつもあったのだ。
「あの~~~」
こんな場面。鍛えて来た自分という女が、卑劣な男達の手によって連れ去られる時。
誰か分からぬ男が助けてくれるのならカッコいいのだが。
……実を言うと
「まいったな」
その男達を相手に勇者は近づけなかった。3キロ先の地点で、’785’の方を発見したのだが。男達20名以上の手によって、その女武術家ちゃんが攫われているのを
「あれは妃様の手先なのかな?僕がこんなことをしてるの、たぶん、分かってるよね」
なにやら恐れて助けに行かない勇者である。なんでだよ!!ってツッコミたくはあるのだが、勇者の独り言が的確に恐れていたのはもうすぐ分かる。
人が集まっているところで、誰かに声を掛ける距離まで近づくというのは、勇者自身。やりたくはないのだ。
”村”の存在理由と、”村”の建築理由は別にある。とにかく、妃様は恐ろしいから。遊び人ちゃんの付き添いの時は、ハラハラしていたのだ。遊び人ちゃんの身を安全に護るためにだ。
「……………」
もう1回、妃様のところに行って、父上を呼び戻した方がいいかな。でも、あーいう連中って父上の事を楽しんで殺しそうだから危険か。妃様が何もしていないのなら、いいんだけれど……。あの人の事だから、こーいう疑心暗鬼を僕に作ってるだけ成功してるんだよね。
絶対に勝てるという結果を求める事を難しくしているのが、妃様のやり方だ。
「ウチは……ウチは……ぁ……」
女武術家ちゃんは身体を縄で縛り上げられ、身動きなど一切できない。鍛えてきた武術でも、男達の暴力の前では無力である。心が軋んで泣きじゃくる。誰か助けてよって、思った時
「「そこまでだーーー!!」」
「な、なんだーー!?」
1人の女性に20人の男性が寄ってたかって襲撃する。そーいう群れる事で、自分達の力が優れていると思い込んだ輩に、特効になるのが。同じく数である。
「「「この狩猟を生業とする我々が成敗してくれる!!」」」
「「「王国兵もこんな悪事を見逃さないぞ!!」」」
狩猟を生業とする会社の、ハンター達の出動と王様直轄の王国兵達が駆け付けたのだった。
「か、数の暴力なんて卑怯だぞーーー!!」
「く、くそーーー!!覚えてろーーー!!」
すぐに女の子を解放して逃げるのも無理はない。さっき別れたばっかりだったのに
「ありがとう」
「いや~、良い商売になる。あはははは!こんな高額で良いのか?」
商業娘ちゃんに仕事を依頼し、’785’の方を救出してもらった勇者。
「しかし、お前なら勝てたはずだろう?どうして、数を恐れるんだ」
「…………”囚人の使い道”という話、聞いた事はないかな?」
「!!それは知ってるが……なんで、勇者と関わりがある?」
「僕はその”標的”になっているんだよ」
「……えっ」
それを打ち明けると、商業娘ちゃんがすぐに勇者から離れて、身の安全を確認してから大きな声で確認する
「いやいやいや!!私も危なかったじゃないか!!それは絶対に言ってくれ!!同棲前に言ってくれ!!危な過ぎるじゃないか!!」
「……………」
「事情は分からんが、それは結婚前どころか、あれ、……人権持ってから言ってくれ!!」
「ごめん。でも、大丈夫。僕はそれになってないから。でも、怖いでしょ?」
「怖すぎる!!”囚人の使い道”とは妃様が作り上げた、法の拘束力じゃないか!!お前と結婚なんかもう絶対に考えたくないぞ!!友達にも成りたくないぞ!!」
「あはははは」
「わ、笑っていていいのか、お前!!命がいくつあっても足りないぞ!!」
どうして、”村”を勇者が1人で作っているのか。これに関しては完全に妃様との深い関わりがあり。結果的に、勇者が1人の方が良いにもなる話だ。