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お忙しい中、婚活なんてやってられません!~そーいう男女はそもそもしない~

チュンチュン…………


朝日を待ち遠しく思ったのは久々な気がする。


「結局、昨日からず~っと……」

「もう朝になっちゃったなー!飯を作ってくれ!!」

「…………」


……もしもだが、遊び人ちゃんとお付き合いするとなったら。自分の理想とする生活とはまったく逆のことを毎日することになるのか。

1人で作る料理に苦は感じないのだけれど、1人で作る家族の料理に


「ふぅ~」


荷が重く感じる。これが家族というものか。


「寂しいなー」


一方で遊び人ちゃんは名残惜しそうに、ここの様子を記録していった。夜の出来事の記録は勇者にNGを喰らったため、その次くらいに珍しそうにここの自然を覚えておく。


「頭に残るよ」


夜の出来事の記録のNGと引き換えに、お昼前に帰る約束をした。遊び人ちゃんとしてはここは珍しくても、その、……やっぱり退屈な場所である。悪戯するには良い奴と思っていたが、こーいう身を固めるという相手と考えたら……ちょっと問題あるわ。4・5番目くらいのキープ。

悪い奴はどっちかと言えば、自分の方なのだが。勇者は良い奴であっても面白くない奴な事には違いない。家事の全般とか、自分よりも金があって、土地があって……そこんところは良いけれどってなる。金持ちでも自分に回してくれる金なんてねぇ。

財布役としてなら、その量から言って悪くはないんだけれども。結婚のイメージが湧かないわ。



「おぉぉ~!!」

「こ、こんな感じでどうかな」


朝食は様々なサンドイッチ各種……。


「そうかそうか!畑ばっかりだから、こーいうことができるんだよな!!」

「え~っと……マヨネーズとシーチキンを和えて、レタスを敷いて……それから色んな種類が楽しめるようにトマトやチーズ、タマゴ、ベーコン……」

「調子悪そうだな?」

「眠いんだって」


遊び人ちゃんがパン派だから、それに合わせて見たのだが……


「こんなに色んな種類を作らなくてもいいのにさ。ってか、なんでも自分でやろうとすんなよ。いや、あたしはしねぇけど!!……街で買い物しようぜ!!そのためにお昼前に帰ってやるって約束したもんな!!婚活するならデートも大事だぞ!!」

「いや、それは……」

「まったくよー!お前のつまらないところって、1人でいたいとこだぞ!みんなと出かける面白さを知るには、まずはそーしなきゃな!!」


いつかするなら


「今じゃないか!!あたしとしようぜ!!」


君は僕をつまらない人と言っているけれど、なぜそこまで付き合うんだ?


疑うのは大変なんだ。


「……………」


勇者の目は何かを心配しているような瞳と、……なにか言えぬ理由。

ニコニコして、買い物に誘う人を嫌うようにも見えない。

そんな妙な間がちょっとイライラしてきた。


「ダメか~~!!お前さ~~~!!」


本人の気質なところが半分以上分かっているけれど


「勇者って有名人で大変だからなのか?他に色々ありそうだな、おーい!!」

「そ、そうなんだよね」

「他に好きな女がいる~~ってわけでもないし~……」


その事情は聞かないのが、一般人としてのマナー。分かっているけれど、


「君を帰らせたら」

「ダメだ!!買い物は絶対!!お前のためだ!!」

「え」


遊び人ちゃんは声を荒げた。そこまでする男ではないのは分かってるけれど、こんだけ近くにいて


「お前は1人の人間じゃないか!!買い物もロクにできない奴なんか……あたしだって、何もできねぇけど!それはダメだって!やろうよ!!行こうよ!!手を繋がなくてもいいし、距離をとってもいいし!!いっそ、お前1人でも構わない!!なぁ!!」


色々と目的がズレてしまった言い方だけれど、遊び人ちゃんの声には。出会って一番響いた。彼女からすれば、勇者には何もしていないで思いっきり遊んでいるだけであったが。勇者からすれば、かなり大きく動かされる言葉だった。

それでも、”いくつかの事情”があって言うわけにはいかない。


「………………」


とはいえ、決して


「き、君と一緒には……行けないんだ。一言で言えば、危ない。僕は誰かを護れる人じゃなく、倒すためだけに秀でている」

「な、なんだよ。やっぱり、勇者って周りから狙われてるとか?」


事情を誤魔化している言い方である。半分当たり、半分外れだ。


「だけどその……付き合ってくれるかな?君とは買い物に行くのが僕なりの誠意で、……付き添いが必要になるんだ」

「つ、付き添い?」

「あ!その。女の人というわけじゃなくて、難しいんだけど。今、色々やってるみたいだし。ぼ、僕の近くにいれば、大丈夫なはずだ!!君にとっても!」

「????」

「う~…………い、言い辛いんだけど、こ、これが限界かな。というか、その人が今大丈夫かどうか……」


悩み方がなんだかな~……個人的な理由が占めている感じだ。それも複数系。とはいえ、それで買い物ができるというのなら


「いいよ!とにかく、買い物でいいんなら!!」

「分かった!じゃあ、すぐにその人が大丈夫かどうか、ちょっと確認してくる!!」

「え!?」


そういうと勇者は目の前で、転移スキル、”インドラ”を使用して瞬間移動してしまう。そこには自分の気恥ずかしさが混じっていた。


◇         ◇


バサァ    バサァ



「蝙蝠の大翼が羽ばたくところなんて初めて見たな~」


僧侶、王様。2人があんな勇者と結婚できる女性を捜しつつ、命懸け&精神の擦り減りが起きている中。


天使ちゃんだけは、相手方からの意向から巨大な蝙蝠がお出迎えしてくれた。さすがに王国前でこんなものを寄越したらやばかったので、別の場所でその手続きをしていたわけだ。

こうしてくれるまで、天使ちゃんを迎え入れる = 勇者に対して並々ならぬ興味がある存在がいるということだ。武力に関しては、それはもう引く手数多と言えるが、その性格が使い辛い。ある意味であの王様があって、利用価値のある存在だ。

そーいった類ではないし、王国とはまったく無関係と言える。天使ちゃん独自のルートだ。

彼女からすれば、姪っ子みたいな感じの子だ。そういうと


「人間よりかは長い生きしてるだけです。天使としての歴が長いんで」


本人は気にしないけれど、自分のお知り合いを紹介するといったところだ。

出迎えに巨大蝙蝠を派遣するところからも、お相手の格というのは非常に高い。勇者と釣り合うだけのモノは確かに持っている存在なのだが……



それを紹介するの……?


と言わざるおえない向かう先に、空を経由することで国をいくつか超える必要性。何よりも


「勇者様に興味ある方と言えば、自ずと限らせますからね!あたしってば、最高の相方を見つける、キューピッドができてます!」


上司である女神様は、王様の方に意識を向けちゃっているせいで、こっちの方には意識が行ってなかった。危険人物ってか、危険過ぎるだろって言えるのだが、いや、もういいか。



「お待ちしておりました!!天使様!!姫君が大層、喜ばれております!!」

「そ、そんな仰々しくしなくていいよ。あたし達、友達じゃ~ん!?」


巨大蝙蝠が天使ちゃんを届けた先は、ご立派なお城である。出迎えの執事様達もいるほどだ。だが、城の周辺では


「まだ城の外の復興が完全にはされておりません。あれから8年経っておられるんですがね……今やかの血筋を持つのは姫君1人。その血を持つ者を求めている現状です。そこにお見合いのお話を持って来てくれたとあれば、姫君の断腸の思いある決心。皆が納得しております」


戦場跡地と呼ばれているような荒れぐらいであり、象徴たる城だけは以前の通りにされているだけと自虐。壊すのは得意でも直すのは大変だ。

何か手伝いになれる事と言えば、ここの姫君と勇者の婚姻は渡り舟であり、姫君も個人的に勇者に会いたかったのだ。


「おおーっ!天使ちゃん!!待ってたよー!!」

「わーっ!久しぶりー!大きくなったねぇー!!」


可愛いじゃれあいは程々に……。ちなみに天使ちゃんの友達発言は、執事様の方に言っていた。


「早く、勇者の話を聞かせてくれ!結婚相手を探しているんだって!?こんなあたしを、推薦してくれるんだよね!?」


来賓の間にて、天使ちゃんと久しぶりの再会を果たした姫君は……姫君は……非常に小さい体であり、天使ちゃんですら小さいのに、それよりも小さく、明らかに幼いと言えるような言動と体躯。なによりも、額に赤いルビーが埋め込まれ、こめかみの付近には2つ角が出ており、特徴的な八重歯。雷でも纏いそうな黄色の短髪。

彼女は……


「勇者はあたしの父を討った、かたきとなる男だからな!!色々な話しをしたい!!父の事をもっと知りたいからな!!」


8年前、勇者が倒した魔王の娘である。正真正銘、魔王の娘であり、10になったばかりのとても幼過ぎる女の子。

よりにもよって、勇者によって家族を奪われたそんな子を、勇者の結婚相手と紹介する天使ちゃんであった。つまり、天使ちゃんが今いる場所は、魔族達が住んでいる。通称・魔界である。


◇         ◇


ワイワイ…………


お互いの身体に触れないという条件。これは万が一、君を巻き込まないためだという。

だけれど、そんなに離れなくていい。その条件を呑んでくれたら、その、……できる限り、君の欲しい物を買ってあげたい。


その言葉を笑顔で受け入れてくれた。

だったら、この世で今一番欲しい物を頼みたい。それでいいのかな?って思う事があっても、お互いじゃなきゃダメじゃないかってすぐに返してくれる辺り、この子も強欲一筋ではなかった。


しかし、それにしても。てっきり、自分の近くにいるのかと思ったら、少し離れた距離で付き人というのがいてくれるらしい。デートに見張りなんて、なんて変わった事だと思うし悪い気はしない。存分に見せつけてやりたいくらい。そいつが誰なのか教えてくれなかったけどもね。


パクッパクッ


緊張多めだからか、舌が鈍ってしまう。でも、甘くて美味しいのは確かだ。まさか、チョコクレープを2本頼むとは思ってもみなかった。庶民的で、こーいう過ごし方も男女のやり取りだとは想像の1つではあったけれど。

別の意味ではあるけれど、自分が作ってあげた料理を食べた時に見せてくれた笑顔とはまた違う笑顔を見せてくれた、単なる味から伝わるものじゃない。一緒にいるという安心感とかの笑顔に近い。


チャッ


そんなに覚えているのか?っていうくらい。お前が選ぶ可愛い服が欲しいって言ったら、初めて会った時に着ていた衣装を頼んだ。バニーガールの服を着て欲しいって、こっちは実用性やらとかを少し思ったけれど、可愛いと思ってくれたなら欲しいものだよ。

とはいえ、そんなニッチなモノを平然と売っている店を勇者が知るわけもなく、あたしが案内する。結構アレなお店を選んでやる。バニーガールだけじゃなくて、女王様とか、忍者とか、侍とか、なんならド助平な奴とか……はははっ、こいつの反応がちょ~っとだけ動いてくれるのがいいや。

バニーガールが一番じゃないだろ、勇者。



全部買う?って言ったら、それでよければってさ。思い切って、買っちゃうよ。なにをそんなに笑ってるんだか?色んな服ちゃんと着て見せただけだよ。店側には悪いけど、少し時間経ったら友達とかに安く売り飛ばすだけだからね!言っちゃたからね!……ってのに、その姿を見れただけでもから良かったって?

こいつ、良い性格をしてるよ。

好みじゃないけどさ。やっぱり、万が一でキープする男かな?


「ありがとう。楽しかったよ。こんなに服買ったのは久々だし、ご馳走ばっかりだった」

「…………こっちも……楽しかったよ。慣れずに疲れたけど……」

「お前、良い奴過ぎるよ。そこがちょっと残念だけどな。ほんのな。ただ」


また会えたり、あたしを選ぶんだったら


「バニーガール姿で出迎えてあげる」


こうして、勇者と遊び人ちゃんとの同棲生活が終わるのであった。

勇者は次の相手を決めることにする。



◇         ◇


彼女が選ばれる前のそんなお話


「私は忙しいんだ!そんな暇などない!!」


たかが、くじ引き。それくらいならできるが、その結果などできるわけがなかった。なぜなら、忙しいからだ。

婚活、ナンパ、ましてやデート。私は異性としたことがない……。

生まれてから勉強、勉強、勉強。運動、運動、運動。活動、活動、活動。家族のため、将来のため、自分のため、私の全ては私のためにある。



「くじ引きはいいが、勇者との同棲生活なんてやらないからな!!こっちはスケジュールがバッチリ決まってるんだ!!まったく、男って奴は……!!こんなもので……!」


……自分が女性だとか言われてもだ。そんなの関係ないって跳ね返したいくらいだ。自分に手を抜くなどできず、それこそが自分の生きる目的なのだ。目的があって、生きているのが人だからだ。

今の私には多くの責務がある。積み上げたモノがある。

それが自分のことだ。自分のためだ。


「’208’」


こんな、くじ。破いちゃっていい。けれど、持っておけと法が決めたなら仕方ない。王国はいつもロクでもない。もう王国に頼ってばかりではいけない。自分自身で生きていける術が必要なのだ。

平和ボケを悪く言わないが、融和などということはそれに至る結果がお互いにあってこそだ。結果のない理想論では、いずれ廃れる。お金という存在価値で保たれていただけに過ぎない、信頼関係は長く続かない。だから、死ぬまでそれで装飾する。


「バカバカしい」


恋愛なんて価値。さっぱり、分からない。良い男なんて出会った事がない。軟弱な奴ばっかりだ。

そうして、そうして、……過ごしていたらか。

私は、私は、


ブツブツ……


「!誰だ?」


コンコンッ


いきなり、そいつが現れた。


「に、……’208’の方ですか?」


自室のドアをノックする者に警戒しない奴などいないし、ここ会社内にいる知らぬ男の声


「不法侵入者だーー!!」

「えっ!?いや、僕はですね!!」

「警備の者!早く来てくれ!!」

「な、なんでドア越しで分かるんですかーー!?」



これが、私と勇者の出会い。

職場恋愛とは、会社内で出会うことではないだろう。そのまま会社に乗り込んで来たよ、こいつ。



そしてこれが、勇者と彼女の出会い。


商業娘ちゃんとの出会いと同棲生活の始まりである。

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