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ヤキモキヤキソバだ、バカヤロー~遊び人ちゃんついに自分の料理を口にする~

「”1に習いで、2に慢心、3に惰性”」

「なんだその呪文は?」


勇者は口にした合言葉は、師からの教えである。


「人が上達する時の機会なんだって。初めて習う時は大変じゃないか。それでできた時はとっても嬉しいんだ。ただ、だんだん慣れてきて、慢心する。その時の失敗を乗り越えると、また一つ成長する。……それから惰性になるまでの期間が長いんだけれど、この間でどうやって変わるかを決められる時、また一つ成長する」

「…………は~~、継続は力なりって事で良いわけ?」

「だいたい、そうだよ」


…………!


「ごめん」

「え?」


遊び人ちゃんのペースに巻き込まれた感じで、自分の中の言葉がちょっと乱れてしまったと反省する勇者。人に教える時というのはどうしても、心をこめる必要があるようだ。


「しかし、焼きそばパンねぇ。というか焼きそば作り?」

「君には良い料理だと思うけど……お手軽で包丁と火を使うから勉強になると思う。野菜は複数切ると良いよ」


というわけで、勇者が用意してきたのは玉ねぎ、もやし、にんじん、ピーマン……の四種類の野菜とベーコンの5枚セット。当然ながら、焼きそばの麺である。ちょっとやってる人からすれば、焼きそば作りなんて簡単だろうって思うが。

料理なんてまったくした事がない、遊び人ちゃんにとっては強いくらいの面倒感。

料理を食べるのは10分~15分だってのに、作るのは30分ほど……これホント、たりぃな~。そんな表情になるが


「焼きそばはおかずにも主食にも活かせるから、作れるだけでタメになるよ。調理時間は慣れたらもっと早くなるし、1日くらいなら保存ができる。お祭りとかにも出されてるんじゃないかな」

「分かったよ~。分かった分かった!」


まずは調理道具を出し……。

包丁とまな板、ホール、フライパン、サラダ油、塩胡椒。……ちなみに、塩焼きそばにする模様。包丁を手に持つ遊び人ちゃんはかなり不思議そうであり、火はともかくとしても、本当に危ない感じの目になっている。


「なにから切るんだ?」

「ピーマン、玉ねぎ、にんじんが最後。もやしはそのまま」

「猫の手とかいう形で切るんだよな」

「そうそう……あ、そこから切るんじゃないよ」



包丁の持ち方は分かっているが、野菜をどう切れば分からない。いきなり中央をぶった斬ろうとするもんだから、勇者が止める。ヘタの部分を斬るように促し、遊び人ちゃんは斬り落とす。


「うへ~、ピーマンの中身ってこーなってたの?種ばっか~」

「中央で切ったら面倒だからね。その種の部分を手で取り除いて、水で洗う」

「ふんふん。水つめてぇー」

「暑い日は気持ちいいよ」


言われた通りに野菜を切っていくけれど、当たり前の事でそう思っていなかった遊び人ちゃんとして、


「野菜の切り方にも色々あるんだね」

「色々あるよ」

「た、玉ねぎを切ると、涙が出るんだろ?それ知ってるぞ。超こえぇ~!」

「大丈夫。玉ねぎにある硫化アリルという成分は、冷やされているとその発生を抑えられる。皮を剥いた後に30分ほど冷やすといいよ。料理は待つ時間も大事になるし、その間にできることもある」


おっかなビックリに玉ねぎを切る遊び人ちゃん。……冷えている玉ねぎを切っても


「あんまり目に染みないな」

「だね」


切ってるだけなのに、結構な時間が掛かってしまったかと思えば


「にんじんをそのまま1本剥くのは難しいから、4等分……手に持ちやすいサイズにしてから包丁で皮を剥こう。にんじんは皮を剥いても固いから、食べやすいように小さくね」


トントン……


切った野菜をホールに入れ終えたら、フライパンに火をかけて、油をひく。熱される前に水を用意する。


「なるほど!焼きそばをほぐすために水がいるのか!!」

「う、うん」

「カップ麺と同じ原理ってわけか!!」

「あとはここに作り方が載っているから、その指示に従って調理すれば大丈夫だよ」


ジュアアアア


フライパンに野菜を投入。菜箸でかき混ぜていく……。こーいう時


「野菜の色とかを見ればいいんだっけか?」

「玉ねぎやもやしは変化が出やすいよ。水分が抜けて、少しくすんだ色になったり、小さくなっていくからね。そーいう変化が見えたら、麺を入れ、そして。水を入れてほぐすといいよ。ほぐし終わったら、粉末の元を入れよう」


……遊び人ちゃん、ついつい言ってしまう。


「ここまで来たらカップ焼きそばとあんま変わんないじゃん!!えーっ!?簡単じゃねぇか!!」

「火を入れたら5~10分くらいだよ」

「そう聞くとカップ焼きそばすげーな!!3分くらいでできるのかよ!!」


その3分程度をどう思うかではあるが、料理のことを難しく考えていたと思う遊び人ちゃんにとっては、良い発見であった気がする。少なくとも、


「やばっ!旨そう!!」


出来上がりを楽しみにしている瞳は、確かに輝いていた。


◇        ◇



「胃もたれが……うっ…………」


そんなことをあっちに聞かれたら、雪崩で死にそうな身体が燃えて、烈火の如く怒りそうである。王様はとても気分が良くなかった。良いわけがなかった。

元妻に会いに行くだけではなく、勇者の相手を紹介されるという計らいに……気まずさがハンパじゃない。僧侶や女神様にとっては、悪い人どころかとんでもない聖人扱いに当たる人物ではあるが、悪政を敷いて来た王様や……元勇者の母親であるということで、勇者も苦手としている1人である。


「吐き気もする……こ、これは王様にあっていい、健康状態なのか……ふぐうぅっ」


この邪悪な王様をして、非常に困った相手。

手紙に赤い色の字での脅迫としか言えない呼び出しに、……逆らうわけにも行かなかった。渋々近くまで行って、体調不良を理由にUターンしようという魂胆を考えた王様。

そんなに嫌なの?って同行する部下達。彼等ですら


「妃様は素晴らしい方じゃないですか」

「王様にはもったいない女性だと思います」


そりゃあそうですって言いたいレベルだ。この悪政王よりも政治ができる奴は大勢いるだろう。しかし、そんなこったは王様自身も分かっているが


「国民共に怒られるよりか恐ろしいんだ!!王様と同格の意見を持てるというだけ、権力においては脅威なのだ!!幾度も幾度も…………」

「民に善政を敷いていたのは妃様ですからね」

「民に慕われているのは妃様ですよ。いちお、王国兵としては減給とか民を思うのは嫌なんで、王様を支援してますが」


女性としてだけでなく、人としても素晴らしい人格であり、この王国においては善政を敷いていたという素晴らしい人物。また戻って来てほしいと願う民達も多くいるのだが、王様からすれば正直会いたくもない。喧嘩別れしたのは事実であるが、まだ向こうはこちらを気にしているようだ。



勇者の子供 = 王国の後継者 = 妃様の子ではない



あの勇者がまともでないのは確かだが、こんな悪い王様のような振る舞いをするとは思えないのであるが。妃様の子の方が民に優しく、王国を栄えさせれると思える。おそらく、そんな狙いもあって話というの名の呼び出し。


「外圧による内政干渉は良くないものだ」

「外圧をかけられるくらい、酷い内政なんじゃ?」



で、その妃様というのはどのような人物なのか。

今は王国から離れ、彼女が生まれ育った故郷に帰っている(王女としての待遇である)。2人は政略結婚ではあったが、夫婦仲は良い方ではあった。妃側の思い込みかもしれないが


「……久しぶりね。会いたかったわ」


部屋を見上げる妃様は……眩い星達を見るかのように


「いえ、久しぶりではない、こんなにも近くにいたのですもの、あなた」


小さい頃から現在に至るまでの、王様の成長記録と言える写真やら、彼がつけていて着れなくなったり、汚れてしまった衣類やら、飽きてしまったり読み終えたりした貴重品、受け取った品物などがこの部屋中に展示されているのであった。

よーするに


「儂に対して、病んだ愛を持っているのが嫌だ」


王様ですらドン引きするほど、自分に対して異様な愛情を向けて来る人物なのである。

その本性を知っている人物は数少ない。

もちろん、勇者は知ってるし、なんなら勇者ご一行のメンバーと僧侶だって、その愛情の強さを知っている。だが、勇者に対し


ドスゥッ


「あの人が浮気するなんてぇぇぇ、あり得ないぃぃぃっ、ぜ~~~~~~ったいに、殺してやるぅぅ、認めないわよ。絶対に~~~~、勇者は必ず、殺すぅぅぅっ」


王様に関する物をいくつも展示している部屋の片隅には、……勇者の写真が1枚張り付けられているのだが、その顔は何度もナイフで刺した痕があり、彼の存在が妃様にとっては精神をブチ折るには十分過ぎる存在。

彼の子を後継者にしようなどと、王様が好きな彼女が許すわけもない。


王様から直々にフラれようが、決して……。その愛は変わらないのだ


「あんなヤバイ性格をしているんだぞ!!儂が言うのなんだけど、妃様はダメ人間だよ!!外に出しちゃいかんよ!!あんな究極な病み姫!!外には、……絶対に記事や情報の中でいるようにしてくれなきゃダメだ!!」


王様からしたらとんでもねぇ女性認定な事に違いないのだが、……前述している通り、妃様は素晴らしいくらいに政治力が高い人物であり、王国の事を思える良識のある方なのだ。

それもそのはずで


「儂が王様として居られるように、王女として政治主導しておったのだぞ!!とんでもないくらい勤勉なんじゃぞ!!儂がどんなに悪い事を企もうが、それをチャラにするくらいの政策を瞬時に実行する!!……悪辣さと非道さに関しては儂なんか足元にも及ばない!!」


民に重税を敷いている王様からすれば、そーいう評価になるし


「愛ある儂を苦しめて良いわけがない!妃様と国民のために儂が苦しめられるのは、いかんだろうが!!」

「王様が苦しむだけで国民達が潤うんだったら、別に構わないのでは?」


国民達からすれば、王様がただ一人苦しんでくれるだけで、良くなるというのなら妃様を推したくなるのは当然だ。国民の苦しみを王様に伝えられる……別の意味ではあるが、数少ない人物。

そんな方からの勇者へ紹介する、女性とは……。


「嫌な予感しかせんわ」

「でも、楽じゃないですか。妃様の事ですよ。王様と勇者様以外のことはちゃんと考えて頂けることですよ。そのためにも不幸になったらどうですか?」

「なんでだよ!!今の勇者だって、妃様の事、苦手というか嫌いだからな!王族関係を恐れているのは、彼女のせいだからな!!言っておくがな!!」

「妃様からしたら許せるわけないでしょうが」


そんな嫌々を言っていても、……そこに向かっていて、着いてしまう。

こんな王様達を出迎えてくれる者達が



「「「よくぞ参られました!!」」」



妃様のご命令で、王様達を歓迎するように言われた者達であった。王国でもこんなことは滅多になかった王様にとっては


「は、はははは…………」


渇いた笑いしかなく、その最奥には


「おかえりなさい♡あ♡な♡た♡」

「…………………」


妃様と……勇者の見合い相手となる人物がいた



◇        ◇


「旨いなぁー!あたしの作った焼きそばパン、うめぇ!!勇者様の教えが良かったよー!!」


お昼は遊び人ちゃんが半分、勇者が半分作った、焼きそばパンを食べていた。

ムシャムシャと幸せそうな顔で


「ファーストフードと変わんねぇ!売れるんじゃない!?」

「それは自分が作ったからだよ。さすがに味は……」

「マジレスすんなよぉー!そりゃあ、具材やソースがねぇけど!十分過ぎるよ!」


大きすぎる夢まで口から出るくらいのものだ。


「はーっ!食べた食べた!野菜とかちゃんと食べたの久々!!」


人の多くは飯を食うかで変わってくるものだ。


ジャブジャブ…………


飯を食べたら勇者がその後片づけをし、遊び人ちゃんはまたブラっと村の外を出歩いて行った。その顔は最初に来た時よりも、大きく違っていて。……それを言うと、彼女を見る目を変えている勇者でもある。

彼女との会話はかなり少なく感じていたが、静寂の喜びとは違って、ある程度の距離間ある付き合いになれたかなって思っておく。

3日間のもう半分。いや、勇者にとっては1日もなく終わりだろう。

最初こそハチャメチャやっていた、遊び人ちゃんもそれに気付いたのだろうか。明らかに楽しそうに外を眺めているより、関心を持っている顔つきだった。


「………………」



サ~~~~~ッ



「やべっ、眠ぃ……」


気持ちいい風に吹かれ、木に寄りかかって眠ってしまう。勇者に負けじと緊張感を持って寝ていたせいだ。それにいつもはこの時間……


ソッ…………


「日が沈めば、風が冷たくなるよ」

「す~……す~……」

「夕飯を作ってあげないとね」


昼から夕方にかけてはお互いにとって、静かで落ち着いていた時間となっていた。その時になって、勇者も自分が思っているとおり。興味がないという思いが、良い意味で一致していた。

こーいう感じならいい。こーいう感じでいい。

遊び人ちゃんに毛布でもかけてあげて、夕飯の支度として畑の野菜を収穫しに行く。



そんな時間はとても大切なモノだと思っていたのだが……。勇者はやっぱり後悔する。



「勇者~、子供の作り方を教えてやるぜ~」


料理中に話しかけるのは、100歩譲っていいが。


「包丁握ってる時は」

「もう夕飯か?早くないか?お前、随分と健康的な生活習慣だな。爺くせー奴」

「…………不健康は良くないものだよ」

「そりゃあそうだな。で、子供作る?」

「あのね」


そーいう発言・行動を封じている結界を張っているのだが、抜け道はあったと知った。子供がご理解できる程度のことだと、普通にすり抜けてしまう。遊び人ちゃんは子供のように勇者に絡むこと


「怖いから夜を明かそうぜ~!先に言うけど、あたしは朝には帰らないから!!3日間って言ったら!明日の夜までだ!勇者絶対、0時になったら戻す気だろ!2泊三日って言葉知ってる?」

「……だから、昼寝してたのね」

「それはあたしのルーチンなんだけどね!!っていうか、夕飯作るならあたしが希望出したかった!餃子!ウナギ!赤飯で!!」

「全然合ってないじゃないか」


なんていうか、楽しんでいる方だ。

自分がそーいうタイプじゃない事を見抜いている。つまんない男だと、彼女自身分かっているはずなのに。こうも明るくいられるのは、……羨ましいことだ。


「なぁなぁ!!その結界とやらを解除して、夜を明かそうぜ!!あたし、教えられることとしたら、夜のことしかないからさ!!勇者!!さっさと夜の勇者になってくれ!!」

「あのね……」


早く、くじ引きを引きたいなーって思ったよ。



そして、

夕飯からお風呂、寝床のところまで……遊び人ちゃんは勇者の事などまったく考えずに、彼と思う存分に話をしようとするのだ。それにはさすがに勇者はウンザリ&ウンザリであったが……無碍にはできず、うんうんっと頷いたり、遠い目をしながらも遊び人ちゃんの相手をしていた。



は、早く終わってくれ~~!!


「勇者ー!!大好きだぞーー!!」


エッチができないのなら、女性が喜びそうなことを自分なりに勇者に伝えることを遊び人ちゃんはやってくれた。勇者の無関心ぶりの性格に、少しだけだが、嫌だとか好きだとかの感情が生まれたのは確かだと思う。


「さぁ、告白の練習!!勇者なんだから、こーいう練習もね!」

「す、好きです!」

「声が小さい!!」

「好きです」

「感情が入ってない!前より声小さい」

「好きです!!」

「あたしは嫌いです!!もっと、愛をこめて!!」


お互い、相容れないであろうが。

相容れなくても話せる相手というのはいるものだろう?


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