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勇者、ベットでいようぜ~遊び人は遊ぶだけのこと~

「わーーーー!?な、な、なんだこの村ーーーー!!?すっご~~~!!」


雲に乗って空を移動する時も大はしゃぎぶりに、勇者の村に着いた時の驚き方もハンパではない。

遊び人ちゃんは大興奮で叫んでしまう。


「やっほーーーーーーー!!!……すっごー!声跳ね返るじゃん!!マジ田舎!!あたし来た事ないわー!!虫とか魔物とか、マジ無理なのに!!勇者が傍にいるとか安心安全じゃん!!」

「す、すごく喋るね……」

「これ驚かない奴いないでしょ!?これ全部、勇者が作ったんでしょ!?鬼すげーっ!!やっべーっ!景色やべー!!ほとんど畑ってマジ!?うわーーー!!すごーーい!!どれだけ野菜採れてんの!?勇者ってどんな生活してたらできんのよ!!」



褒めてることはしっかり褒めているのだが、どうにも受け入れがたい五月蠅さ。

やっぱり苦手だ。自分の方がこの3日間、憂鬱になってしまう。村に着けば


「この手作りな家の数々!!マジすげーーー!!写真写真っと!…………んん?あり?」

「ご、ごめん。転写機能はいいけど、みんなに情報を送るのは止めて……」

「なんでよー!!マジでこれ凄いから!!」

「ぼ、僕の家だからさ。ここに人来ると、平穏が乱れる」

「人来た方がいいよー!ここ絶対、みんなを助けられる空間でしょ!!というか、私のスキルを妨害できるとか、勇者って多芸じゃん!」


自分の情報拡散を止められたのは初めてで驚いたが、


「絶対にみんなに知られるべきだよ!勇者って魔王を倒すだけじゃないって!!畑耕せますって!」

「…………………」


勇者の顔に


「それはホントに止めて」

「嫌だ嫌だーー!!あたし、めっちゃ凄いってこと自慢したい!!」

「う~~ん……そ、そうだ!畑でも見に行こうか!そ、それから僕に閲覧させてから、発信するって決まりでどう?」

「やったーーー!!うんうん!良いよ!!確かにヤバイのはあたしだって、発信しないから!よーし!畑行こー!畑とか初めて見るよー!!」


ちょっと焦った顔になってしまった勇者。この子にはタジタジにやられそうだ。ここに来て、天使ちゃん達が言ってきた事が理解できた気がする。

村人ちゃんってすっごく良い子だなぁーって。

そして、今までの付き合い方からちょっとは人の事が分かった気がした。


「うへ~~~!あたしが苦手な野菜がこんなに色沢山なんだね!?」

「…………うん。野菜嫌い?」

「いやぁ~。野菜はダメってか、ドレッシングかマヨネーズないとダメなの!ハンバーガーとかの炭水化物と一緒なら、ちょっと平気かなってくらい」

「……そういえば、畑を初めて見るって言ってたね」

「あたしずーーっと、王国の街の中で過ごしてるから、魔物はそーいう飼育施設とかで見た事あるけど、山とか海とか、そーいうところは生まれてこの方行った事ないの!土の上歩くとか汚れるじゃん」


勇者は迷いなく畑の中に足を踏み入れるが、遊び人ちゃんは道のところでしゃがみこむ。村人ちゃんは普通に入って来たから違和感。大根を栽培している畑から一本引っこ抜くと


「うひゃあーー、土塗れだけど、白い大根でてきたー!これ全部大根畑!?」


ホントに農業に興味がないけど驚ける彼女に、自分と似たところを感じてしまった。君から見る僕と、僕から見る君ってこんな感じなのかと。


「へーっ……ところで、ここにあたし達以外の人はいないの?なーんか面白い娯楽施設はない?カノジとかバーとか、……ゲーセンとか!」

「そ、そーいうのはない」

「へーーっ、じゃあ、猟師さんとか酪農家とか!動物と触れ合う系の奴!あたし、猫とか鳥類だったら平気なんだけど!犬もいいね!」

「ごめん。漁師とかいないし、猫とかの動物もこの村にはいないよ」

「ええええぇぇっ!!?」


これには村人ちゃんと同じような驚きではあったが、抱いた気持ちはかなり違っていた。これだけの広い村で、ど直球に


「こんな寂しい場所ってないんじゃない!?」

「…………う~~ん、そ、そ、そこが僕にとってはいいんだけれど。静かだよ」

「無理無理。静かにするのむ~~り~~!!ひゃ~~っ、あたし簡単に喜んじゃったけど、大変な同棲生活だ、こりゃ!」

「ご、ごめんね。こーいう場所なんだ」


農業やこーいう静かなところが好きな人にとっては、確かに好みそうな場所ではあるが。騒がしいところが好きな遊び人ちゃんには、ちょっとストレスが溜まっちゃう場所だ。くじ引きに当選して、報酬がもらえるまでは良いところだが……これと同棲という気持ちより、こんなところに住むってのはちょっと


「服を見に行きたいんだけど」

「服?女性用のは王国からお借りしてたけど。汚れたかな?」


畑に飽きてしまったか。

このような女性側の要望に応えられるように、僧侶から女性用の衣類を預かっていた。初めから持っているわけではない。

自分の家の方ではなく、完全に物置として使っているようなところに遊び人ちゃんを案内し、


「こーいうのしかないけど、……沢山もらったから好きに見て」

「ほ~~っ、勇者様もこーいう趣味あるんですね。ブラジャーにパンツまでご用意しているなんて」

「いや、同棲するから服は多めに揃えておけって、王国から言われた」

「ははは!分かってる分かってる!あなた、たぶんあたしの事苦手でしょ。ってか、一度も目を合わせられないね!」

「!……あ、そ、そうかな?自分としてはしてるつもり」

「それならそれでいいよ!あたしの基準ってなだけ」


農業に興味は示さなかったが、王国から取り寄せていた服の数々に目を輝かせて、選びながら見ている遊び人ちゃん。これで少しは大人しくなったかなーって、勇者もホッとし、畑作業でもしようと去ろうとしたが


「行かないでよ!」

「え?」


遊び人ちゃんはこの場でおもむろに服を脱ぎ始めた。


「期待しちゃった?」

「なにを?」

「下着とブラは取らないけれどね」

「なにが?」


遊び人ちゃんはこの服の数々に素早い手つきで早着替え。普通の男性ならラッキースケベタイムとなるのだが、勇者は無反応過ぎるものだった。


「で、どう?可愛い?見た中でこの服が可愛いと思ったんだけど」

「うん、可愛い」

「マジ?んじゃー、いくつか試着するから、勇者は見ててよ」

「え?……いや、可愛いよ」


遊び人ちゃんからすれば、男の子の可愛い反応を楽しみたいプレイだったのだが、勇者には彼女の身体に興味が湧いていない。可愛いものは可愛いとしか、ホントに具体的な言葉では表現というのが思いつかない男だ。なによりも、異性への興味は薄い。ある程度の倫理観は持ち合わせている。


「んんー、まぁ普通にする分には良いけれど。普通過ぎるってか」


バニーガール姿だって仕事と言われれば、着てしまって接客をしようとする彼女だ。


「よし!服の買い物に行こう!!勇者!!ショッピング!!」

「へっ!?」

「同棲って結婚間近!!一緒に出掛けるのも当たり前!!勇者、さっき空飛ぶ雲出せたんだから、夜までパーーーっと、服を買って、お酒飲みましょ!!タバコも4箱くらい買っておこう!!」


完全に君の欲望じゃないか……。

そんな気持ちは一瞬だけであり、さすがの勇者もそんなことは


「それはできない!!こ、この村で過ごしてくれ!!」

「えーー?なんで~!?」

「いろいろと僕にもあるんだ!”まだ”ここじゃなきゃ、ダメなんだ!!」

「む~~っ……」


そういえば、結婚の手引きにあったが。常に女性ファーストではいけないこと。自分がダメだと思った事はしっかりと伝えるのが、良き相方であると。

しかし、勇者は……そんな言葉を持ち合わせていない。自分にも譲れないところがある。


「じゃあ、しょうがないなぁ。でもね、勇者さん」

「うん」

「女の子のエステとショッピングは、この世の幸せなんだからね!!結婚したら、一緒にしましょうよ!!」

「……ま、前向きというかなんというか。…………僕ね。君が苦手だ」

「あははは、なんかおかしくない?勇者様ぁぁ~」



この場は遊び人ちゃんの明るさと無軌道な性格のおかげで、エステとショッピングの約束は、本当に結婚したらという約束で流れてくれた。しかし、この子は絶対に選んじゃダメだと、勇者の心の中では100点満点をとってしまった。


◇         ◇



「お、おおおーーー!!勇者様!!凄い良い引きじゃないですか!!こーいう子を待ってました!!僧侶の作戦、大成功です!!」


一方で今日の監視役を任されていた天使ちゃんは、次の勇者の同棲相手となる遊び人ちゃんの様子を見て


「〇ッチですよ!〇ッチな娘を引きましたよ!!」


監視して得られる情報で、一曲踊っちまうくらいのハイテンションになる。勇者に今必要なのは、こーいう積極的な女だ。受け身が強すぎる勇者にとって、こーいうグイグイ来る奴は苦手ではあるが。内面で語ろうとする男など、総じて


「あいつ等、女に興味ねぇし、女もそいつ等なんかに興味ねぇもん!!」


内面を見るという奴等に、結婚なんかできねぇっていう最もらしい理由を口にしてしまう、天使ちゃん。外見から知れる人間になろうというのは大事であり、外見から知ろうとして中身を知るのが付き合い始めというものだ。

勇者は中を知ろうとしない、もうこれね


「ふわふわした中身だけ見れば良いんだろって!?優しい人間なんかこの世にはいねぇんだよ!!」


…………あんた、天使だよな?


「ともあれ、これはチャンスです!!この遊び人ちゃん!!ヤッてやるのです!!お食事、お風呂、就寝中に!男女のムフフで過激な愛の遊びを、この色恋沙汰に興味のねぇ勇者に教えてあげるのです!!」


失敗を考慮した上で、女性を扱うには……それを知ってる女の子なり、情報を得ようという意欲がいる。後者は時間が掛かる以上、前者をガチャで期待するしかなかった状況。

勇者はこの状況でも言った事や決めた事は守ろうとするタイプであるし、逆に条件に入ってない事は守らない。


「というか、勇者様!なんでショッピングをされないんですか!!村にずーっと居たい理由、あたしにも分からないんですけど!?……もしかして、畑の手入れが必要だからとか?」


◇        ◇


「う~~ん……」


遊び人ちゃんは服選びにも飽きてしまったのか、ちょっと一人で村の周りを散策すると言い出した。……こう言っちゃなんだが、勇者の実力なら遊び人ちゃんが何処に居ようが、この村全体なら分かっている。


とはいえ、勇者もさすがにマズかったなって思った事があった。


『女の子のエステとショッピングは、この世の幸せなんだからね!!結婚したら、一緒にしましょうよ!!』


遊び人ちゃんとはたぶん、行かないだろうけれど。もしも、自分がそーいう相手を選ぶ時。一緒に出掛ける事ができないと、説明するのは良くない。この村の中でなら良いんだけれど、他の世界を一緒に歩くなんて、……今の自分にはできない。

結婚とは容易な事じゃないなぁ。自分の理想に縛り付けるなんて、とても罪深い事だ。


「……………」


もしも、自分と同じような人がいたらと思ってしまう。


ぐぅ~~~……


「あ~、お腹空いたぁ!眠くもなってきたし~!勇者ー、飯でも食いに行こうよ!!」


そんな悩みを晴らしてくれる我儘な可愛い声で叫ばれる、遊び人ちゃんと言えど、空腹には弱く。空腹に飢えるような人物でもない。事実を重ねているが、どっちかと言えば


「ご飯食べに行こーよー!!男だったら、ガッツリとした肉とかいいっしょ?ゲバブって知ってる?」


パンと野菜で肉を挟んでソースがのった、パンと野菜と肉のハイブリット料理だと、遊び人ちゃんはよだれを出しながらジェスチャーで表現する。


「作ろうか?」

「作れるの!?……っていうか、そーじゃねぇでしょ!」


すげーな、勇者って顔は出すものの。遊び人ちゃんの言いたい事は分かる。


「”食いに行こう”ってこと!!パーッと遊んで、輝くモン見れば勇者も価値観変わるよ!!ケバブも食いたいけれど、勇者と食べに行くのが目的なんだ!!」



遊び人ちゃんのやり方には、……勇者も僧侶達からもらった手引きにも書いてあった。食べたいのではなく、出かけたい遊びたいというのが、相方が求める典型的な望み。経済力とはまた違っているが、……手早く、コミュ力。楽しい奴と一緒にいるってこと。


「そ、それはできないんだ……」

「でも、あたしを攫ってくれたじゃんか!!」

「それはそれ。これはこれ…………」


村人ちゃんに使った時のように暗示スキルを掛けて、外出はしないような精神状態にした方がいいのかな?でも、気付かれた時は大変な事になるし。自分も戒めている。

勇者は……


「ちょっと待って」

「ん?」


この場で勇者は同棲の手引きを出して、この状況でどーいう対応が良いのか。その事情を説明するには難しく、……遊び人ちゃんの行動力からして、ここで逃げても無意味だと分かった上でだ。急いで答えを求めた。なにか、ないのだろうか?

キッパリ断る事も相方の役目であるが、それを上手く伝える事ができないのなら、関係は難しいことだ。


「……う~~ん……」


”ここは嘘という建前でも”

畑や田んぼなどの手入れがあるから、この場からは離れられないと答えるのが無難なのだろうか。

ようは相手が納得できるという


「さっきからその本はなんだよ!」

「わっ!?」


勇者が悩んでいる時に、遊び人ちゃんはぬっと身体を近づけて、勇者の本を覗き見た。内容をすぐに理解したわけじゃないけれど、ブックカバーをちょっとズラして、タイトルをチラ見し


「同棲・婚活の本?」

「う~~ん」


当たり。本を掴んだ手が弱くなってしまったのは、彼女の興味がこっちに向いたからだ。


「け、ケバブを作るよ」


読書にお熱を出すようなタイプではないが、こーいう恋愛もとい婚活的な事には、少しの沈黙を出した遊び人ちゃんは、……家の中で待ってくれた。


◇          ◇


ジュ~~~~~~ッ



遊び人ちゃんにケバブを振る舞うということだが。専用の機材なんてないので、薄いパン生地にレタスを始めとした野菜と味付けした牛肉をくる形となった。

勇者自身も作った事はないが、こんな感じの料理だとは知っていた。さすがに本格的なモノには味などが劣るだろうと思っていた。


「出来たよ」

「ありがとう。さっきから良い匂いだったね」

「待たせちゃったかな?」


思った以上に時間は掛かったけれど、今日の料理は全部、このケバブという事になった。


サクッ


「んん~~……勇者様、これ旨いなぁ!!」

「お腹が空いているからだよ」

「いや!絶対、勇者の腕が良い!!店に出せるよ!!」

「……ありがとう」


サクサクッと……、遊び人ちゃんと勇者が同じくらいの速度でケバブを1本ずつ食べた後だ。まだ沢山あるからと、今度は遊び人ちゃんから勇者に尋ねた。出かけられない理由について、どーしても語れないというのなら、……聞かない事にするけれど。絶対にしようってのは、伝えている上で


「勇者様はモテないのか?つーか、勇者なんだから女なんて楽勝だろー?」

「え?」


外見の好みというのはあるが。勇者という格に、最強の戦闘能力、十分過ぎる生活力、金や土地や将来などにも困った様子もない。

妥協なんてすれば、すぐにでも結婚できるだろう基準を持っている勇者。それを台無しにしてしまう、コミュ障ぶりと女性や家族への興味のなさではある。


「う~ん。……実のところ、興味ないんだ。これは父上や王国が無理矢理僕に婚活を薦めていて……」

「断ればいいじゃん!ここの王様ってロクでもないよ!!」

「は、はい……まぁ、……断れば良かったよね。そうしてればきっと……」

「でも、恋って20~良くて30までの内!!そこからは打算ってもんだよ!この本にも書いてあるし!勉強になるなる!」

「色々、お世話な事を言うよね?その本……」


現実的ではあるけれど、とても現実で


「若い今だからできる事って奴は大事だよ!!」


そー思うのは誰だってそうだ。

今の自分で良いのだろうかと迷う事もあるし。じゃあ、決心して挑戦しようと高く跳ぶことが常に正解ではない。考えてそうなった人だっていることだ。

ダメならそれでいいとか、また戻って来れるなんてこと、勇者という立ち位置だったらよく分かっている事だった。


「あたしは今の内に玉の輿をする!!良い男をゲットしてみせる!!あと10年なんて言ってられない!!せめて、25になるまでに結婚!その翌年には赤ちゃんを産んで、……できれば4人!!出産の辛さとかまだ分からないけれども!!あたしは専業主婦というか、子育てお姉さんとしての人生設計をしている!!」


鼻息荒く、自分の事を理解した上で高らかに宣言している遊び人ちゃんだ。

かなり抑えた発言ではあるが、夜の事にも詳しいタイプだ。


「プラプラしてらんない!!年収のある良い男って、若い女に目が行くもん!!ちょっと過ぎたらいなくなっちゃう!」

「か、身体を粗雑に扱っちゃ、まずいよ。……お母さんやお父さんとかさ、大事に思ってくれる人もいるはずだから」

「…………でも!今しかない!!あたしって、男の人から見られてるから!!」


性格的に見られてるんじゃないかと、勇者としては彼女のようなタイプが苦手だからか思うことだ。それはそれとして、遊び人ちゃんの表情や気持ちが分かりやすくなるのは、口にケバブを入れる量からだ。

前向きで明るくて、お喋りな自分だからこそ。

勇者の悩みに協力できないけれど、3日間いる自分を知らないでくれる人。自虐するって事は、それだけ好きになった人には悟らせたくないことであり


「……あたしって、何ができるんだろう?……とか、考えるんだ」


本人からすれば、笑顔を繕ってる気がするけど。悔しいというか、空しいに近い感情だった。


「勇者みたいな料理はできないし、家事とかからっきしで……口を開けて、今この身体を遣って、その日の金を恵んでもらったり、時には盗んだりしてさ。カッコいい男に嫌われないよう喋って、身嗜みも気にしてもらうようにして、金とかやばくなったら……汚いおっさん達を喜ばせて、金をもらう」


勇者が興味のない婚活と同じく。遊び人も彼を異性としての興味に感じられない。あくまで遊び相手として、思っていただけに過ぎない。


「結婚して子供を産めば、それの続きになるって思ってたけど。現実そうとも行かないじゃん?フラれた事……違った、振ってやった事にも後悔ないんだけど。不安はあるよ」


そんな中で特別に相方を求めていない、勇者の姿勢には羨ましく感じる遊び人ちゃん。彼女にとっては、2人一緒に過ごす事が初めてでもない。


「その本に書いてあったけど。自分の好きな人と一緒にいたい人は別みたいだね。僕には難しいなぁ」

「好きな人なんていくらでも見つけられるんだけどね。自分を好きになってくれる人もだけど」


……だからこそ、その後者に関しては


「もし、自分を好きになってくれない人ばっかりになったら、怖いなぁ~って、……あたし思うから。勇者様。……そうなったら、付き合ってくれないかな?」


保険の保険の保険みたいな感じで、遊び人ちゃんから、結婚までのOKを言われる。

なんだろうか。

勇者もそーいう言い方には、なにかしら思うところはあるけれど。遊び人ちゃんの明るさからして言える事はある。


「君は僕よりも早く結婚できるよ。だって、僕と違って結婚に対して、前向きなんだからさ」


しおらしいところを見せた後は……


「勇者様は分かってるーーー!!でも、今の約束は忘れないでよねーー!!」

「あの、……25歳までにご結婚してください。なんか危ない感じがします」

「たーーーっぷり、食べるからね!」


ケバブをバクバクと食べ始めるのであった。それも勇者よりも数多く食べるくらいには大食いだった。


◇        ◇


ホントに遊び人ちゃんは家事とかをしないようだ。惨状が分かっているかのように、こーいう事になると逃げだす。それに付き合うというか、まったく気にしないでいられる勇者。自分がするからこそ、こーいった人を気遣うという事は無くて良さそうなのところに


「それはそれか」


たった3日間って話なら、付き合いやすい人物だと感じた。勇者は何かと自分でやりたがる人間であり、遊び人ちゃんは何かと人にやらせたがる人間。

絶対に合わないけれど、生活においては合うこともある。年下なこと(村人ちゃんもそうだったけど)を含めると、妹みたいな感じの方が良いんだろうか?

食後の片づけ、お風呂の準備、床掃除やらもする勇者。この時ばかりは遊び人ちゃんの自由奔放さに救われた気分だ。こーいう時になると隠れてくれそうだしだ。この同棲生活。遊び人ちゃんを女性としてではなく、客人として思えば大分気が楽だなって勇者は思っていた。


「よし」


これでお風呂もできた。

先に彼女に入ってもらった後、僕も入ろうかな。


騒がしかった1日だったけれど、こうして終わる時間とは平等なのだと勇者が思っていたところに


「勇者様ーーー!!一緒に入るぞーーーー!!」

「わぁっ!?」


水着を着用してお風呂場にやってきた遊び人ちゃんと遭遇する勇者。遭遇というより、後ろから抱き着かれるということ


「デカい風呂場なのはさっき見たからな!!一緒に入ろうよ!!さっきの同棲の本に、お風呂と就寝は一緒にするって書いてあったぞ!!」


物凄いお風呂が愉しみって感じな声が伝わるくらいの遊び人ちゃんの顔。こーいうのって


「あ、あの。……こ、こーいうの、……女性としてはどうなの?」

「ホント初心うぶな奴~!ご飯に掃除にお風呂の準備!ここまで迎えてくれたら、あたしってばお姫様じゃんって思ったの!」

「う、うん……」

「姫といったら、身体を遣うが愉しみと!!相場そうばが決まっているものよ~!」

「君は姫じゃないでしょ。会ったことあるけど、怖い人だよ。姫はそーいうことをしません」


村人ちゃんとはまったく逆のアプローチ。向こうから進んで言うとは思ってもみなかった。おまけに自分と一緒にすることも知られてしまった。できれば、そーいうのは良くないと思っていた。水着を着て来たのはまだ良心的なのだろうか?


「着替えを取りに行っていい?」

「そんなの持って来てるよ!風呂入ったら、寝るだろう!あのデカイベットでぎゅーーっと抱き合って寝ようよ!」

「…………え~っと……」

「あたしが勇者にできるイイことって結局これだしね!」

「……………」


自分の事ばっかりな人って難しいなぁ……(自分も言える口じゃないけれど)。


とはいえ、勇者も村人ちゃんのビンタを思い出すと、こーいう感じになったのは肉体的には楽かもしれない。精神的にはしんどいけれど。


カポーーーーンッ


隣になるならともかく、勇者としては遊び人ちゃんに後ろを任せるのはどうかと思うし


「あたしが勇者を洗ったら、勇者があたしの身体を洗っていいんだぞ♡」

「それは色々とまずいから……自分で洗ってよ」

「まったくも~。ま、背中だけは洗ってあげる……勇者って言っても、身体に傷があって、肉体もしっかりしてんだな。顔と肉体の迫力のギャップ有り過ぎ」

「……………」


勇者をしても治せなかった・治す気のない傷もあるということだ。

女性に興味ないという発言を受けて、遊び人ちゃんは色々と気になったことが勇者にはあった。自分は良く知らないからこそ、言えることがある。


「勇者って女の仲間っていなかったのか?」


反応が一々気を遣っているところを見るに、人を疑えるっていうことは


「仲間はいるんだろう?」

「……仲間か~」


最初に思い描いたのは……、最近出会った、僧侶についてだが。彼とは気が合うとは思う。お互いにそーいう関係ではないからだ。


「いたかな(話拗れるから肯定だよね)」

「じゃあ、好きな女の子とか、冒険中に見つけたりしなかったのか!?恋バナ恋バナ!!あたしと勇者の生活は残り2日なんだからさ!パーーっと言い合おうよ!」


気にすんなのノリで打ち明けようとする。

女性の浮いた話なんて、したくはないのだが……。彼女の気持ちに負けてか、秘密とは漏れる、気にしないものだ。

帰ってきた答えは凄く意外で


「好きな人は仲間の中にいた」

「えっ!?マジマジ!!仲間同士の恋愛!?今でも好き!?」


その好きという言葉を恋愛的な意味でとらえる遊び人ちゃんと、そうではない勇者とではやっぱり話が噛み合わないんだろう。

勇者はなんとなくだが、噛み合わない事もまた大事なんだと思った。


「恋愛ではなくて、……師弟としての気持ちかな。……僕に魔法を教えてくれた人は、僕にとって大事な人だよ」






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