外とかマジ無理刹那に快感~バニーガールを見たって勇者は反応なし~
こうして無事に、
勇者の村人ちゃんとの同棲生活3日間は無事に終わった。
『な~~~にが無事ですか!!3日間ですよ!!なのに1日分しかいませんでしたよ!!』
「天使ちゃん。この本はどれくらいの監視スキルが入っているわけ?」
村人ちゃんの三日間は、
初日
朝、攫われる。
午前に目覚める。
夜、お風呂とベットの中へ
二日目
早朝、一緒に料理をする
午前、畑仕事
午後、川などに散策
三日目
早朝、帰らされる。
『ぜ~んぜん、一緒にいないじゃないですかーー!!同棲生活に慣れるためにこーして機会を与えてるんですよ!!勉強しましょうよ!!朝に帰すじゃなくて、夜に帰すとか!!』
「そ、それはほら。時間厳守とか、そもそも、攫ったやり方だし……」
『そーいうところがダメなんですよ!!男は犯罪覚悟で女に触れる気概なきゃダメです!!女からしてみれば、キモかったら通報!!金持ちなら甘えた猫になるんですから!!』
「それがあんまり好きじゃないんだけど。君には、まぁ、いいか……」
村人ちゃんがいなくなっても、天使ちゃんと僧侶、王様の監視は続くようだ。
今は15時間だけ、この静かな村の中で過ごすことにする勇者。しかし、村人ちゃんからのご指摘を色々と振り返るだけ、騒がしく感じる時間でもあった。
村に住んでいる人に、自分が思っている村とは違うと言われて、……自分なりの気遣いをとても鬱陶しく感じたり、ズレた方だと言われ……慣れてはいるけれど。
慣れちゃいけないんだよね。
「彼女のことは嫌いじゃなかったよ」
『興味ないってオチじゃないですよね~~~???』
「……いや、その………畑仕事とか。川とかを歩いたり……」
『一緒に過ごした女の感想を1ページ分、書いてくださいよ!じゃないと、勇者様に彼女なんかできませんよ!!どいつもこいつも!!興味を持たないんですから!!』
……早めに村人ちゃんを帰してあげたのは、天使ちゃん達の説教が来るとは思っていたからだ。早い方がいい。どうせ長い。どうせ意味ないって思っているのに。女性の良かったところを挙げなさいという課題には難儀を要した勇者であった。
「つ、次の方はこーいう課題に答えやすい方がいい」
『なんか言いました!!?』
「いえ!何も言ってません!!」
『とってもとっても失礼ですよ!勇者様!!』
天使ちゃんの言っている通りであるが。良いも悪いも、勇者は持たない。興味のあるなしという、これまた人を見定めるに相応しくない評価基準。これを改めさせなければいけない。
サラサラサラサラ
手引きの方には、勇者がこちらから書くことで天使ちゃん達にも伝えられる(閲覧できる)。
何気に高性能な天使ちゃんのスキルであった。
「……書きました」
『どれどれ…………字が汚いですね。もうちょっと綺麗に書いてくださいよ!ここらへん、勉強です!習字道具を送っておきますね!』
「うっ……」
『ふんふん。料理ができることやお掃除など、家庭的なところを評価ですか。経済力がないところが不安っと……いや、それだけかい!!中身について見るタイプなの分かりますけど!!外見的にです!!』
「外見?」
『髪の艶や髪型、香水の匂いや爪の長さ、肌の張りとか!全体的なビジュアルについての感想がま~~~ったくないの!!そーいう目や価値観について学びましょう!!』
「わ、わ、わかった。今度は気を付ける」
『まー、良い子ちゃんだったと思いますよ。候補にはいれておいてくださいよ』
◇ ◇
パチパチ
「ん…………」
村人ちゃんが目を覚ますと……、自分の家の布団の中にいた。眠っていたから一瞬、夢なんじゃないかと思ったが。そうじゃないってなんか分かる。
「!!うわーーーーっ」
「あっ!」
弟と妹が急に入って来て、
「お、お、お姉ちゃんが帰って来た!!」
「朝帰りしてる!!」
「ち、違うから!!っていうか、ここに帰って来た記憶ないんだけど!」
「急に消えたのお姉ちゃんじゃん!!勇者の同棲生活に選ばれたとか、王国の方に言われたけど!帰ってくるなら何か言ってよ!家族みんなで」
そっか、心配してるよね。急に攫われたんだから
「「報酬で何をするか、相談してたんだから!!」」
「私の心配しろーーー!!家族ーーー!!」
お金に固執する者、お金に振り回される者達に囲まれる者だった。
「それからなんか感想文を王国に送ってって言われたよ」
「え?感想文?」
「勇者の同棲生活はどんな感じだったって!?書いたら10万!」
「はい!丁寧に褒め称えて書いて送ります!!」
「忌憚のない意見で構わないって。正直な方が助かるって」
「じゃあ、勇者によって受けた被害を含めて書く!!」
◇ ◇
『……いいでしょう!!さぁ、くじを引きなさい!!勇者!!』
天使ちゃんはこの状況をちょっと楽しんでいるようだ。勇者は全然面白くないというか、疲れた感じの雰囲気だ。戦闘とは違う、気疲れというものだ。
できれば、自分に関わる気のない子を引き当てたい。そんな気持ちで引きこんだくじの番号は
「…………”264”」
”264”の方を探知する勇者は……。
前回の村人ちゃんの時と反省を踏まえるかつ、優しい方法で来てもらおうと少しは努力と工夫を凝らした。寝込みを襲うのではなく、ちゃんと向かい合って話しかける作戦で行こう。
「!!」
”264”の方の場所が分かった。まずはそこへ、転移するスキル。インドラを使用。
ピュ~~~~ンッ
感知した場所は……王国の近く。城下町と言った方が良い場所だ。
今、感知できる位置では……建物の中にいるようだ。
「いらっしゃいませ~!!」
バニーガールの衣装を着て、両耳をピョンピョンさせる動きをしつつ、頭を下げるというより、その胸元を見せるように腰を下げる彼女。それに対し
「こらっ!!もっと愛嬌のある声で、いらっしゃいませ~♡!っと♡マークを出しなさい!!」
「……店長、これマジっすか?今、マジキモい声で♡マーク入ってましたよ」
強面な小太りなおじさんが接客に対する注意をするのである。しかしながら、このバニーガール衣装もとい、看板もとい。随分と変わったところである。
「君はここに客引きのためにやってきたのだろう!!働くおじさん達を呼び込むバニーガールにならなきゃいけないんだ!!それなのに、そんな寿司屋みてぇな挨拶だったらいけないだろう!!お金のために身体で働くんだろう!!」
「いらっしゃいませ~♡」
「そうそう!!できるじゃないか!!可愛いバニーガールだ!その声を出しつつ、店の看板を持って、今日の夜から外で立ってもらう!!」
随分な光景であり、若いからこそできるという高額なお仕事だ。煌びやかなって言ったら、良いもんに感じるだろう。実際、彼女はこーいうところを転々としている。
だからこそ、見切りは早くするつもり。
コンコン
「ん?誰だ?まだ、お客様を入れる時間ではないのだが」
そんな時にノックをする。そして、扉の向こうでは
「ごめんなさーい!”264”の方がここに居られると思うんですけれど!」
「「はぁ?」」
くじ引きを引いてる本人も、正直分かってなかった。とはいえ、面白そうだからか。それとも、
「今から10秒経ったらこの扉を1度壊して入りますけど、宜しいですか?」
「なんだなんだ物騒じゃねぇか、この野郎!!」
小太りのおじさんが殺気を出しながら扉に近づくと、それに反応したかのように……
ドゴオオオォォォッ
扉がぶっ飛んで、小太りのおじさんを吹っ飛ぶ扉と壁に挟まれて気絶してしまう。傍から見ると、ヤバイ行為中に助けに来てくれた、英雄であるし。そんなつもりはなかったのだが
「あの、殺意を出すと、防御反応するんで止めてください」
言うの遅っ!!入ってくるの遅っ!!
勇者は律儀に自分の言った10秒を待って入室するのであるが、それに乗じてか、あるいはめっちゃ面白かったからか。
「きゃ~~~ん!!助けてくださ~い!このおっさんに無理矢理、店に連れて来られて、こんな格好を強要されたんです~!!」
「わっ!」
バニーガール姿で抱き着いてくる彼女こそ、”264”の方。
遊び人ちゃんである!
そんな彼女との初めての邂逅に、勇者はこれまたトンチンカンな言葉を返してしまい、しばし勘違いをされるのであった。
「こ、これから君を攫いに来たんだけど、……僕もね」
「へ……?」
やっぱり女の子を攫うって良くないよね。こんなことはダメだよねって勇者の思考に対し。
半分以上冗談だったけれど、店から逃亡するには丁度いいやって思ってた、遊び人ちゃん。
お互いにちょっと身構えてしまったが、先に勇者の方からもう一度
「あなたが”264”のくじを引いてますよね?」
「?だからなにそれ?」
「勇者との同棲生活のくじ引きです。それに当たって、その……僕は勇者なので、君を攫いに来ました」
このバニーガール姿の遊び人ちゃんは色々と突拍子のない事が続いたあまりか、固まってはいたが。なんの事だか今は思い出せないけれど、
「……よ~し!!私を攫って、勇者!!」
「わ、分かった!ちょっと離れて!」
「店長!!私、仕事辞めるんで!1日分の給与だけはもらいまーす!……あ、勇者!服着替えるから、ほんのちょっと待って!色々教えてよ!!」
な、なんか……勇者としてはやりやすそうで、やり辛い女性を引いてしまった。
これからこの遊び人ちゃんと3日間の同棲生活である。
それは自分の村に戻るため、必要なお話や合意も大事だと思って、話し合いを持ちかける。それならと遊び人ちゃんは、この街でオススメのお店に入る。
「あたしの友達の店」
「タダじゃないわよ」
「固いこと言うな。クーポン使う」
バーガーショップに入った勇者と遊び人ちゃん。ここまでトントン拍子で早い早いわけだが
「でー、……そうそう、引いたわ引いた!勇者の同棲生活?報酬が出るし、無料だって言うから、引いてあげたわ」
カバンの中からこのくじ引きの番号の紙を出してあげる。結構しわしわなのは、あんまり大事にしていない感じが伝わる。それで少しホッとした勇者であるが
「んで。あたし達は無人島に行くんだっけ?」
「無人島じゃないですね」
「な~んだ!まぁいいや。勇者ってすげー奴なんでしょ?さっきおっさんぶちのめしてたし!なーんか、魔王とか倒したって言うじゃん!」
「う、うん…………」
ハンバーガーを一口頂きながら、遊び人ちゃんを単純に来て欲しいと言えば
「イクイクイク!めっちゃ行くから!!マジ面白そうだし!報酬もすっげーじゃん!!私、玉の輿も有り有りなわけ?」
「う、う~~ん、かも」
すぐにそれにはOKしてくれそうだけど。この子はなんか、勇者が思ってる苦手な女性枠に当てはまってまる。明るく話しかけてくれるのはいいけれど、基本自分中心な子。前回の村人ちゃんとはタイプが違うな。
とはいえ、自分としては大変だと思っていた、同棲する話とついて来てくれる話は
「オーケー!!勇者と添い寝なんかマジ一生モノじゃん!!まー、ちょっと陰気っぽいとこ、好みから外れっけどー!」
了承してくれたけど。
勇者がこの子を苦手する理由の一つ。合う話がお互いにないという事だ。その事は互いに分かっていそうではあるが、遊び人ちゃんは遊び人ちゃんである。とにかく遊ぶ!!
「高いのって平気?」
「高いの?値段が高い奴」
「空、空……君を連れて空を飛ぶことになるんだけど。安全を兼ねて」
「おおおぉぉぉーーーー!!それってマジに勇者じゃん!!みんなに自慢していい?写真撮って良い!!?言い忘れたけど、あたしのスキルは、”メルピク”でさ!見た場所を記憶し、人の脳にその情報を送り込めるの!最大で4枚分で、100人までしか送れないけど!!勇者と一緒に空を飛ぶとか、マジ受けるじゃん!!」
「…………………君のこと、苦手」
小声で言ってしまったが。これはあまりに自分と相性が悪すぎる。
グイグイくる陽キャ系だ。おまけにスキルも、それに相性が良すぎるものだ。撮影とか正直、止めて欲しいなぁ。実用性はやや乏しいけれど、自分の視覚情報を人に渡せるってのは勇者の生活を脅かしかねない。でも、やるしかないか。
こんなにもスンナリ、来てくれそうな子はいないと思う。
ハンバーガーを食べ終えてから、勇者と遊び人ちゃんは外に出て。申し訳ない顔で
「お姫様抱っこしていい」
「きゃーーーー!!勇者様にされるとか、マジ憧れですよ!私って姫扱い!?うひゃひゃ!」
「あの……その方が空まで飛びやすいから。お迎えも呼んだし」
「はいはーい!やってやって!!ここにいる通行人のみんな!私が勇者様と同棲しま~す!!」
「………………」
や、やり辛いし。たぶん、遊び人ちゃんはもう視覚情報を記録し、知り合いとかに発信しちゃっているんだろう。なんて子を引き当ててしまったんだ。自分の村に情報発信を妨害する結界を張ろうと、勇者は決心した。
ピョ~~~~ンッッ
「ひゃああああぁぁっ!!すっごい跳躍ーー!!」
ボフゥンッ
「雲に乗った!?なにこれ!?勇者様のスキルって奴!!?すっごー!やっばっ!!雲の乗って、勇者の村まで行くわけ!!快適じゃーん!……いや、ちょっと寒いしー!おあぁ~」
「雲に乗るというか。水と氷のスキルで足場を生成しつつ、風のスキルで移動をしつつ、火と雷のスキルで……」
「そんな理屈はいいって!!とにかく、すげーことなんだよな!!空飛んだ事なんて、あたしは初めてだよ!」
「………………」
勇者。
この子には絶対振り回されると予感してしまった。