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交流

8話です。

電子音のチャイムが教室に鳴り響き、今日最後の授業が終了する。


「だからこの選択肢は……と、もう授業終わりか」


途中まで書いていたペンを止め、講師の男は振り返った。


「それじゃあ、また来週。昨日も言ったけど日曜日は休みだからな」


やっと彼女の家に行ける。


期待に胸を膨らませながら支度をしていると、講師が思い出したように声を出した。


「そうだ、優太だけ残ってくれ」


なんでこんな日に。


不平を漏らしそうな口を抑えつつ、支度を済ませる。


他の生徒がでていくと講師が寄ってきた。


「ごめんな。予定もあるだろうに」


塾長でもあるその男は軽く謝る素振りを見せた。


「それで何の用ですか?」


「お前に聞きたいことある人がいてさ。今呼んでくるよ」


講師が出ていき、教室に一人残される。


聞きたいことある人?


記憶を探ってみるが、特に心当たりはない。


単語帳を片手に待っていると、その人はすぐにやってきた。


「優太、連れてきたぞ」


振り向くと、そこには眼鏡をかけた大人しそうな見た目の少女が立っていた。


「優太と同級生で一ノ瀬っ(いちのせ)ていうんだけど聞きたいことあるらしいから」


塾長は出ていき、改めてその少女をじっと見つめた。


端正な顔立ちに、左右対称に作られた茶髪のおさげ。


少し大きめの丸眼鏡を通して、宝石のように輝くブラウンの瞳が覗いている。


ジャストサイズのブレザー服は端までぴっしりと着られ、ほっそりとした真っ白な足がスカートから露出していた。


ただ立っているだけなのに、なんとなく育ちのいい子なんだろうな、と感じる。


一ノ瀬は慣れた様子で眼鏡を少し上にあげると、口を開いた。


「もしかして予定とかありました?」


「まあ、そうだけど」


すると一ノ瀬は申し訳なさそうに、「すみません」と言った。


「優太君が模試で張り出されていたのを見たので勉強法とか聞きたくて」


――見てくれてた人いたんだ。


予想外の出来事に少し動揺する。


表情を抑えつつ、答えた。


「勉強法と言ってもこれといって特別なことはしてないんだけど。模試の復習したり、問題集解いたりしてるだけで」


「何の問題集使ってるんですか?」


「ああ、それは……」


そうして一ノ瀬からの質問がいくつか続いた。


やっぱり自分に興味を持っていてくれているのは嬉しく、表情も少しだけ緩んでいたい気がする。


そうして油断していると、彼女からある質問が来た。


「凄いですね。どこか行きたい大学とかあるんですか?」


一瞬、親の顔が浮かび、すぐに消える。


さっきまで上がっていた気分も下がり、胸の中にずっしりと重いものが圧し掛かった。


「……別にないよ」


そういうと、彼女は何か察したように頷いた。


そっけない返事だったか、と彼女の顔を覗くと優しい笑顔で彼女は笑った。


「今度予定が空いてる日があれば一緒に勉強でもしませんか?」


「いいですけど……」


「よかった。それじゃあ優太君、また今度」


そう言って一ノ瀬が教室を出る。


扉が閉まるその直前で彼女は振り向いた。




「死なないでね」




一瞬見えた、神妙な顔はすぐ廊下に消えてしまった。

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