遊園地②
25話です。
園内を歩き回っていると、噴水に人が並んでいるのが見えた。
「何だあれ?」
「写真を撮ってるんじゃない?」
「写真か……」
「私たちも撮ろうよ」
列に加わると、美羽は嬉しそうに携帯を取り出した。
「そんなに楽しみ?」
「うん。だってこういうことできる機会ってそうそうないでしょ?」
「確かにね」
「それに、今日はたくさん思い出を残しておきたいから」
そうして自分たちの番を待っていると、前のカップルに話しかけられた。
「すみません、写真撮ってもらってもいいですか?」
「ああ、はい」
美羽の携帯を受け取り、噴水と2人が映るようにカメラを構える。
「撮りまーす。ハイ、チーズ」
何枚か写真を撮り終え、スマホを返す。
自然な流れで、「撮りましょうか」と声を掛けられた。
「お願いします」
携帯を渡し、噴水の前に移動する。
美羽は僕の腕に軽く触れ、少し照れたように寄り添ってきた。
人前なのもあって、一気に顔が赤くなった。
「はい、撮りまーす」
シャッター音が連続して鳴る。
そのわずかな時間が、恥ずかしかったけれど、やけに世界が明るく感じた。
「ありがとうございました」
携帯を受け取り、その場をすぐに離れる。
適当なベンチに座り、写真を確認する。
「良い感じに撮れてるね」
2人とも顔が赤いけれど、確かに綺麗に写真が撮れている。
美羽はその写真をしばらくじっと眺め、満足したのか、立ち上がった。
「次行こっか」
何だか今日の美羽はテンションが高い気がする。
そんなに遊園地が楽しみだったのか?
「お化け屋敷入ろうよ」
考え事をしていると、美羽がそんなことを言い出した。
「お化け屋敷か……」
正直、絶叫系よりはマシだけど、あまり入りたくはない。
けど、美羽の前だし、ビビってる様子を見せるのも嫌だな。
「行ってみるか」
入り口は屋敷のような外観で、近くのスピーカーからうめき声が聞こえている。
並んでいるのも数人程度で、すぐに入れそうだった。
列にならんでいる途中も、中から誰かの悲鳴が聞こえてくる。
「美羽はこういうの苦手?」
「うーん……そんな苦手、ってほどではないと思うよ」
自分たちの番がやってきた。
薄暗い入り口から中に入ると、不気味な音が響き渡った。
暗闇の中、地面に提灯がぽつぽつと置いてある。
それを辿って進んでいくようだ。
「何かわくわくしてくるね」
美羽は鼻歌を歌いだした。
そのまま歩いていると、開けた場所についた。
目の前に青い光が現れ、それに注目していると、不意に人形が現れた。
「おお~」
思わず感嘆の声が漏れてしまった。
「優太、驚くところだと思うけど……」
呆れたように言われて、思わず苦笑する。
「いや、誘導が上手だなって思って」
「感心するとこじゃないでしょ……せっかく優太が驚いているところを見れると思ったのに」
青い光が消え、再び提灯に従って進んでいく。
通路は狭くなっていき、壁がじわじわと迫ってくるような感覚があった。
次第に背後から足音が聞こえ始める。
ふり向いても、何もいない。
「おードキドキするな」
「それワクワクじゃない?」
再び歩き出すと、足元の提灯が急にゆれた。
ふっと提灯の光が消え、横の壁から手が飛び出した。
「おおー」
「喜ばないでよ」
その手はすぐに引っ込み、再び提灯に明かりが戻る。
ほっとしたのも束の間、ガタッ、と大きな音が後ろから聞こえた。
「ん?」
ふり向くと、骸骨が天井から降ってくる。
宙ぶらりんの骸骨は追いかけてきた。
「うわっ!」
反射的に走り出す。
走っている間も、背後で軋む音が途切れずにせまってくる。
前方に光が見えた。
そこに向かって駆け抜ける。
次の瞬間、外の冷気に放り出された。
荒くなった呼吸を整え、美羽と目を合わす。
2人して、ふっと笑い出す。
「最後のびっくりしたね」
「うん。完全に油断してた」
その後も昼食をとったり、アトラクションを回ったりした。
意外とジェットコースター以外のアトラクションも充実していて、時間が経つのは早かった。
あたりが夕焼けに染まり、そろそろ帰ろうかと考えていたときだった。
「最後に観覧車に乗らない?」
相変わらず列はなく、すぐに乗ることが出来た。
ゆっくりとした速度でゴンドラが上昇していく。
静寂が流れる。
夕日が窓を突き抜け、美羽との間にオレンジ色の光が通過する。
観覧車が円周の4分の一ほど上ったころ、美羽が口を開いた。
「ありがとね」
その言葉には何か含みがあった。
ただの感謝ではない。
胸の奥でざらつく違和感を覚えて、汗が額を伝う。
「優太に会ってから楽しいことばっかりだったよ」
それはまるでお別れのような言葉だった。
「今までありがとう」
続けて彼女は言う。
「別れよう」
彼女の顔は真剣だった。
「な、何で?嫌だよ!」
彼女がいきなりそんなことを言った意味が分からなかった。
「思い出せる?私は人を殺したんだよ?」
その言葉で何かが壊れたような音がした。
別に忘れていたわけではない。
けれど、意識しないようにしていたもの。
それが強引に引きずり出される。
「君にはもう仲間がいる。今だったら普通の生活に戻れるんだよ」
困惑が頭を埋め尽くす中、なんとか言葉を絞り出す。
「……それでも僕は君と一緒にいたい」
それは本心だった。
いまなら戻れるかもしれない。
それでも美羽が好きだった。
美羽と一緒がいい。
だから――
「もう1人……殺したい人がいる、って言っても?」
「え?」
呼吸が止まった。
美羽の瞳に光はなく、ぐるぐると漆黒が渦巻いている。
その表情を見ると、最初に会った時のことを思い出す。
「分かるでしょ。だからもう別れよう」
「でも……」
何かしゃべらなくてはいけないのに、言葉が出てこない。
気付けばゴンドラは地上へと戻り、美羽はいつもの笑顔に戻った。
「今日1日は彼女だから、ね?」
彼女は手を繋いでくる。
その手の暖かさが、胸を苦しめた。
――これが最後だと言われているようだった。
曇り空が星を隠すように広がっていた。
(・´з`・)




