連行
19話です。
久しぶりの更新です(・´з`・)。
翌日もまた、美羽からお弁当を受け取り、学校に向かった。
今日も行くのかと、少しワクワクしながら向かっていたが、校門や教室に翼の姿はなく、普通の時間帯に普通に登校してきた。
朝のHRが終わると、翼と一緒に担任の先生に呼び出された。
昨日の事だろうか。
教室の1階下にある空き教室に入り、担任は話を始める。
話の内容は昨日の事についてで、大体翼が話した通りだった。
担任は時計を確認して、ため息を吐く。
「だからまあ、毎日休んでいいわけじゃないけど、事前に行ってくれたら見逃してやる。ただ勉強はちゃんとやれよ」
「分かりました。ありがとうございます」
少し遠くで見ていた翼が近づいて来る。
「ってことで俺たちこれから休んでいいすか?」
「ああ、いいよ」
「今日もいくのかよ……」
またしても無理やり連行された。
だが、今回は前回と違い、しっかりと先生の許可が取れていることが分かっている。
翼と階段を降りようとして、自分が手ぶらだったことに気付く。
「あっ、僕教室にバックを置いてきちゃった」
「それなら、俺は先に校門で待ってるわ」
「分かった」
教室に戻り、クラスメイトの視線を受けながらバックを回収する。
教室を出ていくと、自分の話をしている声が聞こえたが、聞こえないふりをしてすぐにその場を離れた。
校門に向かうと、翼は誰かと話していた。
「お、来た来た」
「おはよう、優太」
そこには制服姿の桜がいた。
「おはよう……って何で桜が?」
「俺が呼んだんだ」
「桜は学校大丈夫なのか?」
「大丈夫だよー」
本当に大丈夫なのか?
「じゃあどこ行くか?」
「カラオケとかいいんじゃないかな?」
「いや、お前……」
翼が桜を引っ張り、コソコソと話し始めた。
「カラオケはマズいだろ」
「いや、優太は大丈夫だよ」
「無理だろ……あ、そういうこと?」
「そういうこと」
話が終わったのか、くるりと翼は振り返った。
「じゃあカラオケでいいか?」
「僕はいいけど」
「なら決まりだな」
そこから一番近いカラオケ店に移動する。
制服姿だったこともあり店員に怪訝そうな顔をされたが、入ることが出来た。
「早速誰から歌う?私でもいいけど」
「僕は初めてだし、最初は二人が歌ってほしいかな」
特に理由はないけど、何だか恥ずかしい。
「なら俺が最初に歌おう!」
翼が曲を入れ、マイクを手に取った。
自信満々な様子で立ち上がり、マイクを構える。
曲が流れると最近聞いたことあるような音楽だった。
翼が歌い始め、昨日見た映画のエンディング曲だったことを思い出す。
翼の歌は普通に上手かった。
ラップ調の曲で、テンポは速いけれどはっきりとした発音のせいか、聞き取りやすい。
男らしく力強い、というよりは爽やかな歌い方で、一応イケボなのだろうか。
曲が終わると、派手な演出ともに点数が表示された。
「87点かあ。もうちょい、いけると思ったんだけどな。最初だしこんなもんか」
充分高いと思うけど。
翼は悔しそうにしながらマイクを桜に渡す。
次は桜か。
桜は眼鏡を外し、立ち上がる。
「あれ?眼鏡外しちゃって大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。これ伊達メガネだから」
「身バレしないためにつけてるって感じ?」
「そうそう。でもずっとつけてると鼻に跡がついちゃうからさ、好きじゃないんだよね」
曲が流れ始め、画面に目を移す。
この曲も昨日見た映画の曲だ。
再び桜に視線を戻すと、パチリと目が合う。
すると桜は微笑んだ。
「惚れちゃ駄目だよ?」
瞬間、桜の顔が美羽の顔と重なり、まるで意識が持っていかれるような感覚が襲った。
次の瞬間には曲が終わっていて、翼が目の前で、手を振っていた。
「おーい、大丈夫か?」
突然のことに戸惑いつつも、いたって普通に答える。
「ん?ああ、別に大丈夫だけど」
すると桜は得意気な様子で言う。
「ね?言ったでしょ」
「何の話?」
「まあこっちの話だ。ほら次はお前の番だぞ」
渡されたリモコンを手に取る。
何の曲を入れればいいんだ?
歌える曲ってあったっけ?
色々考えた結果、とりあえず中学の学習発表会で歌った曲を入れた。
「懐かしいな。俺も中学の時に学発で歌ったわ」
「そうなのか」
曲が流れ、なんとなく思い出す。
慣れない声で歌い始めた歌は、あまり曲と合っている感じがしない。
恥ずかしさに耐えながら、なんとか一曲を歌い終え、点数が表示された。
結果は73点。
「めちゃくちゃ低いな」
「まあ最初はこんなもんだ」
「そうそう。私も最初は低かったから」
そういうものなのか。
マイクを翼へ渡すと、再び翼は自信満々な様子で立ち上がった。
「まだ一周したばっかだからどんどん歌うぞ!」
それからカラオケを三時間ほど歌い、場所を移動した。
「カラオケって意外と安いんだね」
「俺らは学生料金だからな。昼飯はどうすっか……優太は今日も弁当か?」
「うん、弁当」
「なら昨日と同じ感じにするか……でも桜が外にいるのってあんま良くねえか」
「なら私の事務所くる?」
「ああ、それいいな」
「事務所?」
桜の言っていた事務所はそこから歩いて10分ほどの距離にあった。
モダンな見た目の建物で全体的に落ち着いた雰囲気があり、桜の顔パスで受付を通ると、エレベーターで上に上がっていく。
そのまま桜について行き、大きな窓のある部屋に着いた。
中央には会議で使うような大きなテーブルが置いてあり、天井にはプロジェクターがぶら下がっていた。
それぞれ適当に座り、食事を始める。
「久しぶりに来たけど結構変わってんだな」
「翼が前に来たのっていつだったっけ?結構前だよね」
「6年振りくらいか?あの時はもっと人も多かった気がするけど」
懐かしむ2人を見て、疑問が浮かんできた。
「何がきっかけで桜は翼と仲良くなったの?」
「きっかけあったというよりは俺が一方的に話しかけて仲良くなった」
「そうなんだ。桜は鬱陶しくなかったの?」
「ものすごく鬱陶しかったよ。今の私はこんな感じだけど、昔は私も結構荒れてたからね」
「そうなのか」
桜が荒れてたなんて意外だな。
「昔は結構こいつ酷かったからな。最初話しかけた時なんて特にひどかったぞ」
「なんて言われたの?」
「失せろって」
「……荒れすぎでしょ」
というかそんな様子が全く想像できない。
「でもそんな私でも翼はずっと話しかけてくれたから」
「感謝せえよ」
「はいはい感謝しますよ」
そんな仲良い二人のやりとりを見て、羨ましくなる。
ふと、美羽のことを思い出す。
「なあ、今度僕の友達を連れてきてもいい?」
「もちろんいいけど来れるのか?」
「多分、大丈夫だと思う」
「ふーん。なるほど」
すると、翼はいつもの腹立つニヤリ顔で笑った。
「彼女だろ」
「え?いや、あの……」
予想外のことに動揺していると、翼は続ける。
「隠さなくていいって。普通のやつって桜の歌声聞いたら惚れちゃうから。惚れないやつって好きな人がいるやつか、よっぽど自分大好きなやつだけだから」
「そうなのかよ……」
何だか嵌められた気分だ。
2人に笑われ、恥ずかしがっていると、突然、扉が開いた。
現れたのは気難しそうな顔をしたスーツを着た男。
男はこちらを見つめ、翼に視線を移して嘲笑した。
「お父さんの仕事でも見に来たのか?」
翼から舌打ちが聞こえた。
男は視線をこちらに戻し、近づいてくる。
目の前までやってくると、ぐっと顔を近づけてきた。
「なるほどな」
距離を取り、男はため息を吐いた。
「つまらない人間だ。これといった才能もないし、家庭も貧乏。お前みたいな人間がなぜ生きていられるのか不思議だな」
「え?」
突然の罵倒に戸惑っていると、桜がその視線を遮るように男の前に立った。
「お父さん、私の友達を馬鹿にするのはやめて」
「黙れ」
男は舌打ちをする。
「お前は本当に生意気だな」
男は桜を見下ろし、耳元で何かをささやいた。
桜の方がぴくりと震えて、男は口角を上げた。
「その二人も同じようにならないといいな」
男は部屋を出ていった。
扉が閉まり、部屋に静寂が流れる。
「相変わらず俺の事嫌いなんだな」
少し時間が経ち、翼が口を開いた。
「ごめんね、二人とも」
「今のって桜のお父さん……だよね?」
「そうだよ。私のお父さん」
そう答える桜の声はどこか渇いていた。
「家でもあんな感じなのか?」
翼の声は少し怒気を帯びている。
「そうだね。あんまり家にいる時はないけど」
「あまりにも酷いなら、俺の家に来いよ」
「それは駄目だよ。翼に迷惑かけちゃうし」
「でもあいつの事嫌いだろ?なら俺の家にいた方がいいと思うんだが」
「それでも自分の親だからね」
桜は複雑な表情をしていた。
「まあそうか。少し頭に血が上りすぎた」
頭をポリポリとかきながら翼は言う。
「だけど何かあったらすぐに俺に連絡しろ」
「分かってるよ」
部屋に通知音が鳴り響く。
どうやら翼の携帯から鳴ってるみたいだ。
「あー俺行ってこないと」
「それなら今日は解散しよっか」
桜はそう言い、その場は解散となった。
('Д')ワアアアアアアアアア!