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誘拐

18話です。

翌日の起床は少しだけ早かった。


いつも通り支度を済ませ、向かうのは学校ではなく、美羽の家。


明るい時間帯の美羽の家は新鮮で、意外と大きく、見慣れない感じがする。


躊躇いがちにピンポンを押すと、すぐに扉が開いた。


「優太、おはよう」


現れた美羽の頭には、少し寝ぐせがついている。


「おはよう美羽」


「はい、頼まれてたお弁当。おいしくなかったら残して良いからね」


美羽はその手に持っている包みを前に差し出す。


その顔には微かな不安が見えた。


「いや、絶対残さないから。ありがとう美羽」


お弁当を受け取り、大事にバックにしまう。


「うん。頑張ってね」


美羽に別れを告げ、学校へ向かった。


それにしても美羽のお弁当か。


昨日思いつきで美羽に頼んだが、まさか了承してくれるとは思わなかった。


嬉しさで思わず顔が緩んでしまう。


お弁当の中身は何だろうか。


浮ついた気持ちで登校していると、校門の前に翼がいるのが見えた。


バックも持たずに、何か遠くを眺めている。


「翼!」


呼びかけると、翼はこらちに気づいて寄ってきた。


「遅いな優太」


「何してるんだこんなとこで?」


「俺はお前を待ってたのさ」


こちらに指を差し、ニヤリと笑う。


「いや、待つにしても教室で待てばいいだろ」


「まあ、こっちついてこい」


翼は学校に入らず、駅と逆方向に歩いていく。


「え?学校は?」


「まあまあ」


強引に翼に連行され、学校からどんどん離れていく。


「そろそろ学校戻らないと遅刻するぞ」


「ん?今日は休みだ」


こいつは何を言っているんだ?


「戻らないと本当にやばいって。家に連絡されるとまずいから」


「大丈夫、大丈夫。安心して俺について来いって」


そうして翼に連れていかれたのは映画館だった。


「何で映画館……」


今から戻っても学校に戻っても明らかに遅刻。


家に連絡が言っていないか心配だが、翼のことだ。


何か考えがあるんだろう。


それに翼の奇行は今に始まったことじゃない。


「それで何をするんだ?」


「映画館だし映画を見るに決まってんだろ」


「僕あんまり金持ってきてないけど」


「安心しろ。今日は俺の奢りだ」


そう言って翼はチケット売り場に歩いていく。


「お前なんか見たいのある?」


「と言ってもなあ。僕あんまり映画知らないんだよね」


「じゃあ俺が適当に決めちゃうな」


翼が選んだのは最近話題の実写映画らしく、確かにそのタイトルは聞き覚えがあった。


平日のこともあってか席は選び放題で、せっかくなので中央の席を取ることにした。


「この映画実はな、俺の幼馴染が出てるんだよな」


「前に言ってた子?」


「そうそう。だから見に来たかったんだ」


「それは凄いな。出てきたら教えてよ」


その後は軽食売り場でポップコーンなどを買い、シアターへ向かった。


シアターにはやはり人がいなく、まるで貸し切りみたいだった。


「今って1限目が始まったくらいか?何やってんだろ僕」


「そんな日があってもいいじゃないか」


心臓がバクバク揺れているが、それが不安によるものなのか、興奮によるものなのか分からない。


「あとでちゃんと説明してくれよ」






上映時間が近付くと、広告や注意事項が流れ始め、ついに映画が始まった。


テレビとは全く違う、臨場感溢れる様子に驚く。


役者の演技も上手く、特にヒロイン役の演技には思わず見惚れてしまった。


彼女の一挙一動に視線が吸い寄せられ、正直、主人公より目立っていた。


話は進んでいき、物語の中盤辺りで翼の幼馴染の事を思い出す。


翼に小声で話しかけた。


「そういえば翼の幼馴染の子はまだ出てないの?」


「ん?ああ、言うの忘れてた」


翼はヒロインにピッと指をさす。


「この子」


「え!」


思わず大きな声が出て、口を抑える。


周りを見渡して、他に人がいなかったことを思い出した。


「お前の幼馴染めちゃくちゃ凄いな」


「そうだろ?」


翼が前に言っていたことが分かったような気がする。


確かに天才だ。


でも翼には全くと言っていいほど似ていないな。






3時間の映画は一瞬で終わってしまった。


「いやーおもろかったな」


「確かに面白かった」


話題になるのも頷けるレベルの映画だった。


今すぐにでも感想を言い合いたいところだが、先に聞きたいことがある。


「お前、いつもこんなことしてんのか?」


「さあな」


予想より軽い返しに戸惑う。


「そろそろ昼時だし、飯を食べるか」


「僕は弁当あるから」


「マジ?なら俺もコンビニで買ってくるからそこらへんで食うか」


そうして近くの飲食スペースに移動し、昼食を食べる。


「それにしてもお前が弁当って珍しいな」


「ま、まあね」


「自分で作ったのか?」


「いや、違うけど」


「ふーん。そうなのか」


翼はさっきコンビニで買ってきたおにぎりを食べ始めた。


「それで今日の事について説明がほしいんだけど」


すると、翼は手に持っていたおにぎりを机に置き、一緒に買っていたお茶を一口飲んだ。


「いやあ、昨日思ったんだけどさ。休みがほしいけどお前が塾を休むのは無理だろ? だから学校を休めばいいと思ったんだよ」


「なるほど?」


「それで試しに先生にお願いしてみたらOKしてくれた」


「なんだそれ……」


そんなので簡単に休めちゃっていいのか?


「お前は成績もいいし、先生もある程度事情は分かってるんだろ」


「そうか……」


「よかったな。普段頑張ってる甲斐があったじゃんか」


褒められると思っていなかったから、少し戸惑う。


「そうだな……ん? というかそれなら朝会った時に説明してくれれば良かったんじゃない?」


「うん。全くその通りだな。けど」


「けど?」


翼はいつものムカつく笑顔で言った。


「お前の焦る姿が見たかったから」


「……こいつ性格悪すぎだろ」


「はははっ。冗談だよ。他の生徒に見られても嫌だったからさ、さっさと移動したかったんだ」


そう言って翼は再びおにぎりを食べ始める。


僕も弁当を食べるか。


包みを取り、弁当を開く。


ご飯とおかずが一体型の弁当で、おかずは唐揚げに卵焼き、もやしのナムルが入っていた。


どれもおいしそうだ。


頭の中で美羽に感謝を述べながら、手を合わせる。


「いただきます」


まずは唐揚げを取り、口に運ぶ。


うん、めちゃくちゃ美味しい。


苦い所がちょくちょくあるけど、鶏肉にしっかり味がついていて、美味しい。


他のおかずも見た目が少し歪な物はあったが、味は美味しかった。


そうして美羽のお弁当を満喫した後、僕らは再びさっきの映画館に戻ってきた。


「何で戻ってきたんだ?」


てっきり昼ご飯を食べたら学校に戻るのかと思っていた。


「もちろん、映画を見るためさ」


翼はチケット売り場に歩いていく。


「……冗談だろ?」


「冗談じゃないが」


「マジか……別にいいけど」


「今回も俺が勝手に決めちゃうな」


「ちなみに映画見た後は?」


「別の映画見る」


「頭おかしいだろお前」








******




翼と解散した後はいつも通り塾の授業を受けていた。


その授業も終わり、帰ろうと準備をしていると校内にアナウンスが流れた。


どうやら最寄り駅で上りと下りの両方の電車が運行停止しているようだった。


別に美羽の家に行くからあまり関係ないな。


「僕は帰ろうと思うけど桜はどうする?」


隣で帰る準備をしている桜に聞く。


「私はお迎えが来るから待たないと」


親が迎えに来るのだろうか。


「それじゃあまた……」


そう言って帰ろうとすると、ぐっと袖を引っ張られた。


「少しお話してかない?」


正直、美羽の家に行きたかったが、桜のお願いを断るのは気が引ける。


「どのくらいで来るの?」


「10分くらいだって」


「それなら待ってもいいけど」


「ありがとう」


桜と話しながら、そのお迎えが来るのを待っていると、10分ほどで桜の携帯から通知音がなった。


桜が携帯を確認する。


「ついたらしいから行こっか。待たせちゃってごめんね」


「別に大丈夫」


塾を出ると目の前の道路にタクシーが止まっていて、その近くに人影が見えた。


タクシーで迎えに来たのか。


近付いていくと、その人影もこっちに気づいたようで、近づいてきた。


「って翼?」


人影の正体は翼だった。


「優太!お前の通ってる塾ってここだったのか」


「というか翼の幼馴染って……」


桜に視線を移すと、桜は翼の横に立った。


「そうだよ。私だよ」


にやり、と桜は笑った。


その顔は少し翼と似ている。


「ってお前は知ってたのかよ。俺に教えろよ」


「実を言うと、結構前から気付いていたんだ」


「そうなのか……」


予想外の事実に驚いていると、突然、翼の携帯から通知音が鳴った。


「おっと、じゃあ俺らは帰るから。また明日な」


「優太、またね」


2人は急いでるようで、すぐさまタクシーに乗り、車は駅の方向に走って行った。

(・ω・)

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