お出掛け②
16話です。
ボウリングってボーリングじゃないんすね。
昼食を終え、僕たちが次に向かったのは今日のメインであるボウリング場。
そのボウリング場は駅近くにあるビルの中にあり、エレベーターに乗った時点で既に混んでいた。
嫌な予感がしたが、案の定、ボウリング場は人で溢れていた。
「予約した方が良かったかもね」
「そうだな……」
どうやら40分待ちらしく、それを聞いて帰る人もちらほら見えた。
そうか予約か。
普段こういうところに来ることがないから、忘れていた。
「どうしようか」
「まあ待ってもいいんじゃない」
「了解」
受付に名前を書き、順番を待つため近くの空いてる席に座る。
「なにして待とうか?」
「それなら優太の学校の話を聞かせてよ」
学校の話か。
あんまり美羽に話したことなかったな。
「そういえば、僕の友達の話なんだけどさ……」
そうして美羽と話していると、次第に順番も進み、僕たちの番がやってきた。
「意外と早かったね」
「そうだね」
体感は30分も経っている気がしなかったが、時計をみると確かに40分経っていた。
受付で説明を受けた後、シューズを選び、自分たちのレーンに向かう。
「15……ここか」
二つの細長い椅子が向かい合わせで並び、その奥に細長いレーンが伸びている。
その奥にはピンが10本並んでいた。
「ピンまで意外と遠いんだな」
ボールが途中で止まりそうだ。
そうして呆然と眺めている間も、美羽は慣れた様子で靴を履き替えている。
「私が荷物見てるから先にボール選んできてよ」
「ああ、分かった」
といってもボールはどのサイズが良いのだろうか。
たくさん並べられたボールを見ながら考える。
大きさごとに色分けされているらしく、大きい方から順に、黒、紫 青、緑と色が分かれている。
他にもいくつか色があるみたいだが、それは女性や子供用みたいだ。
とりあえず大きいボールから順に指をはめていくか。
「これは……指が重いな。これは……ゆるい」
いくつか試し、青色のボウリング玉を手に取った。
「おっ!丁度いい!」
構えてみても持ちやすい重さで、指もすっぽりハマっている。
これにしよう。
ボールから指を外そうとした時、第二関節に不自然な痛みを感じた。
「ん?」
一旦手を放し、再び指を抜こうと力を入れる。
「……抜けない」
額に汗が走り、段々と焦燥感が襲ってくる。
「まずいまずい……!」
全力で指を引き抜こうとするが、どんなに力を入れてもボールが抜けることはなかった。
どうしようか悩んで結局、美羽の所に戻ることにした。
「……ただいま」
「おかえり。遅かったね。なんかあった?」
「ボールが抜けなくなっちゃった」
右手にハマったボウリング玉を見せると、美羽は困惑を顔全体に表した。
「えっと……どういうこと?」
美羽が近付いてきて、確認する。
「丁度いい大きさだと思ったんだけどさ」
「丁度良すぎたんだね」
美羽はボールを両手で掴む。
「じゃあ、引っ張ってみるよ」
美羽が力を入れると同時に指が引っ張られ、段々と痛みが強まっていく。
「いててて……!」
「ごめん、もうちょっとだけ耐えて!」
痛みが数秒続いたのち、スポンという音ともに、ボウリング玉が指から抜けた。
「と、とれた!」
解放された右手はヒリヒリと痛み、手汗で濡れている。
「全く何やってんの」
美羽はふふ、と笑いだす。
「ボールから指が抜けなくなるって、初めて見たよ」
その優しい笑顔に少しだけ安心する。
「ごめん。別のやつ取ってくる」
美羽からボールを受け取り、再度ボールを選びに行く。
かっこ悪い姿を見せちゃったな、と反省しつつ、紫のボールを手に取った。
今度は慎重に指を入れ、指が抜けるかを確認した。
「よし、大丈夫だな」
美羽の元へと戻り、交代する。
待っている間、ふと頭上にぶら下がっているモニターに目を向けた。
そこには真っ白のスコア表と僕たちの名前が映っていて、どうやら美羽が先行のようだ。
「おまたせー」
美羽が戻ってきて、ボウリング玉を置くと、僕と同じようにモニターを見上げた。
「私が先だね」
再びボウリング玉を持ち、胸の前に構える。
どんな感じで投げるのか観察しようと思っていると、美羽はなかなか投げずにいた。
「美羽?」
すると突然、美羽は振り返り、にっと笑みを見せた。
「優太、勝負しない?」
「勝負?」
美羽はボールを置いて、近づいてくる。
「最終的にスコアの高かったほうの勝ち。勝者は敗者に何でも命令出来るの」
「何でも?」
悪魔的な甘い響きに、思わず反応してしまう。
「本当に何でもいいよ」
何でも、か。
頭の中でいろいろな妄想を巡らせ、結論を出す。
「よし!その勝負をやろうか」
ボウリングは初めてだけど、何とかなるだろう。
「じゃあ、投げるね」
そうしてゲームが開始された。
結果から言えば、勝負は僕の惨敗だった。
スコアに80点差も付き、その上最後は2回ともガタ―で終わってしまった。
「マジか……」
「私の勝ちだね」
圧倒的な敗北の前に、悔しさがこみあげてくる。
でもなんとなくコツは分かってきた。
次は出来る。
そんな謎の自信が今の自分にはあった。
「もう一回やらないか?」
そう言うと、美羽は不敵な笑みを浮かべた。
「また勝負する?」
その質問に、僕は即答する。
「勝負しよう」
今回勝てば前回の分は帳消しにできる。
それに次は勝てる自信がある。
「それじゃあ始めるね」
今度は負けないだろう。
ため息を吐き、歩きながらスコア表を見る。
「さーて、優太にどんなお命令を叶えてもらおうかな」
結局、二回目も負けてしまった。
どうやら僕にボウリングの才能は全く無いようだ。
投げたい方向に投げても何故か反対方向に回転したり、回りすぎてそのままガターになってしまったりで散々だった。
逆に美羽は後半になるにつれ、どんどん上手くなっていった。
もしかしたらボウリングの才能があるのかもしれない。
――負けるとわかってたら勝負しなかったのに。
再びため息を吐き、少し前を歩く美羽に視線を移す。
美羽は胸の前で腕を組みながら、考え事をしている。
どんな命令をされるのだろうか。
「よし、命令が決まったよ」
美羽は立ち止まり、こちらを振り向いた。
どんな要求が来るのか、と身構える。
「今度はカラオケに行こうよ」
そんなことでいいのか。
予想とは違った命令に、ほっと胸を撫でおろす。
「分かったよ。もう一つの命令は?」
「もう一つはね……」
美羽がにっと微笑む。
焦らすような仕草にまた不安がやってくる。
散々引き延ばした後に、彼女は言った。
「次の機会にとっておくよ」
「……なんだか弱みを握られたみたいだな」
「あはは。そうだね」
美羽は再び歩き出す。
「今日は楽しかったね!」
美羽の隣を歩きながら、答える。
「うん。楽しかった」
(˘ω˘)