お出掛け①
15話です。
朝陽の差し込む玄関で持ち物を確認する。
「スマホは持った。財布も持った。それと……」
廊下の奥にある母の部屋を数秒見つめ、母が起きてこないことを確認する。
よし……大丈夫だな。
物音を立てぬようにゆっくりと外にでて、カギを閉める。
外に出た後、扉の奥で音が聞こえないか、耳を澄ませた。
……音はしない。
バレてないな。
ほっと胸を撫でおろし、スマホを取り出す。
美羽に連絡し、そのまま待ち合わせ場所へ向かった。
今日の予定は午前にゲームセンターへ行き、午後にボーリング場に行くことになっている。
集合場所で美羽を待ちながら、スマホで天気を調べる。
天気予報によると、どうやら今日一日はずっと晴れのようだった。
昨夜の曇りが心配だったが、それも杞憂に済んで良かった。
別にボーリングは室内だから天気は関係ないが、それでも雨だとテンションが下がってしまう。
今日はいい一日になりそうだ。
高揚感が押し寄せ、鼻歌を口ずさむ。
再び時間を確認しようとすると、遠くから美羽の声が聞こえてきた。
「優太!」
声のする方を向くと、そこにはいつもと違う髪型の美羽がいた。
「待った?」
「いや、そんなに待ってないよ」
じっと美羽を見つめる。
普段は髪を下ろしているが、今日は珍しく髪を後ろでまとめていた。
ポニーテールって言うんだっけ。
髪型だけで結構印象が変わるもので、いつもより可愛いく見える。
そうして見惚れていると、美羽が顔を近づけてきた。
「どうかした?」
「な、なんでもない。早く行こう」
熱くなった顔をそらし、誤魔化そうと出発を促す。
「そうだね」
それに気づいているのかは分からないが、美羽の声は少しだけ嬉しそうに感じた。
「行こっか」
ゲームセンターは集合場所から5分くらいの距離にあり、大きく解放された入り口から、複数のクレーンゲーム機が見えた。
外にまで機械音が響き、どこかで聞いたことのある曲が店内に爆音で流れている。
「美羽はゲームセンターって来たことある?」
「あるよー。でも前に来たときはそんなに遊べなかったから」
とりあえず一階をぐるりと回る。
どうやら一階はクレーンゲームだけのようだった。
色々なクレーンゲームを眺めていると、ある機体の前で美羽が突然立ち止まった。
「これ可愛い」
それはサメのぬいぐるみだった。
サメといってもリアルな怖いサメではなくキャラクターのような可愛らしい見た目をしている。
「確かに可愛いね。やってみる?」
「やってみたいけど、こういうクレーンゲームって全然取れないんだよね」
美羽は少し考える素振りを見せる。
「でもやってみようかな」
美羽はそう言ってお金を投入し、ボタンに手を添える。
いろんな方向からクレーンを眺め、調整した後、美羽は満足そうに頷いた。
「ここかな」
クレーンが下がり、アームがぬいぐるみを捕らえる。
思わず感嘆の声を漏らす。
「おお!」
だが期待したのも束の間、クレーンが上がった瞬間、アームは力なくぬいぐるみを落とした。
「……アーム弱すぎないか?」
「あはは、こんなもんだよ」
美羽は笑いながら言うが、その表情は少しだけ残念そうに見える。
「それじゃあ二階に行こっか」
美羽についていき、エスカレーターで二階へ上がる。
その後も二階へ行って車のゲームをしたり、プリクラを撮ったりしていると、すっかり時間が経つのも忘れてしまった。
場所は変わり、駅前の喫茶店。
昼時を外したおかげか、すぐに入ることが出来た。
注文を済ませ、一息つく。
「結構楽しんだね」
「時間が余ると思ってたけどむしろ足りないくらいだったな」
初めてのゲームセンターは想像以上に楽しく、クラスメイトがよくゲームセンターに行っていたのも納得できる。
美羽はゲームセンターで撮った写真を眺めているらしく、その表情はとても明るいものだった。
美羽も楽しめたのかな、と見ていると、次第に料理が運ばれてきた。
僕らは話しながらゆっくり昼食をとった。
('Д')