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相談相手

13話です。

左頬の痛みに目を覚ました。


軽く奥歯を噛んでみると、激しい鈍痛が襲う。


枕には赤いシミが出来ていて、頬を触ってみると小さく腫れていた。


ため息をこぼし、洗面台に向かう。


その途中でリビングによると、父の姿はなかった。


もう家を出たのか?


一応、父の部屋を確認するが、やはりいなかった。


少しだけ安心するも、喪失感が胸に残っている。


洗面台の鏡を通して、自分を見つめる。


本当に僕はこの世界にいるのか。


僕の存在理由は何なのか。


誰か、僕のことを必要としていてくれてるのか。


ネガティブな思考の中、ふと、美羽の顔が頭に浮かぶ。


そうだ、日曜日は行けなくなったんだった。


美羽になんて言おうか。


洗面台で顔を洗いながら、考える。


美羽は悲しむだろうか。


仕方ない、と言ってくれるだろうか。


それとも……。


美羽の笑顔が頭に浮かび、罪悪感で胸が痛くなる。


「どうしよう……」


その時、塾の事を思い出す。


時計を確認すると、家を出る時間はとっくに過ぎていた。


「やばいっ!」


急いで準備をして、家を飛び出した。






結局、電車にも乗り遅れ、到着は授業開始ギリギリになってしまった。


急いで教室に向かうと、既に教室は沢山の生徒で埋まっている。


幾つか空いてる席はあるものの、荷物が置いてあったり、他には教室中央の席しかない。


教室中央の席は両脇の席が座られていて、入るのが少し面倒くさそうだった。


どこの席に座ろうか見渡していると、こっちに手を振る桜の姿が見えた。


助かった、と思い、すぐさま駆け寄る。


「優太君、おはよう」


「おはよう、桜」


桜の隣に座り、一息つくと、桜は微笑みながら話しかけてきた。


「寝坊しちゃった?」


「……そんな感じ」


「意外だね。あんまり優太君が寝坊するイメージとかなかったから」


どんなイメージを持っていたのか気になるところだったが、先に授業の準備を急ぐ。


その後、すぐに先生が入ってきて授業が開始した。


授業は前回に課題として出されていたプリントの解説から始まった。


直前まで騒がしかった教室も授業が始まると静かになる。


集中して聞いていると、桜が突然話しかけてきた。


「優太君さ、今日元気ない?」


急な桜の言葉に一瞬、ドキッとする。


無意識に左頬を触りながら答えた。


「まあ、うん」


「何かあったなら話してよ」


桜は笑顔でこちらを見る。


どこかで聞いたことのあるような、安心させる声に思わず口を開きそうになった。


「実は……」


話そうとして、美羽のことが頭に浮かんだ。


美羽に聞いてほしい。


何故なのか、そんな気持ちが頭の中を埋め尽くした。


「……ごめん。人に言えない内容なんだ」


突き放してるみたいだったか、と少し後悔する。


だが、桜は笑顔のまま頷いた。


「わかった。もし話したくなったら話してよ」


「ありがとう」


桜はそう言ってくれてるのに、頭の中では美羽のことだけを考えていた。


早く美羽に会いたい。


とてつもない寂寥感が押し寄せてくる。








「今日もそのまま帰るんだよね?」


うん、と返すと桜は少しだけ寂しそうな表情を見せた。


「じゃあ優太君またね」


「また」


塾を後にして、美羽の家に向かう。




行けなくなった、と言えば美羽はどんな反応をするだろうか。


考えれば考えるほど、嫌なことが頭に浮かんだ。


悩んでいるうちに、美羽の家についてしまった。


家のチャイムを鳴らすと、美羽が笑顔が出迎えてくれた。


その笑顔が罪悪感を強くする。


「どうかした?」


「ごめん、美羽。日曜日行けなくなっちゃった」


美羽がどんな反応をするのか、怖くて顔が見れない。


少しして、美羽は笑い出した。


「別に大丈夫だよ」


予想外の言葉に動揺する。


顔を上げると、美羽はいつもの笑顔だった。


「何があったのか教えてよ」


家に入り、美羽に一通り説明する。


「だからほっぺが腫れてたんだね」


美羽の手が左頬を優しく触る。


「大丈夫だよ、優太」


じっと目を見つめ、美羽は言う。


「優太は頑張ってるよ」


その言葉を聞くと、目の前が一気にぼやけた。


呼吸が苦しくなって、顔が熱くなる。


リビングの窓には僕の顔が反射していた。


その顔は情けないほどにぐしゃぐしゃで、きっと普段の僕が見たら恥ずかしくなってしまう。


「ありがとう、美羽」




5分ほど泣き続けて、段々と正気に戻ってきた。


「お父さんに言われたから行けないってことなんだよね?」


「そう」


「お父さんは家で見張ってるの?」


「いや、お父さんはもう出ていったから2カ月ぐらいは家に帰ってこないと思う」


「お母さんは?」


「お母さんは多分寝てる」


すると、美羽は悪い顔をして言った。


「なら遊びに行ってもバレないよ」


妙に納得したような感覚があった。


「そうだよね。別にバレないよね」


お父さんがいないんだから、きっとバレない。


鼻をすすりながら、言う。


「日曜日行こうか」


「うん!あ、そうだ」


そう言って美羽は、部屋を出て行き、すぐに戻ってきた。


美羽の手にはスマホが握られている。


「連絡先交換しようよ」


「ああ、いいよ」


携帯を取り出し、トークアプリを開く。


父だけが登録されたトークアプリを見て思う。


連絡先を交換するのはこれが初めてか。


「はい、QRコード」


向けられたQRコードをカメラで読み込み、美羽のアカウントが追加される。


「もしバレちゃったら、これで連絡してよ」


「ああ、分かった」


「それじゃあ、明日はデートだし今日は解散しよっか」


別れを告げ、美羽の家を後にする。


帰り道は、少しだけ暖かった。

('Д')

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