父
12話です。('ω')ノ
「それじゃあ、美羽。また明日」
「うん!またね!」
日曜日の約束をしてから、美羽の機嫌が明らかに良くなっていた。
話している時も笑顔が増えたし、美羽から陽気なエネルギーを感じる。
それに引っ張られるように自分も楽しくなってくる。
つまらなく、長い帰り道も彼女の事を考えているだけで一瞬の時間になる。
美羽に初めて会った日から確実に僕は変わっていた。
これからきっと全てが上手くいく。
そんな気がしていた。
暗くなった住宅街を歩いていると、段々と建物の電気が消えていくのが見えた。
辺りは静まり返っていて、少しの寂寥感を覚える。
なるべく街灯の多い道を選び、家へ向かった。
帰路を歩きながら、日曜日の事を考える。
ついに明後日か。
ボーリングは行ったことがないが、どういう遊びなのだろうか。
想像するだけで興奮が抑えられない。
走りたくなる衝動を必死に抑え、大人しく歩く。
家につき、玄関を開けようとした時だった。
リビングの窓から光が見えた。
母はこの時間寝ているはず。
……もしかして帰ってきたのか。
ずっしりと胸に重い感覚が圧し掛かる。
玄関の前で耳を澄ますが、物音は聞こえない。
音を立てないようにゆっくりと鍵を開け、家に入る。
玄関の電気をつけると、リビングから父が顔を出した。
その表情には静かな怒りを感じる。
「ただい――」
「こっちに来い」
低く、厳格な声が体を強張らせる。
父についていき、リビングに入ると、机の上には前に母に見せた模試が置いてあった。
やっぱりその話か。
「そこに座れ」
黙ったまま、父の正面に座ると父はゆっくりとその口を開いた。
「前回の偏差値が82で、今回の偏差値が70。何でこんなに下がった?」
「それは他の人の点数が今回は高かっ――」
「違うだろ?」
言葉を遮り、父は言う。
「お前が努力を怠ったからだろ?」
強圧的な口調は、反論の余地を許さない。
「俺は大学に行っていないからよく分からないが、こんなにお金をかけてるんだ。お前は一位を取るのが当たり前じゃないのか?」
「一位ってそんなの……」
次の瞬間、何かが弾けるような音が聞こえた。
視界が歪み、左頬が燃えるように熱い。
視線を父に向けると、父は右手を握ってこちらを見ている。
その時、殴られたのだと理解した。
左頬を抑えながら、父を見上げる。
「日曜日は塾が休みだったな。その日は家で自習していろ」
淡々と告げ、リビングを出る。
扉が静かに閉まって、去り際の声が少しだけ聞こえた。
「今までが甘かったのかもな」
リビングは奇妙なまでに静まり返っていた。
浅い呼吸音と激しく鼓動する心臓の音だけが聞こえている。
「くそっ……!」
漏れた声は枯れていて、目の奥がじんわりとしてきた。
舌で頬の内側を触ると、歯の並びに沿って深い傷口が出来ている。
舌が触れる度、電流が走るような痛みが襲った。
「美羽っ……」
か細い声で、その名前を呟く。
祝~ポイントが増えてました。
ありがとうございます。