友人③
第11話です。
学校へ向かいながら、昨日のことを思い出す。
翼と会うのが気まずいな。
すっきりしない気持ちで教室へ向かうと、既に電気がついていた。
もう来ている人がいるのか。
扉の小窓から中を覗くと、翼がいた。
窓側の席で下を向いて何かしている。
何をしているのだろうか。
こちらに気づいている様子はなく、ひたすらに作業している。
耳を澄ませると、なんだか小雨が降っているような音がするが、別に外は雨が降っていない。
いったい何をしているのか。
扉の前で軽く呼吸を整え、扉を開く。
「おお、優太来たか」
教室に入った瞬間、思わず目を大きく見開いた。
翼は机の上のホットプレートで何かを作っていた。
「お前は何してるんだ?」
「見たらわかるだろ?焼きそば作ってんだよ」
麺を炒めながら、自信満々な様子で翼は言う。
「お前、朝ごはん食ったか?」
「……まだ食べてないけど」
「よっしゃ!おまえの分作ってやるよ!」
すると、翼は地面に置いてあったバックからソースを取りだした。
それを鉄板の上にかけると蒸発する音ともにソースの香ばしい匂いが辺りに舞った。
「匂いやば!」
一瞬でソースの匂いが教室を満たす。
「祭りの屋台みたいだな!」
変なことを言ってる翼を無視し、窓を全開にする。
流石に窓を全開にすると寒く、かと言って窓を締める訳にも行かない。
仕方なく、ホットプレートの周りに寄り、近くで翼の作ってる姿を眺めた。
意外と様になっているのが少し面白い。
「よし!完成!」
できた焼きそばを紙皿に乗ってけると、割箸と一緒に渡してきた。
「焼きそば一丁!」
「ありがとう……」
豚肉ともやしの入った普通の焼きそば。
受け取ったそれを口にする。
普通の味だが、なんだか美味しく感じる。
「美味いな……」
「おお、それは良かった」
焼きそばを食べながらどうやって昨日の事を謝ろうか考えていると、翼が頭を下げた。
「昨日はすまんかったな」
突然のことに動揺しながら、一旦焼きそばを机に置く。
「お前のこと考えずに無責任にしゃべっちまった」
「僕もごめん」
同じように頭を下げる。
「お前が気にかけてくれたのに、怒鳴ってしまった」
顔を上げ、翼の顔を見る。
「本当にごめん」
視線を合わせると、少しの間をもってから翼はふっと笑った。
「じゃ、お互い様ってことで」
「うん……」
「よっしゃ、焼きそば作るか!」
翼は腕を捲ると、バックから新しい麺を取り出した。
「お前、まだ飯食ってなかったのか?」
「いや食ったけど」
「じゃあ誰の分?」
「誰のでもないよ。作りたいから作るだけ」
やっぱこいつ変な奴だなと思っていると、扉が開いた音が聞こえた。
振り向くと、2人組の女子生徒がこちらを困惑した視線を向けている。
これはまた先生に報告されるやつか、と見守っていると、翼は驚愕するような発言をした。
「お前ら、焼きそば食べるか?」
問われた二人は戸惑っていた。
そりゃそうだよな、思いつつ、黙って見過ごす。
微妙な無言の空気が流れる。
その間にも焼きそばの出来上がる音が聞こえている。
「もうそろそろ出来上がるけど」
「……大丈夫、かな」
「私も……」
2人組は出て行ってしまった。
「いらんかったか」
片手に焼きそばを持ちながら、翼は固まっている。
「どうすんだその焼きそば」
「ま、先生に渡してくるよ」
そういって教室を出て行ってしまった。
自由だな。
残された教室で思う。
あいつみたいに自由に生きられたら、と。
******
6限目の授業は数学の授業だった。
あと10分で授業が終わる、というところで生活指導の先生が入ってきた。
教室に一瞬、不穏な雰囲気が流れるが、入ってきた先生の表情に怒りはない。
「翼、来てくれるか」
「おっけーです」
翼はバックを持つと、そのまま生活指導の先生と一緒に教室を出た。
何の用だろうか。
他のクラスメイトも気になっているらしく、ちらほらその声が聞こえてくる。
数学の教師は、手を軽く二回叩き、場を鎮める。
数学の授業は再開するも、翼の事が気になっていた。
もしかして、遅刻と欠席が多すぎて、退学か?
今朝作った焼きそばに危ないものでも入っていたのか?
それとも今までの積み重ねか?
――心当たりがありすぎる。
結局放課後になっても翼は戻ってこなかった。
(・ω・)