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友人②

第10話です

「優太、帰ろうぜ」


放課後になり、支度をしていると翼が寄ってきた。


「今日はバイトないのか?」


「ああ、最近入りすぎてたからな」


バックを持ち、学校を出る。


そういえばこうやって誰かと一緒に下校するのは久しぶりだな。


ちらりと翼の顔を覗くと、左頬に走る傷跡が目に入った。


本人曰く、昔転んだ時に出来た傷らしいが、それが本当には思えなかった。


「また怪我増えてるけど、バイトか?」


「まあそんなところだな」


腕の包帯に視線を向ける。


どんなバイトだったら、包帯を巻かなければいけない怪我をしてしまうのか。


「それ大丈夫なのか?」


「大丈夫大丈夫」


下手くそな作り笑いをくっ付けたまま、翼は誤魔化すように話を逸らした。


「優太はバイトとかしないのか?」


「塾があるから、やりたくても出来ないかな」


「塾か……お前何歳から塾通ってるんだ?」


「小4の時だから、10歳かな」


「それからずっと通ってるのか」


翼はそれから黙考を始め、こちらを強い視線で見つめた。




「お前はそれでいいのか?」




その言葉を受けると、何か、頭に引っかかった感覚がした。


思考がコントロール効かなくなって、反論したくなる。


そうかこれは――怒りだ。


「良いも悪いも親が言っているから、やらなくちゃいけないんだよ!」


衝動的に出した言葉は語気が強く、翼も驚いていた。


翼だけじゃなく、自身も驚いている。


何でこんなに怒っているのか分からない。


「やらなくちゃいけないって、そんなことないだろ……」


「そんなことあるよ」


そう言い返すと翼は黙ってしまい、沈黙が流れた。


勉強はしなければいけない。


この世界は学歴が全てで、専門なんて選択肢はないし、高卒なんてありえない。


勉強したくなくても、しなければいけない。


そこに僕の意思は関係ないんだ。


その時、気まずい静寂を壊すように、電話が鳴った。


自分ではないから翼の携帯だろう。


「ちょっと待ってくれ……」


翼は僕から少し離れ、電話に出る。


短い会話の後、電話を切って戻ってきた。


「すまん、バイト先からヘルプ呼ばれたから行ってくるわ」


「ああ、分かった」


「じゃあ、またな」


そのまま走って駅へ向かう翼の後ろ姿を見えなくなるまで眺めていた。




翼と別れた後、僕は美羽の家にいた。


時計を眺めると、時間は五時前。


塾までまだ時間はある。


ぼんやりとしていると、美羽が話しかけてきた。


「優太、遊びに行かない?」


「今日?今日はこの後塾があるから……」


「今日じゃなくてさ、他の日とか」


スマホで予定を確認すると、日曜日は塾が休みだった。


「一応、日曜日は空いているよ」


「その日、遊びに行こうよ」


分かった、と答えようとして、親の顔が頭に浮かんだ。



次の模試は絶対にいい成績を取らなくちゃいけない。



一日中勉強できる日曜日は貴重な休みだ。



――でも美羽とも遊んでみたい。



返事に迷っていると、俯いていた僕の顔を美羽が覗いてきた。


「駄目?」


上目遣いの甘え声に、断ることは出来なかった。


「行こうか」


そう答えると、美羽は不安そうな顔から一転、天使のような笑顔になった。


それを見るだけで、さっきまでの葛藤が馬鹿みたいに思えてくる。


「それでどこに行くの?」


問うと、美羽は目を輝かせながら言った。


「私、ボウリング行ってみたい!」


ボウリングか。


「優太はやったことある?」


「ないけど」


「そっか、私もないんだよね」


「それじゃあどこのボウリング行く?」


まるで遠足前日の子供のように喜び、スマホで検索し始めた。


その姿が可愛らしく、つい微笑んでしまう。


そうして美羽と日曜日の予定を決めた。

('ω')

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