非日常①
('ω')ノ
模試の結果を見た母の顔がピクピクと震え始め、机の反対側に座っていた優太は来る、と予感した。
「今回のテスト、全然だめじゃないの!」
――バンッ!
机に模試が叩きつけられ、体を強張らせるほどの大きな音とともにコップの水面が激しく揺れた。
……また始まった。
優太は胸中にため息を抑えつつ、表情を変えずに机の木目を見つめた。
「ただでさえ高いお金出して塾に通っているのにB判定って!何をしてるの?!」
「ちゃんと勉強してるんだけど……」
「勉強してないから、こんな成績になってるんでしょ!」
再び机を叩き、力の入った顔はさらに赤みを増していく。
「本当に塾で勉強しているの?友達と遊んでいるんじゃないの?」
「うん。ちゃんと勉強してるよ」
「ならどうしてこんなに点数が低いの?」
質問の内容は意味のないものばかりだ。
きっと何を答えてもまた言葉が返ってくる。
それが正しいとかは関係ないんだ。
無言のままいると、母はため息を吐いた。
「この成績じゃ、どこも大学いけないよ!」
無駄に高い母の怒号が耳に響く。
そんなことないと、喉まで出かかった反論をぐっと飲み込んだ。
ここは堪えるんだ。
ちらりと母の顔を覗くと、さっきとは変わり、期待のない、冷酷な目でこちらを見降ろしている。
「勉強しかしてないのに何でそれもできないのかしら」
そう吐き捨てると母は机から立ち上がってリビングを後にした。
扉が弾けるように閉まり、怒りの籠った足音が離れていく。
自室へ向かったのだろう。
そうして足音が完全に消えたのを確認してから、優太は力が抜けたように机に突っ伏した。
「……駄目だな」
堪えていたため息をこぼし、目頭が熱くなる。
思わず涙が溢れそうになったのに気付いて、机から体を起こした。
目の前にくしゃくしゃになった模試の用紙を眺め、胸の奥からくやしさがこみ上げてくる。
「くっそ……!」
もっと頭が良ければお母さんにも怒られずに、こんな思いもせずにいられるのに。
何故、自分はこんなにも頭が悪いんだろうか。
ついに目からあふれた涙が紙に点々と模様を作っていく。
「頑張らないと……」
いつか褒めてくれる。
怒った顔の下には僕の期待した顔があって、頑張ったと言ってくれる。
優しい言葉で僕を認めてくれる。
そう期待して、机から立ち上がった。
時計を確認すると時刻は朝の8時半。
「塾の用意するか……」
湿った目の端を拭い、優太もリビングを後にした。
('Д')