第27話「新たな呪い」
「どうして何人もの人を傷つけ――第三王妃や王子を苦しめたんですか」
「そんな話は僕が犯人だという明確な根拠を示してからにしてくれよ。次来るときはもっとよく準備をしておくんだね」
再び紅茶を口にするサマイル。
これ以上は話しても無駄だという意志が、その表情に表れていた。
「……分かりました」
そのとき、研究室の扉が勢いよく開けられた。
「ここにいたのか、ニア」
そう言って現れたのはスメラギ侯爵だった。
「侯爵……?」
「早急に執務室へ戻るんだ。大変なことが起こった」
「一体何が?」
「歩きながら説明するよ。さあ」
スメラギ侯爵はニアの腕を引くと立ち上がらせ、彼女の腕を掴んだまま研究室を出た。
ドアを潜る寸前、ニアの視界にサマイルの顔が映った。薄暗闇に浮かぶサマイルは不気味に笑っていた。
その口元が僅かに動く。
―――時間はないよ。
サマイルが確かにそう言ったように、ニアには見えた。
廊下に出ると、ようやくスメラギ侯爵はニアから手を放した。
それから侯爵はいつもより速足で歩き始めたので、慌ててニアはその背中を追った。
「あの、事件についてサマイルさんと話をしていたんです」
サマイルが犯人なのだとは口にしづらく、ニアは濁したような言い方をした。
「そうか。確かにそうだな。現場の呪印は魔術で消されていたのだから、魔術の専門家に意見を聞くのも不自然じゃない……」
まるで言い聞かせるようにつぶやくスメラギ侯爵。
「一体どうしたんですか? 様子がおかしいですよ」
侯爵は浮かない表情を浮かべたまま、苦々しく呟いた。
「王妃が倒れた」
「え―――」
ニアは思わず足を止めた。
スメラギ侯爵も立ち止り、ニアの方を振り返る。
「もう一度言う、王妃が倒れた」
「どうして―――まさか呪術ですか?」
「まずはそれを調べる。だから君を呼びに来た」
「そうだったんですね。すみません、余計なお手間を」
「いや、君が行きそうな場所は限られているからね。そんなに時間はかかってない。だけどよりによってサマイルのところとは……」
むう、と侯爵は唸る。
「行き先をきちんと伝えるようにします」
「……え、行き先?」
「ですから、侯爵に余計なお手間を取らせないようにと……」
「あ―――ああ! ああ、ああ、そうしてくれ。うん。それが良い」
スメラギ侯爵はなぜか慌てたようにそう言った。
いったい何を焦ることがあるのだろうとニアは不思議に思った。
いや、もちろん事件の犯人らしい人物のところへ単身乗り込むなんてことは、冷静になってみれば正気の沙汰じゃない。
サマイルの言う通りだ。準備をしなければ。
間違っても――とニアは侯爵を見上げる。間違っても、侯爵にとっては友人であるサマイルを侯爵自身の手で裁くようなことをさせてはいけない。
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