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宮廷呪術師の成り上がり ~奴隷扱いの日々を送ってきましたが、下女として宮廷に売られたので呪術の力で成り上がります~  作者: 抑止旗ベル
第3章「急転」

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第26話「犯人」


◆◇◆◇



 第三王妃と王子を苦しめ、街中で無差別に人々を傷つけ、そしてロザリーを呪いで操り人形にした人物。


 いったい誰だろう、と考えるまでもなく答えは出ていた。


 魔術院の長い廊下を抜けた先。


 書物に囲まれた研究室に、彼はいた。


「珍しいね、ニアさんの方から僕を尋ねてくれるなんて」

「……サマイル様」

「いやあ、嬉しいよ。さあ、座って座って。ちょうど休憩しようと思っていたところだったんだ。お茶を準備するよ」


 机で分厚い書物を読んでいたサマイルは立ち上がり、ニアに椅子を勧めると、窓際に置かれていたティーセットをがちゃがちゃといじくり始めた。


「いえ、遠慮しておきます。私はただ少しお話を聞きに来ただけですので」

「お茶を飲みながらの方が良いでしょ? せっかく話すならお互いにリラックスして話そうよ」

「…………」


 これ以上は話が進みそうになかったので、ニアは大人しく勧められた椅子に座った。


 ティーカップを二つ持ったサマイルが戻って来て、カップの片方をニアの前に置く。そしてもう片方の紅茶を一口飲み、言った。


「そう怖い顔をされちゃ、話せることも話したくなくなる。さあ、飲んで」


 同じ紅茶を相手も飲んでいるのだから安全だろう。ニアは少し躊躇いながらカップに口をつけた。


 普通の紅茶のように感じた。


「――話というのは、城下街の切り裂き事件のことです」

「あれ? その調査ってもうニアさんとスメラギ君は担当から外れたんじゃなかったっけ?」

「事件の現場で呪印が見つかったんです」

「へえ、呪印がねえ……」


 音を立てて紅茶を啜りながら、サマイルは窓の外へ視線を向ける。


 窓からはちょうど夕日が差し込んでいた。


「そしてその呪印は魔術によって隠ぺいされていました。恐らくは、ロザリーの手によって」

「ロザリー? ああ、あの新しく入って来た下女の子だね。確か死刑が決まったんだって? 残念だなあ、せっかく仲良くなれたのに」

「……であれば、この黒いローブは仲良くなった印に彼女へプレゼントしたものですか?」


 ニアはロザリーの前でもやったように、畳んだ状態で持っていたローブを広げた。


 サマイルが僅かに眉を動かした。


「そんなもの、よく見つけたねえ。確かに僕が送ったものだよ」

「黒いローブを着た人物を事件現場で見たという証言があります」

「…………」

「犯人はおそらくこのローブをロザリーに送り、呪術によって彼女を操って現場に残った呪印を消させた」

「へえ、そうか。なるほど、筋は通ってるね。でもその言い方だと、まるで僕がその犯人みたいじゃないか」

「はい。あなたがその犯人です――サマイル様」


 ティーカップを置いたサマイルは口元を覆うように手を翳し、ふうん、と呟いた。


「根拠は?」

「あなたはロザリーと仲が良かったと聞いています。夜な夜な密会するほどにね。そんなあなたなら、ロザリーを呪術にかけて操ることも簡単だったでしょう。あとは、あなたが街中に仕掛けた呪印を彼女に魔術で消させるだけです。そうすれば証拠も残りません」

「ははあ、なるほどねぇ」

「そして第三王妃を苦しめた事件も、宮廷を自由に出入りできるあなたなら実行に移せます。あの事件、呪印は王妃の部屋の扉に施されていました。あの程度の呪印なら一瞬で作成できます」


 ニアが話し終えても、サマイルは何も言わなかった。



 沈黙の時間が訪れた。


 夕日はずいぶん傾いて、研究室は暗闇に覆われようとしていた。


「……切り裂き事件の呪印ってさ、10か所全部から見つかったの?」

「え?」

「もう一度言おうか? 切り裂き事件の現場で見つかったっていう呪印は、すべての現場から見つかったの?」


 それは、とニアは言葉を詰まらせた。


 ニアが確認した一か所と、それからフウンが証言した東の城門と中心街の路地裏には確かに呪印があった。


 しかしその場所以外では、呪印はまだ見つかっていないのだった。


「でも――呪術が発動したのは確かなんです。きっと呪印もあるはずです」

「そんな不確かなことを言われても困るな。……まあ、いいよ。仮に僕がロザリーを操って呪印を消させたとしよう。でもそれだと僕も呪術師だってことにならない?」

「あの魔石という装置ですが」

「……それがどうかしたの?」

「なんとなく呪術に似ているような気がしたんです。呪印と同じように、どこかへ設置しておけばその場所で発動する。そしてそれを設置したのが誰なのかは、術の影響を受ける人間には分からない」

「自分で何を言っているのか理解してるのかな? かなり無理のあるこじつけだよ」

「……分かっています。ですが、あなたが呪術を使えるのなら辻褄は合うんです。これまでどんな魔術師も考えつかなかった魔石というシステム、それが呪術をきっかけに生まれたのだとしたら……」


 ふふ、とサマイルは声を漏らすように笑った。


 甘い笑みだ。この笑みで何人もの令嬢を虜にしてきたことだろう。


「辻褄合わせで犯人扱いされちゃたまらないな。そもそも前提を忘れてるんじゃない?」

「前提?」

「僕は魔術院の魔術師だよ。以前ニアさんたちが僕に事件のことを相談しに来た時も言ったじゃないか。僕くらいのレベルになれば、魔術で同様の事件を起こすこともできるって」

「……!」

「分かるかい? ひとつひとつの現場に呪印をしかけて他人を切り刻むなんて手間のかかる芸当をやるくらいなら、魔術で十分なんだよ。証拠も残らないし」

「つまり、呪術を使用する必然性があったということ……ですか」

「さあ、どうだろうね。ただひとつ言えるのは、君は無防備すぎるってことだ」

「無防備?」


 予想外の言葉に、ニアは一瞬戸惑った。


「その紅茶、僕が淹れたんだよ?」

「……同じものをあなたも飲んでいます」

「どうかな? 君のカップにだけ細工をすることは可能だよ」

「!」


 ニアは自分のカップを見た。


 確かに可能だ。例えば、飲み口の辺りに毒を塗るとか―――。


「ま、そんなことはしちゃいないけどね」

「…………」


 やはりサマイルが犯人で間違いない、とニアは確信した。もちろん呪術師の勘というのもあるが、何よりサマイルは一度も自分が犯人であることを否定していないのだ。



読んでいただきありがとうございます!


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