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第14話「魔石」


◆◇◆◇



「いやあ、大変だよねえニアさんも。下女として雇われたかと思ったら、あんな意味の分からない事件を解決しろだなんて」


 城の中を練り歩く、金髪の青年と小柄な少女の二人組。


 先ほどから青年は絶え間なく少女に話し続けているが、少女の方は曖昧に返事をするだけでまともに取り合おうとはしていない。


 だが、青年――サマイルの美貌は否が応でも周囲の目を引き、廊下ですれ違う侍女たちは例外なく彼を振り返り、羨望のまなざしを向けていた。


 そのこともまた、少女には居心地が悪かった。


「悪目立ちしている……」

「え? 何か言ったかい?」

「いえ、大したことは言ってません……」


 少女――ニアはげんなりしていた。


 適当に散歩をするだけのつもりだったのに、どうしてこんなことになってしまったのだろうか。


 さっきからすれ違う侍女が、「なんであんな子がサマイル様と……」なんて囁き合っているのが聞こえていた。


 こんなことで余計な恨みを買いたくないんだけどなあ。ただでさえ下女からスメラギ侯爵の部下になったことで、裏では散々な言われようをしているらしいのに。


 ニアは立ち止った。


「あれ、もう終わり?」


 サマイルが首を傾げる。


「一応、本城を一通り回りました。見回りはこの辺りで終わりです」

「あー、そっか。残念だなぁ」


 わざとらしく落ち込んだ表情を浮かべるサマイル。


 とりあえずこれで彼とはお別れできるだろうと、ニアは安心した。


 具体的にどこが――というわけではないのだが、ニアはサマイルが苦手だった。


 なんだかどっと疲れた。部屋に戻って休もう。


 ニアがそう思ったとき、サマイルが唐突に言った。


「じゃあ次は僕の研究室を案内してあげよう」

「……はい?」

「君、魔術は使えるんだっけ?」

「ええと……それが、全くダメで」


 ニアの言葉にサマイルは満足げに何度も頷く。


「そうかそうか。だったら猶更だよ。僕の研究を見て少しでも魔術を知ってもらえれば、きっと君のこれからにも役に立つだろう。喜んで案内するよ。さあ、こっちこっち」


 サマイルはニアの肩に手を置き、魔術院のある棟へと歩を進め始めた。


「で、でもサマイル様の研究室ならこの間――」

「ああ、あれは一部に過ぎない。この国最高峰の魔術師の研究室が、あんな書庫みたいなところだけに収まると思うかい?」


 言われてみれば確かにそうかも、とニアは納得した。


「だろ?」

「いや何も言ってないですけど、私」


 ニアの返しに、はっはっは、とサマイルが笑う。


「とにかく、今から君は魔術院の研究室に来るんだ」

「どうしてもですか?」

「逃れられない運命だよ」


 というわけで、抵抗する間もなくニアはサマイルに連れられ、魔術院へとやって来たのだった。


「……案内と言われても、何うぃしていただけるんですか?」

「僕の研究成果を教えてあげるよ。僕がどれほど偉大な存在かを君にアピールする良いチャンスだ」


 今なら邪魔な奴もいないしね、とサマイルは呟く。


「サマイル様の偉大さなら、十分承知しているつもりです。若くして魔術院の一員となった魔術の天才……そんな話を聞いたことがありますよ」

「ニアさんにそう言ってもらえると嬉しいね。そうさ、僕は魔術の天才。だけど僕の具体的な研究成果を、君は知らないだろう?」


 うっ、とニアは言葉に詰まった。


 確かに知らない。というか、知ろうとしていなかったのかもしれない。(興味もあまりなかったし。)


 一見失礼にも思えるニアの反応だったが、意外にもサマイルは上機嫌だった。


「やっぱり知らないだろう? よしよし、今日は僕の研究成果をたっぷり教えてあげよう。まずはこっちに来てくれよ」


 サマイルは廊下を歩き始めた。ニアもその後に続く。


 しばらく歩くと、工房のような場所に出た。


 白衣を着た何人もの人が、透明な球体を持って部屋中を行ったり来たりしていた。


「ここは……?」

「魔石の研究所だよ」

「魔石?」

「そうだねえ、分かりやすく言えば『魔法を発動してくれる機械』ってところかな」

「魔法を発動してくれる……ですか」

「本来、魔法というものはそれなりに訓練を積んだ者しか発動できない。かつては、城下街の街灯は専門の魔術師が一つ一つ点灯させて回っていたんだよ。でも、今は違う。君もそんな仕事をしている魔術師を見たことないだろう?」

「確かにそうですね。じゃあ、どういう仕組みなんですか?」

「あれはね、街灯に設置された魔石が『街灯を点ける魔法』を発動させているんだ」

「……そうだったんですか」


 ニアはお世辞でなく感心した。


 街灯がそんな仕組みで機能しているなんて、本当に知らなかったのだ。


「で、その魔石の理論の基礎を構築したのが僕ってわけ」

「えっ、すごいですね」


 素直なニアの反応に、サマイルは分かりやすく喜んだ。


「だろ、僕ってすごいんだよ。僕があの理論を生み出さなければ、今も城下街の街灯は手動で点灯させるしかなかったんだ」

「この方たちは、サマイル様が発明した魔石を研究されているというわけですか」

「そうだよ。……いや、まあ、そうなんだけどね」

「何か?」

「確かに魔石の理論を発明したのは僕だ。だけど、今はもう魔石の理論は僕の物じゃない」

「……?」


 サマイルが言おうとしている意味が、ニアにはよく分からなかった。


 ニアが首を傾げていると、サマイルは笑みの消えた表情を浮かべ言葉を続けた。


「取り上げられたんだ。魔術院の老害と貴族どもにね。魔石の理論は魔術院全体で作り上げたもの、ということになった。そしてそれらが生み出す利益は貴族たちに」

「そんな……」


 なかなかひどい話だ、とニアは思った。


 少しだけサマイルに同情した。


「で、魔石の理論を取り上げた代わりに僕が任されたのがこの研究所ってわけ。あの壁に貼ってある図面を見てごらん」


 一方のサマイルはいつものにこにこした顔に戻り、明るい声で話し始めた。


「あの、城下街の地図ですか?」

「そうそう。あれに印がつけてあるだろう? あそこにそれぞれ魔石を設置していく計画なんだ。城下街のシステム……街灯や水道、料理をするときに使う焜炉なんかも全部、この魔石がコントロールしてくれるようになる」


 へえー、とニアは感嘆の声を上げた。


 サマイルという魔術師は、ただちょっと変わった人というだけではなかったらしい。



読んでいただきありがとうございます!


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