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2 とあるオフ会の出来事

Mystery Circle投稿作品。

直接的には「フォニ」は関わってこない作品だけど、一応

お題は以下のとおり


起の文: フルーツパフェはアイスのまわりをフルーツが囲んでおりまして、フルーツクリームパフェはその上にさらに生クリームがかかっております。

結の文:実に気の回る殺人者であった。

「フルーツパフェはアイスのまわりをフルーツが囲んでおりまして、フルーツクリームパフェはその上にさらに生クリームがかかっております」

「違いはそれだけなんですか?」

「はい」

「そうなんだ……」

 どちらにするか悩むなぁ、そう呟きながら少女がメニューをじっと見つめている。

 かれこれ5分ぐらい悩んでいるのではないだろうか。

 注文を取りにきたウェイトレスの表情はにこやかではあるが、内心どう思っているかはわからない。

「早く決めてくれよ……」

 ついに少女の隣に座っている少年がうんざりした様にそう呟いた。

「よし、決めた。フルーツクリームパフェ、下さい」

 少年の呟きが聞こえたかはわからないが、ようやく何を注文するか決めた。

「フルーツクリームパフェ、ですね。注文は以上で宜しいでしょうか?」

「あっ、フルーツパフェ、お願いします」

 少女の正面に座っている少年がそう言った。

「注文を繰り返します。チョコレートパフェ、フルーツパフェ、フルーツクリームパフェが一つ、カフェアメリカーノが二つ、アイスコーヒーが一つ、アールグレイがお一つ、以上で宜しいですか」

「はい」


 ウェイトレスが少女達のテーブルを離れると少女と少女の正面に座っている少年が微笑みあう。

「よくわかってるね」

「当たり前さ」

 少女が両手を前に伸ばし、少年はそれに応え両手を彼女の両手にパチンと音を鳴らし合わせる。

「……お前ら本当に初対面なのか?」

 あまりに二人の息が合っているので少女の隣に座っている少年がそう突っ込みを入れた。

 他の客がこのやり取りを見聞きしていたら誰もがそう思うだろう。

「初対面以外にどう見えるって言うのよ」

「どうこからどう見ても、そう見えないから言っているんだろうが」

 少女の言葉に隣に座っている少年がそう返す。

「……ミソラと陸も初対面には見えないぞ」

 今まで口を出さずにやり取りを見ていた青年が二人の会話を聞いてそう突っ込んだ。(因みにこの青年は少女の左斜め前に座っている。)

 他の三人よりも年をとっている様に見えるのは落ち着いているからだろうか。

(実際、他の三人よりも年をとっているのだが、それ程離れているわけではない)

「むぅ……」

 青年の言葉に陸と呼ばれた少年が気まずそうに頬をかいている。

「結局、今日来るのはこの四人だけ?」

 ミソラの正面に座っている少年がミソラにそう尋ねた。

「学生は夏休みだけど、社会人はまだ夏休みじゃないからね」

「他のメンバーって全員、社会人だっけ?」

「学生の人もいるけど、私や陸、遊のように高校生の人が多いからね」

「あ~住んでいる場所がここから遠いのか」

 ミソラの言葉に頷きながら遊と呼ばれた少年はそう返した。

「色々な所に住んでいる人、色々な年齢の人と交流できるのがネットのいいところだけど、こうしてオフ会するときに困るよね」

 ため息混じりにそうミソラは呟いた。

 今回のオフ会の幹事はミソラだ。日程の調整で苦労したのだろう、ため息が重たい。

「盆前とか盆にすれば社会人の人も来れたんじゃないか?」

「盆前や盆だと用事がある人が多いから、結局参加できる人数が変わらないのよ」

「そうなのか」

「ええ。他に別の理由もあるんだけど、その理由を今言うと後の楽しみがなくなるから内緒ということで」

「あ~この後、何処か行くのって聞こうと思ってたんだけど、それも内緒?」

「うん。内緒」


 こんな会話をしている内に注文していた品が全部来た。

「ご注文は以上で宜しいでしょうか?」

「はい」

 ウェイトレスがミソラ達のテーブルを離れるとミソラは自分が注文したフルーツクリームパフェと遊が注文したフルーツパフェを見比べた。

「本当に生クリームがかかっているかしか違いがないね」

「……これで値段が200円違うんだよな……」

 フルーツクリームパフェとルーツパフェの違いは生クリームがかかっているかいないか。それなのに値段が200円も違うのだ。

 しかもフルーツクリームパフェの方が割高感があるのにこの店の一番人気はフルーツクリームパフェらしい。

「「「……」」」

 ミソラ、陸、遊の三人共がじっと同じ場所を見ている。

 その視線の先にあるのは……

「どうしたんだ、ミソラ、遊、早く食べないと融けるぞ?」

 チョコレートパフェを美味しそうに食べている青年だった。

「いえ、キラさんがそういうのを食べているのが意外でして」

 三人の気持ちを代弁するようにミソラがそう言った。

「むっ、そんなに意外か?」

「意外と言うか何と言うか……」

 陸は似合わないという言葉を何とか飲み込んだ。

「甘党とは聞いてましたけど……」

「喫茶店に友達とかと行って、俺が甘いものを頼むと皆、驚くんだよな」

「その友達の気持ちよくわかりますよ」

「最近は一人でこういう店に入って甘い物頼むのが恥ずかしくなくなったけど、高校時代は恥ずかしく他の人を連れて行ってたな」

「男性だけでですか?」

「いや、恥ずかしがって行きたがらない奴が多かったから、クラスの女子とよく行ったよ」

 キラのその言葉を聞き、ミソラの目がキラリと光った。

「ほぅ……女性とですか……」

「色っぽい話は全くないぞ」

 そんなミソラを見てキラは苦笑しながらそう言った。

「え~そうなんですか?」

「何度も同じ子を誘うのも悪いかと思って毎回違う子を誘ってたら、昔からの知り合いの子に忠告されたよ。あなたが誘うと期待する子や勘違いする子が多いから意味深に誘うなって」

「あ~キラさん程の美形の人ってそうは見かけませんからね」

 キラの言葉に頷きながら納得するミソラ。

 ミソラのその言葉に今度は陸の目が光った。

「まさか、惚れたか?」

「う~ん、確かにキラさん程の美形の人は滅多にいないけど、私はただ美形なだけの人ならパーティーとかで見慣れているからね。滅多にいないとは言ってもいるところにはいるし」

 陸の言葉に対し冷静にそうミソラは返した。

「お嬢だ……お嬢かも知れないとは思ってたけど、本当にお嬢だ」

「ええ、お嬢よ。お嬢様とお呼び」

「「ははぁ、お嬢様」」

 ミソラの言葉に陸と遊はテーブルにひれ伏しそう言った。

「お前達、本当に息が合っているな」

 キラが思わずそうこぼしてしまうのは仕方がないことだ。

「そうだった。キラさん、一つ質問宜しいですか?」

 ミソラが唐突にそう言った。

「答えられる範囲内なら。因みに彼女はいない」

「あっ、いないんですか……意外……キラさんって何であんなHNなんです?」

 キラの言葉に反応しつつそう尋ねるミソラだった。

 キラというのは彼の本当のHNではない。

 彼の本当のHNは殺人者なのだ。

 殺人者→Killerキラー→キラという事でキラと呼ばれている。

「ああ、俺の本名がキラなんだよ」

「あっ、そのままなんですね。名字ですか?」

「ああ、漢字はこうだ」

 キラは鞄から手帳を取り出し「綺羅」と書いた。

「吉良上野介の吉良とは違う字なんですね」

「よく間違えられるよ」

 ミソラの言葉にキラはため息を吐きながらそう言った。

「確か陸は本名そのまま、遊はもう一つのHN小鳥と共に本名をもじったものだったよね」

 私は読み方を変えたものだけど、と言うミソラの言葉に陸と遊は頷いた。

「本名そのままの陸は置いておくとして、遊の本名、HNから想像がつくよね。2つのHNと本名をもじったものということを知らなきゃ想像できないだろうけど」

「あ~やっぱりバレバレか」

「それはそれだけ情報が揃っていればな」

 苦笑いを浮かべながらそう言うキラ。

 しかし、一人だけその会話にはてなマークを浮かべている人物がいる。

「……あの俺、さっぱりわからないんだけど」

 陸だ。

 陸のその言葉にミソラとキラが呆れたような視線を投げつける。

「わからないってそのままなんだけど」

「そのまま?」

「はぁ……こうよ」

 ミソラがキラの手帳を借りて「小鳥遊」と書いた。

「……これ、何て読むんだ?」

「やっぱり知らないかのね」

「読み方を知っていたら遊の本名の予想がつくだろうしな」

 陸の疑問にため息を吐きながらそう返すミソラとキラ。

「タカナシって読むんだよ」

「これでタカナシ、って読むのか」

 遊の言葉に関心したように陸がそう呟いた。

「ミソラ、時間大丈夫なのか?」

 会話が途切れたところでキラがミソラにそう聞いた。

「あ~そろそろ移動した方がいいね」

 腕時計で時間を確認し、そう言ったのでミソラ達4人は店から出た。


「これから何処へ行くんだ?」

 店を出るとすぐに陸がミソラにそう聞いた。

「ん~3時30分まであそこで時間つぶし……かな」

 ミソラはそう言うと一際大きなビルを指差した。

「時間つぶし?」

「そう。実は3時ぐらいから来れるかもしれないっていう人がいてね。あそこで待ち合わせになってるの」

 今が2時45分。ゆっくり歩いても3時には十分にあのビルに着くだろう。


「どうするんだ、来るかもしれない人が来るか時間がくるまでじっと待っているのか?」

 ビルの中に入ると陸がそう言った。

「俺、見たいものがあるから行っていいか?」

「あっ、俺も」

 ミソラがどうしようかと悩んでいるとキラと遊がそう言った。

「そう。じゃあ、私と陸はここで待っているよ。待ち合わせ場所がここになっているから私はあまり動きたくないし」

「俺も少し……」

「却下ね」

 陸の言葉を遮ってミソラは無碍なくそう下した。

「何故だ」

「時間までに戻ってきそうにないから」

 陸は遅刻の常習犯らしく、実際、今日も集合時間よりも15分遅れた。

 そう返されると陸は何も言い返せなかった。


「なぁ、それ何なんだ?」

 キラと遊の姿が見えなくなると、陸はミソラの背負っているものを見ながらそう言った。

「これ?今はまだ秘密」

「重くないのか?」

「それは、重いわよ」

 ミソラが背負っているものは長さが1m以上ある。幅も結構あるし、ミソラが女性にしては背が高いほうでも、背負っているのではなく背負われているように見えてしまう。

「それにしても、カップルが多いわね」

「若者向けの店が入っているからなぁ」

「私達、傍から見るとどう見えるのかな……例えばこんな風に腕を組んだりしたら」

 そう言うとミソラは陸の腕に自分の腕を回した。

「……おい」

「いいじゃないの減るものじゃないし」

「減る減らないの問題じゃない。それに当たってる」

 陸が慌てた様子でそう言うが、ミソラは聞く耳を持たない。

「当たってるって何が?」

 そう言うとミソラは陸の腕をより自分の胸に引き寄せる。

「……俺をからかって楽しいか?」

「ええ、凄く」

「ふ~ん、楽しそうねぇ~」

 陸が肩を竦めていると背後からドスの聞いた声が聞こえた。

「な、何で海がここにいるんだ? 今日はバイトじゃなかったのか?」

「何でって言われてもねぇ」

 海と呼ばれた少女は陸の腕をじっと見ている。

「えっと、これはだな……ミソラが……」

「陸、この人誰?」

 陸が何か弁明しようとしたらミソラがそんな事を聞いてきた。

「『ミソラ』に『陸』ねぇ……呼び捨てで呼び合うほど仲がいいんだ♪」

 歌うような口調でそう言っているが、それが余計に恐ろしさを出している。

「あの……だなぁ……」

 目線でミソラに助けを求めてみたが、ミソラは微笑んでいるだけだ。

「あはは……」

 海の乾いた笑いが陸の耳に異様に響く。

「あの、あの……だなぁ……」

 陸は何かを言おうとしているが言葉が上手く出てこないようだ。

「く……」

「……く?」

「……く……くぅ……あ~もうダメ……可笑しい……」

 海が急に笑い始めた。

「海、だめだよ、笑ったら。折角、これから面白くなるところだったのに」

「……もしかして俺、からかわれた?」

「そうよ……ああ、可笑しかった」

 思う存分笑ってから海はそう返した。

「来るかもしれないもう一人って、海の事だったのか。今日は用事が入っているから無理って言ってなかったか?」

「久しぶりに会うんだし、こんなサプライズもいいかなって思ってね」

 陸の疑問にミソラがそう答えた。

「久しぶり?」

「もしかして、気づいてないの?」

「気づいているわけがないでしょ。気づいてたらあそこまで慌てないでしょ」

 陸が頭にはてなマークを浮かべているのを見て、ミソラと海は好き勝手にそんな事を言う。

「え……何……」

「陸・海・空……これでわかるでしょ?」

「……もしかして……ソラなのか?」

 海のヒントに陸は驚いた表情をしながらそう言った。

「ええ、久しぶり」

 ミソラの本名は美空ミク、海の本名は七海ナナミという。(因みに七海のHNはニックネームと同じ海)

 3人は幼馴染でそれぞれの名前に陸・海・空の文字が入っているので、陸海空トリオと呼ばれることもあった。

 ミソラが小学2年生の時に転校したため、離れ離れになっていたのだ。

「久しぶりだなぁ……今更だけど」

「本当に今更だけどね」

 陸の言葉にミソラが肩を竦めながらそう返した

「雰囲気が違ったから全くわからなかったぞ」

「うん、ソラ、雰囲気変わったもんね。私も、昨日会ったときびっくりしたもん」

 陸の言葉にそう同意する海。

「あ~そろそろいいか?」

 背後からそんな声が聞こえた。

「あっ、ごめんなさい。キラさん」

「いや、無事、海とも合流できたようだな」

 人数が一人増えていることを確認すると、キラはそう言った。

「キラさんは海がくること知ってたのか?」

「ああ。因みに知らなかったのは陸、お前だけだ」

 キラの容赦ない一言に落ち込む陸。

「で、ソラ、何処に行くの?」

 そんな陸を無視して海がミソラにそう聞いた。

「背負っているのは……フォニだよね?もしかして、ソラのフォニ、聞けるの?」

 目を輝かせながらミソラにそう言い迫る。

「ケースだけでフォニってわかるって……海、本当にフォニが好きなんだね」

「ええ、私は弾けないけど……聞くのは凄く好きだよ」

 ミソラの感心したような呆れたような言葉に海はそう嬉しそうに答えた。

「では、そんな海に問題。この周辺にフォニで有名な場所があります。何処でしょう?」

「この周辺……もしかして……」

「そのもしかして、よ」

「え?音楽祭以外の日でも部外者、入れるの?」

「事前に許可を得ればね」

「うわ~楽しみ♪」

 海はミソラの両手を握り締め、上下に大きく振り喜びを表現する。

「……で、結局、何処に行くんだ?」

 話についていけていない陸がそう聞いてきた。

「私の通っている高校よ」

「ソラ、あそこに通っているんだ。ということは優秀なフォニストなんだ。う~ん、楽しみ」

 ミソラの言葉に反応し、そう楽しそうに言う海。

「時間には早いが、行くか。海が待ちきれなそうだしな」

 そんな海の様子を見て苦笑しながらキラはそう言った。

 今でも他の客に半分見世物状態になっている。

 これ以上、ここにいてもいい見世物になるだけだろう。

 実に気の回るキラであった。


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