夢を叶える紙
ある所に三つ編みをしたエイプリルという女の子がいました。エイプリルはいつもいつも夜遅くまでおきていて、窓から見えるお城をジーっと見つめながら想像を広げることが好きでした。
「はぁ、わたしもあのお城で開かれる舞踏会に行ってみたいわ」
お城で年に数回開かれる舞踏会は、貴族だけが参加出来るので、町娘であるエイプリルには夢のまた夢でした。
しかし、年末に開かれる舞踏会では、ドレスコードさえ満たせれば誰でも参加が許されているのです。
エイプリルはいつかお金を貯めて綺麗なドレスを買って舞踏会に行く事を夢見ていたのです。
しかし、エイプリルのお家は裕福とは言えなかったので、いつになるかは分かりませんでした。
そんなエイプリルは、お友達と遊ばない日は決まって、大人達の噂話に聞き耳を立てていました。中には、舞踏会に行った事がある人の話を聞けたりした事もあったので、想像を広げるために聞いていたのです。
今日もまた、聞き耳を立てていると、二人の大人の会話がエイプリルの耳に入ってきました。
一人は大柄で髭がモジャモジャの男の人で、もう一人は細身でキツネ目をした男の人でした。
「なあ、知ってるか? 湖の側に生えてる木の下に宝箱が埋まってるっていう話」
「宝箱だあ? 知らねえなぁ。それでその宝箱にはいったい何が入ってるんだ?」
「それがな、宝箱には何でも願い事を叶えてくれるっていう紙が入ってるらしいんだ。書けば願いを叶えてくれるらしいぜ」
「ハハハ、願い事を叶えてくれる紙ねぇ。本当にそんなもんがあるのか?」
「ああ、酒場でコソコソと喋っていたヤツの話を聞いてたからな」
「酒場でかよ! そんなの酔っ払いの戯言だろ」
「でもよ、具体的な使い方も言ってたんだぜ? 願い事を書いた紙を枕の下に置いて一晩寝ると叶うらしい。その話を聞いて試してみたくなったんだ」
「フッ、そうかよ。今日は時間もあるし暇つぶしに探してみるか」
その言葉を聞いた瞬間にエイプリルは走り出しました。二人の男たちより早く行って、その紙を見つけ出そうと思ったのです。
しかし、エイプリルは走りながら考えていました。湖の周りにはたくさんの木があるからです。
どうやって宝箱が埋めてある木を見つけようかと悩んでいると、湖に到着しました。
辺りを見渡し、たくさん生えている木を見たエイプリルは諦めそうな気分になりました。
しかし、何もしないで帰る気持ちにはならなかったので、近くの木から探してみようと近づいてみると、土の色が違う場所がありました。
その場所を掘り返してみると、そこには手のひらサイズの宝箱がありました。
エイプリルは「わあ!」と喜び、宝箱を開けてみると、一枚の紙が入っていたのです。
エイプリルは見つけたと同時に、不安にもなっていました。この後に来た大人達がここを見つけたらどう思うだろうかと考えていました。
話を盗み聞きしただけじゃなく、願いを叶えてくれる紙も取った事が分かれば探されて取られてしまうかもしれないと思ったのです。
そこでエイプリルは思いつきました。お絵描き用に持っていた紙を宝箱に入れて元あった場所に戻せば分からないだろうと考えたのです。
キョロキョロと周りを確認して、大人達がまだ来ていない事を確かめると、宝箱に紙を入れて元に戻しました。
「これでよし! 帰ろっと!」
エイプリルは得意げな様子で、お家へと帰って行きました。
お家に着いたエイプリルはさっそく願い事を書いて枕の下に紙を置きました。綺麗なドレスを着て舞踏会に行く事を書いたのです。
そして夜になり、エイプリルは眠ろうと思いましたが、願いが叶うのだと思うと、興奮して眠ることが出来ませんでした。
そこでエイプリルはまだ起きていたお母さんに眠れる方法はないかと聞いたのです。
エイプリルが眠れる方法を聞いてみると、ホットミルクを飲むとリラックスして眠りやすくなると教えてくれて、お母さんがホットミルクを作ってくれることになりました。
ホットミルクを飲んだエイプリルはベッドにもぐりこむと、だんだんと眠たくなって、いつの間にかスヤスヤと寝息を立てて眠りました。
朝になってエイプリルが目を覚ますと、お布団の上に綺麗な真っ赤なドレスがありました。
「わあい! やった! 叶ったんだ!」
エイプリルは飛び起きて喜んでいました。そして、ドレスを前にしたエイプリルは我慢が出来ずさっそく着替えたのです。
真っ赤なドレスを着たエイプリルは、嬉しくなって誰かに見てほしいと思い、お家を飛び出してみると、そこには王子様がいました。
「ああ! なんて素敵な女性なんだ! よければ私のお城の舞踏会に参加していただけませんか!」
王子様からの突然のお誘いに、エイプリルは「もちろんよ!」と返事をしてお誘いを受けました。
エイプリルは王子様が乗ってきた馬車に乗せてもらいお城へと向かう事になったのです。
お城に到着すると、周りにはたくさんの人とたくさんの料理が並んでいました。
おいしそうなお菓子を発見したエイプリルは我慢が出来ずについ手を伸ばしパクリと食べてしまうと、甘くておいしくて幸せな気持ちになりました。
王子様にダンスに誘われたエイプリルは、踊る事になりました。ダンスを習った事がないエイプリルでしたが、まるで何年も習った事があるように踊ることが出来ました。
エイプリルはいつも想像していた舞踏会に参加することが出来て、とても幸せな気分でしたが、突然世界が揺れ始めました。周りの人は何も反応せず、エイプリルだけが慌てていました。
「……さい。……なさい。朝よ、起きなさい」
エイプリルはお母さんに揺さぶられていました。
「ん……あれ、王子様……は?」
「ふふふっ、王子様? もう、寝惚けてないで起きなさい。朝ごはん出来てるわよ」
エイプリルは夢を見ていたのでした。舞踏会へ行ったことが全部夢だと分かって、とても落ち込んでいました。
エイプリルはとても落ち込んでいたので、お友達とも遊ばず、町へ行って聞き耳を立てる事もしないで、ずっとお家でうずくまっていました。
「願いを叶えてくれるなんて嘘じゃない」
エイプリルはうずくまりながらぽつりとつぶやきました。
でも、夢の事を思い出してみると、少し幸せな気持ちになりました。いつもの夢と違ってとても現実のように感じていたからです。
日が落ち、外は真っ暗になって寝る時間になりました。いつもの様にお城を見ながら想像する気分にはなれなかったので寝る事にしました。
外が明るくなり、目を覚ましてみると、そこには昨日見た夢と同じように綺麗な真っ赤なドレスがお布団の上にありました。
エイプリルはそれを見てこれは夢なんだと分かると「はぁ」と溜息を吐いたのです。
しかし、夢だとわかっても、とても現実の様に感じる夢だったので、わくわくを抑えられず、ドレスを着て舞踏会に行く事にしました。
「夢……でもいいや。起きるまでいっぱい楽しもう!」
エイプリルは夢である事を受け入れて、楽しむことにしました。さっきまで落ち込んでいたのは無かったかのように舞踏会を楽しんだのでした。
その日からエイプリルは毎日していたお城を見ながらの想像をやめました。その代わりに現実のような夢の中で想像を実現させることにしたのです。
夢の中ではエイプリルの想像次第で色々(いろいろ)と変えていける事に気が付いてからは、毎日夢の中で想像を叶えていたのでした。
「ゆめのなか」というテーマに惹かれて書いてみました。
童話を書いたことも無く、書いてみようと思った事もありませんでしたが、書いていてとても楽しかったです。
読んでくださりありがとうございました!