第83話 香港の発火
ヴィクトル大尉は管轄のエリア長に対して、兵をさらい殺した者を知らせるか連れてくるように通達を出す。
彼はエリア長からの返事が欲しいわけではなかった。彼は兵士殺しの犯人を捜しているという事実が欲しいのである。
2週間後、香港基地から犯人の調査状況を聞いて来る。ヴィクトル大尉はエリア長に犯人の調査を依頼していると回答する。
メレンチー司令官は報告を聞いて言う。
「何を手ぬるいことをしている。探す気はあるのか。本隊から人を出して見本を見せてやれ。」「そうですが・・・」
「どうした。」「犯人の特定は難しいと思われます。」
「頭を使え。第3方面軍の管轄エリアへ行き、歯向かった者を犯人として拘束すればいいのだ。」「証拠がありません。」
「我々が兵士に手を出したらただで済まないことを知らしめればいいのだよ。」「分かりました。」
1時間後、3両の装甲車が香港基地を出発する。装甲車は兵士の死体が発見されたエリア31に向かう。
装甲車がエリア31に到着すると入り口に車両を止め、兵士たちが降りてくる。住民が気付き近くに集まり始める。
エリア長が走って来る。
「このエリアには兵士を殺した者はおりません。」「嘘をつくな。死体は入り口で発見されたのだろ。」
「確かにそうですが・・・」「見ていた奴がいるはずだ。そいつも同罪だからな。今から捜査を開始する。」
「何をするつもりですか。」「どけ。」
エリア長は止めようとするが、兵士に蹴られ転がる。それを見ていた住民が騒ぎ出す。
「帰れ!」「人でなし。」「はいるなー」
兵士は自動小銃を構えて入って来る。住民の1人が飛び掛かる。しかし、兵士に小銃で殴られ倒れたところを袋叩きにあう。
それでも腕に覚えのある住民が向かって行く。住民は銃で足を撃たれて倒れたところを拘束される。
他の住民たちは兵がためらいもなく銃を撃ったことで立ち尽くす。
兵士たちは向かってきた住民を装甲車に乗せて連れ去る。メレンチー司令官は兵士たちが連れてきた住民を兵士殺しの犯人とする。
彼はマスコミに第3方面軍の兵士を殺した犯人を逮捕したと発表する。しかし、マスコミはエリア31で起きたことを取材して、住民たちの証言とメレンチー司令官の発表を同時に報道する。
これによって、これまだ関わろうとしなかった住民まで軍を敵視するようになる。
住民の軍に対する抗議は過激化する。これまで声を上げていただけのものが石などが投げ込まれるようになる。
そして、第3方面軍の拠点が住民によって襲撃される。それは夜中に住民が大挙して集まり拠点を取り囲むと一斉に襲撃を始める。
住民は柵を壊そうとしてハンマーやつるはしで叩く。恐れをなした兵士が自動小銃を構えるが火炎瓶を投げ込まれ炎に包まれる。
彼らは柵を壊して拠点になだれ込む、兵士はパニック状態で住民に向けて自動小銃を乱射する。何人もの住民が撃たれて倒れるが兵士たちは住民に飲み込まれ武器を奪われる。
拠点の中では無秩序な殺し合いが始まる。ヴィクトル大尉も狂乱の中で命を落とす。明るくなるころ。拠点の兵士は皆殺しにされ、住民に占拠される。