狩人の村とアルカディアは?
私達が木の家の玄関先で騒いでいたら、オリビィエ師匠が顔を出した。
「ミクにも伝えないといけないな。狩人の村に光の魔法を教えようとしたけど、拒否されたのだ」
えっ、なんで?
「光の魔法を覚えないと、長生きできないのに、何故なのですか?」
オリビィエ師匠は、二人をかえして、木の家の中でサリーと一緒に経緯を説明してくれた。
「最初に若い森の人を派遣したのが間違いだったのかもしれない。相手は、アルカディアが狩人の村を馬鹿にしたと感じたのかも」
オリビィエ師匠が辛そうな顔をして説明してくれた。
「それで、次はリグワードに行って貰う事にしたのだ。彼は長老会のメンバーだし、光の魔法の第一人者だからな」
アリエル師匠が肩を竦めている。
「リグワードは、悪い人じゃないし、光の魔法に一番詳しいから良いと思ったけど、少し頭が固いところがあるのよ。狩人の村の森の人と口論になったみたい」
ああ、それは拙い!
「でも、長生きできるのに覚えたいと思わなかったのかしら」
サリーも親や兄弟達に長生きして欲しいと願っている。
「それは、狩人の村の森の人も同じだろうが、アルカディアに頭を下げて教えを乞いたくなかったのだろう」
それ、間違っているよ!
「リグワード師匠は、狩人の村の森の人でも光の魔法を習得できると考えているのですか?」
私もまだ少ししか使えないから、それをはっきりと聞きたい。
「勿論さ! 特に若い成長期の森の人は、無意識だけど光の魔法を使っているのだからね。ああ、でもそれが余計に誤解を与えたのだ」
オリビィエ師匠が頭を抱え込んだ。
「リグワードは、狩人の村の森の人が光の魔法を習得できれば、説得が上手くできると考えて、痛恨のミスを犯したのよ」
ミスって? 私とサリーは顔を見合わせる。
「つまり、子どもから教えようとしたの」
その方が教えやすいと考えたのだろう。
「何が問題なのですか? 私もまだ子どもだけど?」
理解不能だよ。
「アルカディアが子どもを攫おうとしていると感じたみたい」
えっ、何故、そんな感じに思われたのかな?
「リグワード師匠は、どう話したのですか?」
師匠達は肩を竦める。
「何人かずつ、アルカディアで預かって、光の魔法を習得したら返す。そして、その子から光の魔法を習うと良いと言ったのよ」
うん、良いんじゃないかな?
「狩人の村の大人達は、子どもを取られると怒ったのよ」
「返すのに?」
不思議だね?
「アルカディアがここまで嫌われているとは知らなかったわ」
アリエル師匠はショックを受けたみたい。
「少し狩人の村の森の人の気持ちが理解できます。私は、一歳の時に風の魔法スキルがあると神父さんに言われた時、アルカディアで修業するか、人間の魔法使いの元で修業するかどちらかだと言われた時、人間の町を選んだのです」
アリエル師匠が少し驚いた。
「まぁ、サリー! 知らなかったわ」
サリーが慌てて説明する。
「それは、神父さんの説明を聞いてアルカディアを誤解したからかも。アルカディアの森の人は、魔法が使えるのが普通で、私は下っ端になる。それに下働きをしながら修業しなくてはいけないと言われたのですもの」
アリエル師匠とオリビィエ師匠が怒る。
「神父さん! なんて説明をしているんだ。ミクもよくアルカディアに来てくれたね」
私は始めからアルカディアを望んだと言う。
「人間の薬師はいい加減な人が多いと聞いたのと、まともな薬師の弟子になるには入門料がいると言われたから、私は初めからアルカディアに来ようと思っていました」
オリビィエ師匠が複雑な顔をした。
「ミクは幼いのに、薬師の修業を急ぐのは、そんな覚悟をしてここに来たからなんだね。だけど、まだまだ修業は続くのだから、色々な事を経験しながら成長した方が、ミクの為になると私は考えている。竜を倒さないと薬師の修業は終わらないのだから、時間が掛かるんだよ」
ゲッ、竜を倒さないと、薬師になれないの? 一生無理かも?
私がショックを受けている間に、アリエル師匠がサリーと話していた。
「サリーは、私が師匠で良かったのかしら?」
ああ、アリエル師匠は弟子を取ったのは初めてだし、本当は来たくなかったと言われてショックなのかな?
「アリエル師匠で良かったです。それにアルカディアに来られて、光の魔法や養蜂の技術、ガラスの作り方を覚えられて、とても楽しいです。下働きと聞いて、心配していたけど、狩人の村でも家でしている事だけだし、洗濯とかも楽だもの。それに、ミクと一緒で楽しいです」
アリエル師匠は、ホッとしたみたい。
「狩人の村に行かせて下さい。ママやパパを説得したいのです」
オリビィエ師匠が難しい顔をする。
「ミクは、まだちゃんと光の魔法を使えないだろう。それができてからだよ」
うっ、その通りだ。
「私は使えますわ! 私を行かせて下さい」
アリエル師匠も考え込んでいる。
「まだサリーは幼いわ。今は、これ以上拗らせたくないのよ」
確かに、狩人の村の森の人はプライドが高い。
それと、気になっている事があるんだ。
「あのう、年をとった森の人はどうなるのでしょう?」
70歳までの森の人は、老化が始まっていない。でも、ヨハン爺さんやワンダ婆さんは、どうなるの?
「老化も光の魔法で遅く出来ると思うけど、分からないな」
オリビィエ師匠が腕を組んで考えている。
「それより、光の魔法を習得できるかが問題だと思うわ。もう、子どもの頃から使っていないし、老化が始まっていると言うことは、使えていないからだから」
そうなんだ……何だかショック。
「光の魔法を覚えるのは、若いうちの方が良いとは思うが、それが狩人の村の森の人に誤解される元になるなら、大人から教えても良いかもな」
そうなると良いけど!
「でも、狩人の村の大人は狩りが好きなんです。狩りを中断して、光の魔法を習得する為にアルカディアに来るかしら?」
ああ、そうだった。パパもママも食べる為でもあるけど、基本的に狩りが大好きなんだよ。
「狩りは好きでも、長生きした方が良いと思うよ!」
そう言ったものの、光の魔法を習得するのにどのくらいの期間が必要なのかも分からない。
「サリーは割とすぐに習得したけど、ミクはまだだからな。やはり半年は掛かるかも?」
半年! 食べていけないよ!
「それは無理だわ。狩人の村は貧しいのです。小麦を得る為には、皮を売らなくてはいけないの。半年も狩りができなかったら、飢えてしまうわ」
師匠は考え込んだ。
「やはり、子どもから教えた方が良いと思う。ただ、拐うのではないと説得してもらう必要があるな」
「神父さんは?」
師匠もハッとしたみたい。
「それは、名案だ!」
でも、神父さんは春にしか来ないのでは? 今は夏だから、来年の春まで待つの?
「アルカディアには、夏の終わりに行商人が西の村を通って来るのよ。その時に、神父さんも連れて来るわ」
神父さんは、春になると東の村を半分通ってアルカディアに来て、西の村に行き、人間の町で夏を過ごす。そして、夏の終わりにアルカディアに行商人と来て、東の村の残り半分を通って、ハイネス王国で冬を過ごすみたい。
知らなかったよ! 西の村の外にも人間の国があるんだね。
早く四の巻を勉強したいな。
「西の国の行商人と一緒に神父さんが来られるのですね!」
神父さんは、皆に尊敬されているから、聞く耳を持ってくれるんじゃないかな?
「まぁ、神父さんも光の魔法について知らなかったと思うから、そこから説明しなくてはいけないな」
ふぅ、ちゃんと説明できたら良いな。
 




