トレント!
サリーに光の魔法を教えて貰うのも日課になった。
「オリビィエ師匠やアリエル師匠に習っても良いけど……そちらは、薬師を習いたいものね」
そうなんだよ! 夏は、薬草も多いから森歩きもしないとね! ひまわりの種も2回目を撒いたよ。
だから、朝の火食い鳥の世話をした後、毎日、少しずつ練習している。
「火食い鳥を捕まえに行こう!」
オリビィエ師匠が狩人に火食い鳥の目撃情報を得たみたい。
「薬草も集めなきゃいけないしな!」
うん、そちらが大事だと思う。
「今回はミクも捕獲してみよう」
どうも師匠と意見が噛み合わない気もするけど、薬草を採取しながら森歩きをする。
下級薬草は、何とか成長させられたけど、上級薬草と毒消し草は枯れちゃったんだよね。
「また、試してみるんだな?」
上級薬草を根から採取していると、オリビィエ師匠に頑張れと激励された。
「下級薬草が栽培できたのだ。上級薬草もできるようになるかもしれない」
そうだと良いな!
この日は火食い鳥を捕獲しに来たのだけど、その前に歩いているトレントにでくわした。
「木が歩いている!」
聞いてはいたけど、大きな木が根っこを引っこ抜いては、前に進んでいる姿を見て、驚いた。
「シッ! あれは油が取れるトレントだ。討伐するぞ」
ヒバの木と松の木に似ている気がするけど、前世の木は歩いたりしないからね。針葉樹っぽいのは分かったよ。
「ミク、あの根っこを薔薇の鞭で捕縛しろ!」
薔薇の実を小袋から手のひらに持って、丁度、歩こうとしている根っこに絡みつける。
「上手いぞ! 引っ張るんだ」
グッと引っ張るけど、相手の力の方が強い。
こちらが引きずられてしまう。
「一旦、根っこから外して、もう一回巻きつけるんだ」
そんな事を言いながら、オリビィエ師匠は、次々と根っこを斧でぶった斬っていく。
「そろそろ、足も止まったな。ミクも手斧で攻撃してみろ」
えっ、直接攻撃ですか? 薔薇の鞭をしまって、腰の手斧を構える。
「根っこなら、どこでも良いさ」
でも、枝も振り回して怒ってるんだけど?
「枝は避けろ!」
簡単に言うけど、難しい。でも、何とかタイミングを計って、根っこに手斧で切り付ける。
「ふむ、良い攻撃だ。あとは任せるよ」
ええええ! そんなぁ。
「早く倒さないと逃げられるぞ」
何本か残った根っこで、後ろに下がっている。
「ええい!」
一本ずつ、枝攻撃を掻い潜って攻していく。
ぜぃぜぃ、目に見える根っこは無くなった。
「ミク、あの木の根元をよく見てご覧。少し出っ張りがあるだろう。あそこを攻撃したら、討伐できるのさ」
はぁ、はぁ、なら最初からそこを攻撃したら良かったのでは?
「さぁ、やってみよう!」
枝の攻撃も緩やかになっているから、木の根元に近づけた。
「えいぃ!」
根本の出っ張りに渾身の力を込めて、手斧を振り下ろす。
「ミク、逃げろ!」
師匠に手を引っ張られて、倒れてくるトレントの下敷きを免れた。
「今度からは、素早く逃げるか、守護魔法を掛けた方が良いな」
はぁぁ、疲れたよ。
「これをどうやって持って帰るのですか? 狩人達に手伝って貰うのですか?」
倒れたトレントは、もう動かないから木と同じだ。つまり大きい。
「先ずは枝を切ろう!」
枝を師匠と切り落としていく。
「この枝からも良い油が取れるのだ」
切った枝は師匠のマジックバッグに入れていく。
「このくらいで良いだろ。ミク、少し離れておけ」
師匠の後ろにかなり下がって見ている。
「ストーンバレット!」
前にひまわりの花を刈ったように、回転する円盤がトレントを1メートルぐらいにカットしていく。
「さて、マジックバッグにしまおう。次までに、根っこを枯らす魔法を覚えておけば、簡単に討伐できるぞ」
それって、簡単に覚えられそうにないんだけど?
もう少し森の奥まで移動する。まだ私はアルカディアの近くの森しかわからないから、師匠の後ろから付いていくよ。
「ああ、あそこだ!」
目的の火食い鳥は、狩人が言った場所に6羽いた。
「雄はいらないけど、どうする?」
それって、食べるって事かな?
「このまま放置しては駄目ですか?」
腕を組んで考えている。
「雌を捕獲するのを邪魔しそうだな。まぁ、秋までは飼っても良いかも?」
ふぅ、数が増えるけど、一度卵を温めさせたいと考えていたから、雄が二羽になるのは良いのかも?
「はい! 私は雄を捕まえます」
身体の大きな雌5羽は師匠に任せるよ。
「薔薇の鞭!」
雄を鞭でぐるぐる巻きにする。
後は、鋭い爪を切らないといけないけど、火を吹いたよ!
「ミク、もう一度ぐるぐる巻にしろ!」
はぁ、はぁ、まだ小さな雄1羽でも汗だくだ。
何とか、鋭い爪をナイフで切り落とす。
「よく頑張ったな! さぁ、帰ろう!」
私の新品のマジックバッグに火食い鳥6羽が入っている。
早く帰らなきゃ! 糞をされたら嫌だもの。
鶏小屋の前まで来て、ふと心配になった。
「師匠、今いる火食い鳥と喧嘩にならないかな?」
どうだろう?
「まぁ、中に放つ前にたっぷりと餌と水を置いておくことだな」
忠告に従い、いつもの3倍の餌と新鮮な水を入れておく。
「さて、中に入れてから鞭を解こう」
マジックバッグから火食い鳥を出すと、今までいた火食い鳥が何事だ? と少し振り向いたが、餌を食べる方が重要みたい。
「鞭よ! 解け!」
6羽の火食い鳥は、一瞬、火を吐きそうだったけど、前からの5羽が啄んでいる餌箱に突進した。
「ガァー! ガァー!」
「ギャー! ギャー!」
何だか、煩さが倍増したけど、卵が増えるのを期待するよ。
「さて、ひまわりの種も乾いただろうし、そろそろ油を絞ろう」
ふぅ、それもあったね!
「このトレントも油を絞るのですよね?」
当たり前だと笑われた。
「ミクは、料理に油を使いたいかい? なら、トレントの油だけで石鹸を作っても良いんだよ」
悩むなぁ! フライドポテトとかは、ラードというか魔物の脂でも作れる。椿油は匂いが良いから、髪や身体に塗りたい。
「トレントの油は食用に向かないのですか?」
「いや、食べられないことはないとは思うが、匂いがスースーした感じだ」
確かに枝を切っている時も、ヒバのような松のような香りがしていた。嫌いな匂いじゃないけど、食用に向くかはわからない。
「なら、ひまわり油は少し残して欲しいです。トレントの油は、ちょっと試してみます」
師匠は、笑って頷く。
「トレントの油は、頭痛の軟膏にも良いのだ。食べるには、ちょっとキツいとは思うが、ミクなら何か思いつくかもな?」
ああ、そんな香りだよね。
「頭痛の軟膏ですか?」
頭痛薬ならわかるけど?
「まぁ、目を使いすぎて疲れた時とかは気持ちがリラックスして良いのさ。他にも精製すれば、傷の軟膏にもなる」
ふうん、色々とあるんだね。覚えることがいっぱいだ。




