ピザ屋?
サリーと2人で水浴びをする。
水も夏はぬるいから、気持ち良い!
着替えた服を2人で洗濯するよ!
「ミクはピザを焼くのよね?」
くるくる回る洗濯樽を見ながら、座って話す。
「うん、何だかいっぱいの人が来そうなんだ。あっ、師匠にマジックバッグを借りて、ロフトから椅子とテーブルを運ばなきゃいけないんだ」
サリーは少し考えてから口を開いた。
「ミクのピザを食べる時にレモネードを出しても良いかな? レモンはミクのだけど……」
「うん! 良いと思うよ! 大人は酒を飲みたがるだろうけど、それは持って帰ってにしてもらうから」
火食い鳥の卵の殻を私から買ったから、サリーのお小遣いは減っているものね。
「アリエル師匠にレモネードを冷やして貰うわ!」
私は、オリビィエ師匠にマジックバッグを貸して貰わなきゃ!
洗濯物を干して、木の家に急ぐ。
乾かすのは、後でサリーがしてくれるよ。まぁ、夏だからほっておいても乾くけどね。
「冷たいレモネード! 良いわね!」
アリエル師匠は、快諾してくれた。というより、自分が飲みたいからかもね。
「マジックバッグなら使えば良いさ」
こちらも簡単に許可が出た。
サリーも一緒にロフトに上がってくれる。私は、まだライトが使えないからだ。
「あの折り畳み椅子とテーブルよね?」
いつ見ても不思議だよ。マジックバッグの中に椅子やテーブルが入る光景はね。
下に下ろして、レモンを採りに行く。
これは、少し緊張するよ。だって蜂の養蜂箱の近くに果樹を植えているからね。
「私が守護魔法を掛けてあげようか?」
サリーが言ってくれるけど、頑張る。
「ううん、良いよ。さぁ、レモンを採りましょう」
まだ青いのもあるから、黄色いのを選んで10個採る。
「ふぅ!」
蜂の柵の外に出たら、ホッとしちゃう。
「ミク、だから私が掛けてあげると言ったのに!」
サリーに笑われちゃったよ。
サリーが作った大きなピッチャーとコップ。どれもグリーンの火食い鳥卵の欠片が細かく砕いて入っていて、なかなか綺麗。
それを2人で洗って乾かす。
「テーブルと椅子を出すのを手伝うわ」
2人ですると早い。それに楽しいよね!
テーブルの上を拭いて、外の用意はできた。
「ミク、旗を忘れているわ!」
「うん、それは材料を揃えてからにするよ」
すぐに来たら、バタバタしそうだもの。
私が玉ねぎや燻製肉を切っている横で、サリーはレモンをスライスする。
それをピッチャーに入れてハチミツと水で出来上がり。
「冷たくなれ!」
アリエル師匠に冷たくしてもらって、少し味見だよ。
「夏は冷たい飲み物が美味しいわ」
今日は、特に暑かったからね。
「そろそろ、旗を立てるわ」
ピザ生地を何枚か作ってあるし、トッピングもセットしたからね。
夕食もピザだから、師匠達のは先に焼こう!
旗を立てて、師匠達のピザを焼いて、私達のも焼こうかな? と思ったけど、ヘプトスがやって来た。
「サリー、これを師匠達に渡して!」
ここから、忙しくなった。
学舎の知り合いだけでなく、大人も多くやって来たからだ。
「レモネードも美味しいな!」
ガリウスも来て、皆と食べている。
大人はお持ち帰りが多い。お皿は持って来て貰うよ。
ピザは1枚銅貨50枚、レモネードは20枚!
メンター・マグスもお持ち帰り派だけど、レモネードもよく売れた。
「焼けるまで待っている間に、冷たいレモネードは如何ですか?」
サリーの販売が上手いんだ。それに夕方だけど、まだ暑いからね。
私は、ピザを焼くのに集中していたけど、サリーは何回かレモネードを作ってアリエル師匠に冷やして貰っていたみたい。
「そろそろ、ピザ生地がなくなるから、旗を下ろすわ」
サリーに旗をしまって貰い、今日のピザ販売は終わりだ。
「えっ、終わったのか?」
何人か遅れて来た人に文句を言われたけど、オリビィエ師匠が出てきて「終わりだよ!」と言うと帰った。
オリビィエ師匠って怖がられているのかな?
お客様は神様です! の日本とは全く違う接客態度だけど、ここではこれで良いみたい。
私とサリーのと、もう一枚焼く。これは、早めに食べた師匠達に半分ずつ皿に乗せる。
「あら、嬉しいわ! 今度はワインと食べましょう」
私とサリーはレモネードで食べるよ。
「なぁ、夏休みの間に何回かピザ屋を開いてくれないか? メンター・マグスにも頼まれたのだ」
今日はかなりお小遣いを稼げたから、それは嬉しい! けど……。
「でも、修行もあるし……」
オリビィエ師匠が、笑う。
「それもやるさ! 明日は乾かした薬草を薬研で細かく潰したり、石臼で引くのを手伝って貰うよ」
おお、薬師っぽい! しっかりと覚えなきゃ!
結局、ピザ屋は数日おきに開くことになった。不定期なのは、雨の日にはしたくないからだ。
夏は時々、嵐みたいな雨が降る。ザーザーとね!
「今日は、薬草を調合するのはやめておこう! 湿気そうだ」
うっ、そうだけど、薬師っぽい修行を楽しみにしていたんだよぉ。
「ミク、本を読もう!」
それは、良いけどさ……。
「あれ? この本は?」
作者がオリビィエと書いてある。
「そう、若い頃に書いた薬草の本なんだ」
それは、読みたい! 今日は読書の日だね。
「読むのも疲れるね」
うーんと背伸びする。アリエル師匠は一日中よく読んでいるよ。
外には出られないから、凝った物を作ろう。
それと、前から欲しかった道具をガリウスに作って貰いに行こうかな?
「師匠、出かけて来ます!」
サリーはまだ本を読んでいるけど、私は気分転換をしたくなった。
「良いけど、雨が酷いよ」
それは平気! 皮のコートを頭から羽織っていく。
「ガリウス? いる?」
こんな雨の日だけど、鍛冶場の煙は上がっているから、覗いてみる。
「ああ、ミク! 何か用かい?」
ガリウスは、鍛治士のルシウス師匠の手伝いをしていたみたい。
「すみません、仕事中でしたか?」
ガリウスが笑って手招きするから、鍛冶場に入る。ここも暑いね!
「前に小さな道具なら作って下さると言われたので……」
はははと笑う。
「どんな道具なんだい?」
簡単に泡立て器の図を書いて来た。ママがケーキを焼く時に使っていた泡立て器だよ。
「これは、料理に使うんだね」
うん! と頷く。こんなのを頼んだら悪かったのかな?
「見せてみろ!」
ルシウス師匠が紙を見て、唸っている。
「これで、何を作るのだ?」
「卵を泡立てて、甘いケーキを作るのです」
ふむ、ふむと聞いていたルシウス師匠は、森の人にしては筋骨隆々なゴツイ身体だけど、甘い物! と聞いて真剣になる。
酒より甘い物が好きなのかも?
「人間の町でケーキを食べた事がある。四角い金属の箱で焼いていた」
あっ、パウンドケーキだね。
「石窯で焼けるでしょうか? 私はピザのように平たいケーキを考えていたのですが……」
ルシウス師匠の甘味魂に火がついた!
「冬になったら、外でパンを焼くのも寒いだろう。貴族の台所に薪オーブンがあった。それなら、ケーキが焼ける筈だ!」
えっ、それは高価そうだよ。
「あのう、私はガリウスにこれを作って貰って、ピザをあげるつもりだったのです」
つまり、お金が無いと伝えた。
「金ならオリビィエから貰う! いや、大丈夫だ。ケーキを10個くれたら良い」
オリビィエ師匠に迷惑をかけたくないと首を横に振ったら、言い直した。
ケーキ10個と薪オーブンが対価として妥当なのか? 前世では違ったよ!
「まぁ、受けておきなよ! 今日は私が泡立て器を作ってあげる。今度のピザを焼く日は、朝に教えてくれ。昨日は危うく食べ損ねかけたからな」
ガリウスは、泡立て器をすぐに作ってくれた。
「使って、不具合があれば言ってくれ。こんなのを作るのは初めてだからな」
「ありがとう!」と言って木の家に帰る。
「師匠、ルシウス師匠が薪オーブンを作って下さると言われたけど、良いのでしょうか? ケーキ10個で良いと言われたけど?」
オリビィエ師匠とアリエル師匠に爆笑された。
「良いさ! ルシウスがそれで良いと言ったのだからね。私達は、美味しい物を食べられるし、有難いよ」
この日、泡立て器で白身をふんわりさせて、ホットケーキを焼いた。
「ハチミツとバター! 美味しいわ」
アリエル師匠は、3枚食べたよ。
バターは乳を買って来て、サリーに攪拌してもらって作ったんだ。
「これをルシウス師匠とガリウスに持って行きます!」
ガリウスには、ピザもあげるけど、薪オーブンを作ってもらえるお礼だよ。
ルシウス師匠は、ハチミツをたっぷり掛けて、満足そうに食べた。
「うん、早く薪オーブンを作らなければな!」
アルカディアでの生活、薬師の修行はまだまだだけど、他の事は順調だよ。