夏休みだ!
私はガリウスに大きなピザを焼いてあげ、サリーは師匠にガラス瓶を貰って生姜ハチミツをあげた。
「学舎に来なくなっても、困った事があったら言えよ!」
ガリウスは、鍛治の修行をするみたい。
「作って欲しい道具ができたら、頼みに行っても良い?」
ガリウスが笑って頷く。
「小さな物なら、ピザと交換で作ってやるよ」
ピザは学舎で大評判だ。ただ、焼き立てじゃないといけないのが、少し厄介なんだよね。
「簡単な魔導具とピザ10枚を交換しても良いわ」
マリエールは、錬金術を習っている。
少し、興味があるけど、夏休みは薬師の修行と菜園も忙しい。それにガラス作りを習わないと薬瓶ができないからね。
「10枚も食べるのか?」
リュミエールが驚いている。
「違うわよ。ミクがピザを焼く時に10回食べるの」
それ、ちょっと面倒くさいな。
「夏休みは、薬師の修行で忙しいから、ピザを焼くかどうかはわからないよ」
ブーイングが起きた。
「学舎も休みだから、焼けば良いよ!」
「そう言うリュミエールだって、狩人の修行をするんでしょう? 昼にはいないじゃん!」
ガリウスやマリエールはアルカディアにいると笑う。
「ピザを焼く日は、旗を立てたらどうだ?」
メンター・マグスは、ピザをアテに酒を飲みたいみたい。
「それ良いわね!」
エレグレースまで、そんな事を!
「何枚もは焼けないわよ」
たまには焼いても良いけど、ずっと焼くのは嫌だからね。
「私の家は木の家の横だから、すぐに買いに行けるよ」
ヘプトスが余裕を見せつける。リュミエールが後ろでベーと舌をだしているよ。
こうして、学舎は夏休みになった。成績表とかは無い! やったね!
勉強はかなり頑張っているけど、魔法実技と武術実技は酷いもの。
「そうか、夏休みになったのなら、ひまわりを収穫しよう」
それで油を絞って石鹸を作るのも薬師の修行だけど、もっと薬師っぽいのもしたいな。
「ふふふ、ミクも焦りすぎだわ。サリーも、もっと他の事もしたら良いのよ」
アリエル師匠に笑われたけど、薬師に早くなりたいんだもの。
「石鹸は、身体を清潔にできるから、薬師の仕事の一部だよ」
「はい!」と答えるけどね。
「それと、そろそろトレント狩りもしよう」
えっ、そちらより薬草採取がしたい。
「薬草も採取するさ。それをしながらトレントに遭ったら討伐するのさ」
それなら良いかも?
師匠たちが夏休みの課題を決める。
先ずは、ひまわりの収穫、乾かして種を取って、油を搾る。
サリーも収穫は手伝うけど、石鹸作りは手伝わない。
それと、私とサリーにガラスの作り方を教える。
これも基本の瓶作りは一緒だけど、私は薬瓶を習い、サリーは火食い鳥の卵の殻にガラスコーティングするのを習う。
後は、森歩き! 私は薬草採取しながら、トレント狩り。
サリーは、風の魔法で狩りをするみたい。アリエル師匠って狩りが好きなのかな?
ひまわりの収穫は、狩人の村でもやっていたけど、ここでは魔法の練習も兼ねる。
「サリー! 風の魔法で茎を切るのよ! ウィンドカッター!」
アリエル師匠がザザザザッとひまわりの一列を切った。
サリーは、それを真似しているけど、1本ずつだ。
私は、ナタで切った方が早いと思うけど、土の魔法の練習だ。
「まぁ、ひまわりはトマトと違うから気楽にやってみよう。ストーンバレット!」
オリビィエ師匠のストーンバレットって、普通の石礫じゃないよ。
石の円盤が、ひまわりの茎をシュパパパパッと切断していく。
「ストーンバレット!」
私のは1本も切れず、茎が折れただけだ。
少しオリビィエ師匠が考えている。
「これでバラの鞭を出してみよう」
バラの実を渡してくれた。
「バラの鞭!」
トゲトゲのついた鞭なんて、痛そう。
それでひまわりを刈っていくけど、どう見てもナタの方が早い。
「うん、今日はナタで刈ろう」
つまり、練習だっただけだね。
ナタは割と上手く使える。
「ミクは、他の武器よりもナタなのかな?」
オリビィエ師匠が考え込んでいる。
ナタって武器なの? まぁ、叩けば怪我をしそうだけどさ。
花は種を取るために乾かす。これはサリーが手伝ってくれる。
私は残った茎をナタで切って、耕す。
これは土の魔法で、かなり上手にできるようになった。
ついでに鶏糞の乾かしたのも耕しておく。
「ちょっと休ませてから、ひまわりの種を撒こう!」
午前中でひまわりは収穫したので、昼からはガラス瓶を作る準備だけど、何をするのかな?
昼食は簡単に済ませたよ。パンとオムレツ。オムレツにはトマトと玉ねぎを刻んだのを入れてある。
「火食い鳥を飼って良かったけど、もう少し数を増やせると良いわね」
それは集会場でもよく言われるんだ。
「火食い鳥を見かけたぞ」
なんて親切な言葉を掛けてくる森の人もいる。卵は人気だからね。
「ミクは、あと何羽ぐらいなら世話できる? 冬には全部は飼い続けられないと思うから、あまり増やしたくは無いのだが」
うっ、それはエバー村の山羊でわかっているけど、潰すのは少し嫌だ。
だって、火食い鳥が火を吐く事はないんだもん。
満足そうに鶏小屋で餌と水を啄んでいるのを見ると、何とはなくね。
「冬の餌はとうもろこしになりますか?」
アルカディアも冬は菜園はできない。
キャベツとかは塩漬けにするみたいだけど、火食い鳥にはあげられないよね。
「ううん? 私は火食い鳥に詳しくないが、ヴェルディに訊いてみてやるよ。うむ、野菜をマジックボックスに入れておく手もあるな」
だよね! でも、それは私達用にするつもりだったんだ。
今は時間が止まるマジックボックスの中には、まだ蜂の死骸が少し残っている。
夏休み中に綺麗にする遣り方をオリビィエ師匠に教えて貰って、秋に食糧を詰め込む予定だった。
昼からオリビィエ師匠と私とサリーは森歩きに行く。
「サリーは弓、ミクはこれを持って行きな」
これ? 斧じゃない? でも、パパが持っていたような大きさじゃない。
「これは手斧だよ。ほぼナタと同じ使い方で良いし、根っこを切断できるから慣れておくと良い」
根っこを切断って、トレントだよね?
「はい」と腰のナタと交換する。少し重いよ。
森に入って、オリビィエ師匠はずんずん奥へと進む。木と木を飛んで移動するのだけど、時々止まって付いて来ているか確認してくれる。
かなり、奥に来た気がするけど、まだまだみたい。
「師匠、どこまで行くのですか?」
枝の上で休憩して、サリーと水筒の水を飲む。
「あの山の麓の滝までだよ」
木の枝の上に立ち上がって、かなり遠くの山を見る。
「遠いですね!」
「まぁ、大丈夫だろう」
朝から来たら良かったね。
そこからは、師匠について行くのに必死だったよ。
ラメイン川を見ながら、木と木を飛んで山を登って行く。
「もう少しだよ!」
ぜいぜいと息が上がっている私たちに、師匠が声を掛ける。
木と木の移動だから、山道も同じだろうと思ったけど、上の枝へ、上の枝へと飛ぶから、やはりしんどい。
「降りるよ!」
オリビィエ師匠が地面に飛び降りる。私は、数本下の枝に降りてから、飛び降りるよ。
森からラメイン川に出たら、滝が見えた。
崖から一筋、水が落ちている。
「あの滝壺付近の砂がガラスの素材になるのさ。ガラス窯を使わせて貰う代わりに、ウィトレウムに多めに砂を取って行こう」
砂を師匠のマジックバッグの中に詰めていく。
サラサラで気持ち良い。
「さて、帰ろうか!」
アルカディアに帰った頃は、夕方だったよ。
疲れたから、今日は肉を焼いて食べる。
「明日はガラスを作ろう!」
オリビィエ師匠は疲れないのかな? 私もサリーもこの夜は本も読まずに眠ったよ。




