副業?
やっと新しい菜園が決まったので、サリーに手伝って貰い耕す。
「家畜の糞や、寝藁がいっぱいね!」
こんな時は、狩人の村で着ていた服を着るよ。
「何をやっているんだい?」
土の魔法のヘプトスがやって来た。
「土を耕しているのよ!」
見たら分かるでしょ?
「土の魔法で耕したら速いのに?」
ああ、そうなのかも? でも、まだ習っていないんだよ。
「ああ、やはり鋤で耕しているんだな。そろそろ菜園を移動する時期なのを忘れていたよ」
オリビィエ師匠がやっていたので、ヘプトスは自分の家の菜園の方に行った。
「ヘプトスも土の魔法だからな。ミクもできるようになるから、頑張ろう!」
サリーは、土の魔法なら木の家に帰って、アリエル師匠に風の魔法を習うと言う。
「サリーもできるかもしれないから、一緒に練習したら良い」
サリーと一緒に土の魔法で耕す練習だ。
先ずは、オリビィエ師匠が見本を見せてくれる。
「この糞や寝藁を鋤込むのは、少々失敗しても良いから、ミクもサリーもやってみなさい」
畝を作るのとは違って、深く耕すだけだからね。
師匠が耕すのを見ていると、何かできる気がして来た。
「やってみます! 耕せ!」
うん? 上手くいかない。
「初めは、鋤を持ってやっても良いんだよ。イメージがしやすいから。サリー、試してみて、無理だったら風の魔法でも耕せるよ」
鋤を上に構えて、地面に突き刺す時「耕せ!」と念じながらすると、ぐぅんと深く広く耕せた。
「ああ、ミク! その調子だ。コツを掴んだら、鋤が無くてもできるようになるさ」
サリーも私の真似をして、鋤を持ち上げて、打ち下ろす時に「耕せ!」と唱えたら、風の魔法で、ざざっと耕せた。
「サリーは風の魔法で耕しているな。まぁ、それでも良いけど、土の魔法も使えると便利だぞ」
今日は何百回も練習したよ。でも、サリーはやはり土の魔法ではなく、風の魔法だったけどね。
「これは、アリエルに習った方が良いかもな。アリエルは全魔法が使えるから、土の魔法も教えてくれるだろ」
へぇ、凄いんだね!
「ミクは、もう鋤を使わなくても耕せるだろう。後は畝を作る練習だな」
うん、畝は初めは鋤を使おう。慣れたら、使わなくてもできそう!
「何を植えるの?」
ふふふ、夏野菜をいっぱい植えたいんだ。
「トマトを特に多く育てたいわ! 師匠がガラス瓶の作り方を教えてくれると言ったから!」
トマトソースを保存したいんだよ!
「良いわねぇ。ミクは生活ができそうな事をいっぱい教わっているのね」
つまり、金になりそうな事って意味だね。
「料理や植物育成は前からだよ」
一応、言っておくけど、アリエル師匠の収入源が何かは謎なんだよ。
「それは分かっているけど、風の魔法使いって、やはり討伐が主収入なのかな? やっていけるかしら?」
竜を討伐するのは、自信ない。サリーもだろう。
「人間の町の冒険者のチームに入るのかな? 風の魔法なら、討伐もできるし、治療もできるから重宝されそうだよ」
人間の町には竜はでないだろうからさ。
「うん、アリエル師匠に相談してみる」
だよね! どうやって生活していくかは重要だよね。
サリーが質問したら、アリエル師匠は風の魔法使いの一般的な生活方法を教えてくれたみたい。
「アルカディアに住み続けるなら、討伐に参加するか、蜜蜂を飼育する事になるね。人間の町なら、冒険者に人気だし、治療院を開いても裕福に食べていけるよ」
やはり、神父さんに聞いた通り、アルカディアでは魔法を使えるのが当たり前なので、それだけでは食べていくのは大変みたい。
「10歳までに風の魔法使いになれるでしょうか?」
サリーの質問に、アリエル師匠は難しい顔をする。
「できれば光の魔法も習得した方が良いんだよ。治療院を開くと、病人も来るからね」
それは、そうかも?
「では、光の魔法を習得するまで人間の町にはいけないのですね」
冒険者としてなら生活できるかもしれないけど、サリーはできたら治療院を開きたいみたい。
「まぁ、治療院を開くならね」
だとすれば10歳以降もアルカディアに住む必要がある。
子どもじゃないのに、師匠にいつまでも食べさせて貰うわけにはいかない。
「あの蜂の飼育って、できるのでしょうか?」
アリエル師匠がにっこりと笑う。
「あれは風の魔法使いじゃないと無理なんだ。ハチミツが食べたかったんだよ」
なら、アリエル師匠が養蜂をしたら良いのでは?
私とサリーの視線を感じて、少し横を向いて草笛を吹く。
「アリエルは、蜂の世話をするのが、嫌になったのさ」
ああ、それは分かるよ。日頃の生活態度を見てもね!
「なら、蜂の巣を作って貰わないといけないわ。あっ、ミクは鶏を飼いたいと言っていたわね。鶏小屋の横に置きましょう」
蜂を討伐して、ハチミツを持って来た事はあるけど、飼えるの?
まぁ、そちらはアリエル師匠とサリーに任せて、こちらは鶏小屋を作って貰う。
「このくらい頑丈なら良いだろう」
えっ、何か嫌な予感がするよ。
横の養蜂箱もかなり大きい! サリーの背の高さぐらいあるんだけど?
「ハチミツは森の人の好物なんだよ。キラービーを見つけたら、教えてくれるように掲示板に書いておこう。討伐されたら困るからね」
どうやら、ハチミツのままでも食べるし、お酒を作るみたい。
「ハチミツのお酒?」
甘そうだけど? と私が首を捻っていたら、オリビィエ師匠が笑う。
「ハチミツ酒だよ。蒸留して強い酒になるのさ。アリエルは作るのが得意で、かなり金を儲けていたな」
あっ、それが若い頃に儲けた金なのかな?
「違うよ! それは内職の1つだな。アリエルは若い頃に古竜を討伐して、莫大な財産を築いたのさ」
「ひぇぇ、アリエル師匠って凄いんですね」
ソファーに寝転がって本を読んでいる姿からは、想像できないよ。まぁ、この前も竜を討伐していたけどさ。
「まぁ、アリエルも長老会のメンバーだからな。でも、古竜の件は、内緒だよ。あまり知られたくないみたいだからな」
ふうん、でも、長老会のメンバーは知っているんだね。
私は、明日はオリビィエ師匠と森歩きだ! 初めての薬草採取だよ。
浮き浮きして前の晩から用意する。
「籠とナタとナイフ! 後は小袋かな?」
私が自分の部屋で準備していると、サリーが階段を駆け上がって来た。
「ミク、私もアリエル師匠と森歩きするのよ!」
「やったね!」
2人で拳を合わせる! つい狩人の村の習慣が出ちゃうね。
「私達は、薬草採取だけど、サリー達は?」
サリーは、少しだけ心配そうに口を開く。
「蜂が見つかったのよ。それでアリエル師匠と捕まえに行くの」
それは、サリーの顔が微妙なのも分かるよ。
「でも、ハチミツを売れば、生活できるわ。アリエル師匠がハチミツ酒の蒸留方法も教えてくれると言われたから、そうしたらかなりの金額になりそうなの」
良かったよ! これで安心して修行できるよね。
「卵は、買う人は多くないかもしれないけど、これがあれば色々な料理ができるようになるの。この前みたいに、料理を集会場で売っても良いと思っているの」
カーマインさんは、私たちに250枚の銅貨とワインと小麦を払ったけど、1杯20銅貨でシチューを売ったのだ。
あの大鍋のシチュー20杯はあったと思う。つまり、自分達も食べた上に儲けたんだよ。
「ミク、手伝うわ!」
ふふふ、そう言ってくれると思っていたよ。
「私は……手伝える事は、手伝うよ」
蜂を扱えるかは分からないからね。風の魔法使いじゃないと駄目だと言っていたもん。
「何だか楽しみになってきたわ。少し怖かったのに」
やはりサリーと一緒なのは良かったよ。実は、私も鶏の世話ができるか少し不安だったんだ。
前世の鶏よりはかなり大きそうだし、ここにいるって事は魔物だもの。




