アルカディアの農業?
物見の塔から降りて、アルカディアのすぐ外にある農地に行く。
ここには、アリエル師匠も一緒に行った。
私達が物見の塔を登っている間は、知り合いの家でお茶をしていたみたい。
「ここまでは、サリーとミクだけで来て良いよ。だけど、この先は私かアリエルが一緒じゃないと、絶対に出たらいけない」
こんな木の柵だけなのに?
「ミク? 何も感じなかったの?」
えっ、サリー? 何も感じないよ。
「ふふふ、サリーは村の門を出た時に守護魔法を感じたのね。そうなの、ここにも掛けてあるのよ」
アリエル師匠に褒められているサリーを見ている私の頭をぱふぱふとオリビィエ師匠が撫でてくれた。
「ミクも感じ取れるようになるよ。この柵で魔物から作物を護っている訳じゃないのさ」
まぁ、この柵だったら、角兎も防げないよね。
「そっか、守護魔法を掛けているのですね。でも、ずっと掛け続けていると、疲れちゃうんじゃないですか?」
アリエル師匠とオリビィエ師匠が笑う。
「そうだね! リグワードでもずっと掛けていたら、疲れるだろうな。それも学舎で学ぶと良いよ」
サリーもアリエル師匠から「頑張って学びましょう」と言われている。
ケチ! 師匠なのに教えてくれても良いじゃない!
「この小麦は、誰が植えて、誰の物なのですか?」
サリーは、やはり言葉の使い方が上手い。
「これは、アルカディア全員が世話をして、全員で分けるのよ。あちらの菜園は、ほら、分けてあるでしょう」
物見の塔の当番もあるし、小麦畑の世話の当番もあるのかな?
「まぁ、やりたい人が、気の向いた時に小麦の世話をしているのさ。ミクも気が向いた時に、育成スキルで育ててくれ」
ええ、それは良いけど、いい加減だな。
「肉とかはどうしているのですか?」
師匠達が狩りに参加している様子はないけど、もしかしたら私達が来たから行けないのかな?
「狩人が狩って来たのを、買うんだよ」
分業制なのかな?
「オリビィエの薬は、人間の町では高価に売られているみたいね。それに……まぁ、いずれ分かるわ」
何か言い掛けたアリエル師匠を、オリビィエ師匠が「コホン!」と咳払いして止めた。
『何なんだろう?』私とサリーは疑問に思ったけど、木の家の菜園を教えて貰っているうちに忘れちゃった。
「ここから、彼方までが家の菜園なんだ」
えっ、広くない? 若者小屋の前の菜園の5倍はあるよ。
「狩人は、外に出る事が多いから、村に居る人だけが菜園を作るのさ」
ふうん? やはり分業制なのかも。
「私は、野菜を作りたいのですが、何を植えるのか決めてあるのですか?」
菜園は、オリビィエ師匠の管轄みたい。
「芋は常に作っている。狩人達は料理はあまりしないが、芋を茹でるぐらいはできるからな」
ああ、これは狩人の村と同じだね。
「わかりました。半分は芋にします。でも、トマトや玉ねぎやにんじんやキャベツも作って良いですか?」
オリビィエ師匠は、笑って好きにしたら良いと任せてくれた! 嬉しい! 菜園仕事は好きなんだよ。
「あのう、私も手伝うつもりですけど、ミクは畝を作る時とか収穫の時以外は、手伝いは必要なさそうです。何をすれば良いのでしょう」
サリーがアリエル師匠に訊ねている。
「サリーは、何かしたい事は無いのかしら?」
したい事は決まっている。
「私は、風の魔法の使い方を習いたいです!」
だよね! 私も同感! 植物を育てるのも好きだけどね。
「そうね! 風の魔法の初歩から覚えていきましょう」
えっ、私も薬師の初歩で良いから習いたい。
「薬師の修行もしたいです!」
勢い込んで叫んだら、笑われた。
「ミクもここの生活に慣れてきたら、一緒に森に薬草を取りに行こう! 薬師の仕事のほとんどは、薬草の採取なのさ」
薬草採取! 薬師らしいよね。
それと気になっていた事がある。
「オリビィエ師匠、植物製の石鹸の材料はどうしているのですか?」
ははは……と笑って、小麦畑の外を手で指した。
「夏には、あの空き地にひまわりを植えるのさ。そして、秘密の植物もあるからね」
秘密の植物? 植物油は、オリーブ、ひまわり、椿が有名だったけど、ここは異世界だから何か違う植物油があるのかも?
「オリビィエ、秘密だなんて、大袈裟ね! トレントを狩るんじゃない!」
ええ! トレントから油を搾るの? トレントなんて、狩人の村では見たことなかったよ。
「アリエル! 秘密がない女はモテないぞ! まぁ、ミクもいずれはトレント狩りに連れて行ってあげるよ。油が取れるトレントや、甘い樹液が取れるのや、綺麗な木目で高級家具になるのもあるのさ」
へぇ、それは楽しみだけど、私は斧のスキルはないんだよ。
「どうやってトレントを狩るのですか?」
「基本は、根っこを切れば討伐できる。火に弱いが、油を取るトレントは火は厳禁だ。ミクの植物育成スキルでも倒せるぞ」
えっ、よりトレントを大きくしちゃいそうだけど?
「まぁ、これは邪道だと言われるが、植物育成の反対を使えば、根を枯らせるのだ。一発で倒せる」
それは、魔女として弾圧されそうな魔法だよ。
「人間に知られないようにした方が良いわよ。植物育成の方もね!」
アリエル師匠の言葉に頷いておく。ママとパパも行商人が村から出ていくまで、種を撒かないようにと言っていたもん。
「椿の種も持ってきたので、植えたいのです」
アリエル師匠が、笑う。
「花は大好きよ! 庭に植えたら良いわ」
庭? そうか! アルカディアの村の中は、木がいっぱい生えている。
地面にも集会場や馬小屋や倉庫などは建っているけど、ほとんどは空き地だ。
「今は、まだ春になったばかりだけど、綺麗な薔薇やラベンダーやハーブを植えるのよ」
菜園ではなくハーブガーデンにバラとか食べれる綺麗な花もある感じかな?
「そろそろ、帰ろう! あっ、明日はきっと武術訓練だから、サリーもズボンの方が良いぞ」
学舎の学習は毎日だけど、後の実技は魔法と武術の交代だとオリビィエ師匠が笑う。
「困ったわ……ワンピースしか作っていないの」
下にズボンは履いているけど、上はワンピースだからね。それも、かなり大きい。
「小さなチュニック、何処かに置いてあるかもしれないわ」
アリエル師匠が、一緒に探そうと言うので木の家に帰ったけど……何処にあるのかな?
木の家の3階まで上がるけど、ここには私とサリーの部屋しか無い。
「よっと! ロフトにしまってあるとは思うが、着られるかな?」
オリビィエ師匠が棒で、天井に付いている輪っかを引っかけると、階段が落ちてきた。
「上は埃っぽいわよ。オリビィエ、取ってきて!」
一緒に探すと言ったと思うけど、アリエル師匠は、どうも怠け者だ。
「いえ、私の服だから、私が取って来ます」
オリビィエ師匠が、どの箱か分からないだろうと笑った。
結局、オリビィエ師匠、サリーと私で上がる。
「暗いな! ライト!」
オリビィエ師匠の指の先が光っている。
「光の魔法が使えるのですね!」
肩を竦めて、壁まで歩くと、ガタガタと雨戸を開け放す。
「ちょっとだけだよ。さぁ、探そう!」
下の生活している所の掃除もいい加減だったのだから、嫌な予感はしていたけど、埃が積もっている。
「ソッと歩くんだよ」
それより、掃除をした方が良いんじゃ無いかな?
私とサリーは、後で掃除しようと目で合図した。
「これは……本だな! アリエルの本好きは仕方ない。うん? ここら辺のは子どもの頃の本だから、持って降りるか?」
本! 読みたい! 何冊かを床に置こうとするので、私とサリーが慌てて受け取る。埃まみれになるよ。
「下に運ぶわ!」
私は、本を持って3階に降りて、部屋の机の上に置いて、またロフトに上がる。
「これは? うん、服だけど、まだ大きいね。こちらだな!」
アリエル師匠とオリビィエ師匠のお古の子ども用の服が発掘された。
発掘なんて、大袈裟だって? いや、箱を何個も退けて、やっと見つけたから、発掘がぴったりな感じだったんだ。
「樟脳くさいな! まぁ、樟脳のお陰で虫食いにはなっていないが、ミクの着替えも持って降りよう」
アルカディアに行くから、茶色のチュニックとズボンを縫って貰ったけど、着替えは生成りなんだ。
サリーのチュニック2枚とズボン、私のチュニックとズボンを持って降りた。
「洗わないと着れないわね」
アリエル師匠とサリーが洗濯している間に、私は夕食を作る。
芋がいっぱいあるから、湯がいて潰し、マッシュポテトにして、肉を焼いたのに付け合わせにする。
スープは、鳥の骨で出汁を取って、玉ねぎの芽が出かけているのを刻んで入れる。
夕食の後は、部屋で勉強したよ。
「宿題もしなきゃいけないよ」とオリビィエ師匠に言われたからね。
石板に答えを書くけど、消えないように持って行くの大変そう!




