アルカディア!
リュミエールは、本当はもっと速く移動できるんじゃないかな? 私とサリーに合わせてくれている気がする。
だから、親切なのかな? とも思うけど、ちょっと違う気もする。
「ほら、ここからはアルカディアがよく見えるんだ! 良いだろう!」
木の上から、リュミエールが言う方向を見る。
「わぁ、塔がはっきりと見えるわ! それに大きな木がいっぱい!」
リュミエールは、くすくす笑う。
「君たちの村には木は生えていないのかい? なら、村の中は地面の上を歩いて移動しているんだね」
えっ、アルカディアの中は飛んで移動するの?
「よく見てごらん! 木と木の間には橋がかかっている。家も木の上に建っているのも多いから、それで移動するのさ」
ツリーハウス! そこに住むの? 森の人の特徴なのか、視力が良い。きっと2.0ぐらいあるんじゃないかな? 真剣に見る。
「よく分からないわ!」
良い視力で見ても、まだ遠い。
「そうかな? でも、すぐに着くからわかるさ」
とはいえ、まだまだ遠そう。
「神父さんは、あのままで良いの?」
初めてアルカディアに行くなら、子どものリュミエールより神父さんと一緒の方が安心だ。
「そうだなぁ! サリーとミクが一緒の方が良いと思うなら、帰ろう」
えっ、それなら初めから一緒に来たら良かったじゃん! やはり、リュミエールは子どもだね。
少し戻って、木の枝の上に座って待つ事にした。
「あそこからなら、アルカディアがよく見えるから、連れて行ったんだけど……魔力を使って遠くは見ないんだね」
それって遠見? 千里眼?
「リュミエールって、何のスキルなの?」
少し得意そうな顔をして教えてくれた。
「弓と光の魔法だよ! だから、名前もリュミエールなのさ」
「えっ、貰ったスキルで名前が決まるの?」
アルカディアでは、そうやって名前を決めるのかと驚いた。
「いや、そんなわけないさ! でも、私の場合は、とても相応しい名前だろう? そういえばアリエル様も風の魔法使いに相応しい名前だよね! オリビィエ様も花の名前だから、薬師っぽいかな?」
サリーと顔を見合わせる。聞いてみよう!
「ねぇ、何故、さっき笑ったの? あの2人はそんなに変わっているの?」
リュミエールは、少し考えてから口を開いた。
「変わっているのは、悪い事じゃないよ。でも、これまで弟子を取らなかったのは、やはり変人と言われても仕方ないかな? アルカディアに住んでいる大人は、弟子を取るからね」
へぇ、そうなんだ!
「それと2人とも結婚していないから、やはり変わっているのかも?」
えっ、長老会に属していると聞いたけど? 狩人の村の大人は全員結婚していた。
「あのう、2人は長老会に属していると聞きましたが、それは高齢って事ですか?」
リュミエールは肩を竦める。
「歳をとったから長老会に入るってものでもないけど、まぁ、若者は入れないよね。ある程度の実力がないと入れないし、一定の年齢以上じゃないと駄目だと思う」
ふうん、ワンナ婆さんとセナ婆さんを思い浮かべちゃった。
「リュミエールは誰かの弟子なの?」
ちょっと唇を突き出して、不満そうな顔をする。
「ああ、私の師匠は厳しいリグワード様なんだ。やはり神父さんと一緒にアルカディアに行こう!」
それって、師匠に出迎えに行けと言われていたんじゃないの? サリーと肩を竦める。
少しリュミエールは年齢より幼いよ。まぁ、年齢も5歳だから、幼いんだけど、狩人の村の5歳はもう親から自立しているからね。
「ねぇ、リュミエールが一番若いの?」
サリーが不思議そうに訊く。
「ああ、だからいつまでも赤ちゃん扱いされて困っているんだ。でも、サリーとミクが来たら、お兄ちゃんになるね」
何だか頼りないお兄ちゃんだよ。
「他には子どもはいないの?」
リュミエールは、張り切って教えてくれる。
「いるさ! 10歳のガリウスが子どものリーダーだよ。少し威張っているけど、困った事があったら、ガリウスに言ったら、何とかしてくれる」
了解! リュミエールに相談するよりガリウスにした方が良いんだね。
「それと9歳のエレグレースは、風の魔法使いだよ! カイキアス師匠についている……アリエルより教えるの上手いんじゃないかな?」
それを聞いても、サリーに師匠を変える自由があるのか分からないから、やはり親切なのか意地悪なのか判断に苦しむ。
「えっ、他にも風の魔法使いの師匠がいるの? なら、何故?」
ほら、サリーが不安そうになったじゃん!
「アルカディアでは親と一緒に住んで、昼から師匠の家に行くんだ。あの2人は大きな家に姉妹だけで住んでいるから、住み込みには良いからかもね? 朝は学舎だから、一緒に勉強できるよ」
学舎? そんなのあるんだね!
「学舎には、何人ぐらいが通っているの?」
リュミエールは指を折りながら、教えてくれる。
「ガリウス、エレグレース、マリエール、ヘプトス、それと私の5人だよ」
子どもの人数が少ない気がする。
「アルカディアには何人が住んでいるの?」
リュミエールが答えるのに飽きてきた。
「そんなの知らないよ。あちこちに出かけている人も含めるの? いつもいるのは多くないんだ」
自分が喋るのは良いけど、質問に答えるのは面倒くさいと、神父さんを迎えに行った。
やはり精神的に幼い気がする。
サリーと聞いた事を話し合う。
「住み込みで弟子を取ってくれる師匠がアリエルとオリビィエだったから変人でも仕方ないのかな?」
そりゃ、あんな風に言われたら、考えちゃうよね。
「2人、一緒の所の方が、私は心強いよ!」
サリーも気を取り直して、頷く。
「リュミエールの言うことだから、いい加減かもしれない」
そうだね! それに、もうすぐアルカディアに着くから、師匠にも会える。
「楽しみだね!」
だって、ずっと待っていたんだもん!
「うん!」
神父さんとリュミエールがやってきたので出発だ。
リュミエールは、木の上で警戒しているから、私とサリーはロバの横を歩く。
「神父さん、アルカディアには学舎があるとリュミエールが言ったけど、私達もそこに行くの? それとも下働きをするの?」
神父さんは、少し考える。
「それは、アリエルとオリビィエの考え方次第だな。下働きを優先するかもしれないし、先ずは基礎知識を得た方が良いと思うかもしれない」
やはり、アルカディアの子じゃないからね。
少し、学舎には興味があったけど、タダで弟子にしてくれるし、住ませてくれて、食べさせて貰えるのだから、無理かもね?
ロバはゆっくり歩くから、アルカディアに着いたのは、夕方だった。
途中で、ラング村で貰った干し肉をリュミエールにも分けて食べたよ。
「ほら、アルカディアだよ!」
森の木立を抜けたら、アルカディアだった。
狩人の村みたいに石の壁はない。木の柵が立っているだけだ。魔物は入ってこないのかな?
周りには小麦畑や菜園らしきものもある。
でも、それよりやはり、聳え立つ塔や、大きな木に驚いちゃう。
「わぁ! 本当に大きな木がいっぱいなのね!」
「綺麗! 空中都市みたいだわ!」
リュミエールは、私とサリーが驚いているので、機嫌が良い。
「ほら、木の上に家があるだろう! あそこが私の家なんだ」
私が思っていたツリーハウスは、子どもが秘密基地にする感じの大きさだった。全然違うよ。
木と木の間には、橋が掛かっているし、家もすごく大きい。
特に、リュミエールが教えてくれた自宅は、大きな木と木の間に床を渡して作ってある。
「リュミエールの家、凄く大きいのね!」
リュミエールが嬉しそうに笑う。
「当たり前だよ! うちの両親は、凄腕の狩人なんだからね」
ふうん、狩人なの? 魔法使いじゃなくて?
「サリー、ミク、あそこが師匠の家だよ」
神父さんが教えてくれる。
「あれって、木じゃないの?」
アルカディアの奥まった所に、大きな大きな木が見えるけど、よく見たら、ドアがついている。それに、窓も? ガラスがはまっているの?
「木を利用して家にしているのさ! だから、少し変わっていると皆が言うけど……師匠、痛いよ!」
リグワード師匠らしき背の高い森の人がリュミエールの耳を引っ張る。
「目上の人への尊敬を忘れてはいけない! 何度、注意していることか!」
リュミエールの耳、ちょっと尖っている。私が思っていたエルフみたい。
「リグワード、お久しぶり」
神父さんが声を掛けると、リュミエールの耳を離して、挨拶する。
「神父さん、ようこそ! お疲れでしょう」
どうやら、リグワードも長老会メンバーらしい。白髪が混じった青い髪だし、目が黄色っぽいから。
「この子達を、紹介しよう。バンズ村のサリーとミクだ。アリエルとオリビィエの弟子になるのだ」
リグワードは、先に知っていたみたい。
「なら、先にこの子達を師匠の木の家に連れて行こう。リュミエールは、もう家に帰って良いぞ」
リュミエールは、付いて来ようとしたが、追い返された。
「じゃあ、またね!」
ちょっといい加減な所もあるけど、リュミエールは意地悪じゃないと思う。
「うん、ありがとう!」
お礼を言ったら、嬉しそうに笑う。なかなかハンサムかもね!
神父さんのロバは、通りかかった他の森の人が「世話をしておくよ」と連れて行った。
考えていたより、アルカディアの森の人って意地悪じゃなさそうだけど、それは神父さんが一緒だからかも?
私達が住むことになる師匠の木の家は、見上げるほどの大木だった。
ドアは、階段を数段上がった所にあり、リグワードがノックする。
「アリエル、オリビィエ、神父さんだよ」
ドアが開いて、出てきたのは、とても美しい森の人達だった。
「まぁ、こんなに小さな子なのね!」
「どちらが私の弟子になるんだい?」
長老会に入っているって、本当なの? 私とサリーは顔を見合わせた。
だって、目も綺麗な緑色なんだもん。年寄りとは思えない!
初めて師匠に会った時、あまりの綺麗さに驚いたが、あの感動はすぐに崩れた。
2人が変人と呼ばれるのは、理由があったのだ。




