アルカディアの狩人
ラング村からも神父さんの護衛が付いた。
若くて狩人としては一人前ではない子みたい。
ジミーと同じぐらいだけど、もう少し年上かな?
ここから、アルカディアは、もっと森の奥になるんだけど、大丈夫なの? なんて失礼だから聞かないけどさ!
「ミク、アルカディアってどんな感じなんだろうね」
私とサリーは、神父さんの少し前の枝に座って話しては、また追い越した先で休んで、話していた。
「今、知っている事は、高い塔がある。アルカディアの中に大きな木が生えているって事だけ」
サリーは、他のことを気にしていたのだ。
「そうじゃなくて、アルカディアに住んでいる森の人は全員が魔法を使えるそうよ! 狩人もね!」
えっ、それは知らなかったよ!
「ふうん、じゃあサリーが風の魔法を使って矢を獲物に射るのに加えて、弓スキルも持っている感じなのかな? それって、弓スキルだけで良いんじゃない?」
サリーは、ちょっと考えて口を開いた。
「弓スキルで火の魔法を使う感じなのかも?」
「それは、火矢で良いんじゃないの?」
どうも、私達は狩人の村の生活しか知らないから、狩りに魔法を加えるのを想像できない。
「それは、アルカディアに行かないとわからないね。魔法と他のスキルを持っているのって、どんな感じなのかな?」
「でも、ミクって3個もスキルを持っているんだよね!」
そういえば、そうだけど、薬師以外は補助というか、役には立つけど、それで生活する感じじゃないよね?
「じゃあ、アルカディアの森の人達も何個も持っていても、役に立つのは1個なのかな?」
下で聞いていた神父さんがプッとふき出した。
「これこれ、そんな失礼な事を言ったら叱られるぞ」
サリーと地面に飛び降りて、神父さんのロバの横を歩きながら話を聞く。
「ミクは3個もスキルをもらったのをエスティーリョの神に感謝しなくてはいけないよ」
それは、そうかもしれないけど、できれば狩人のスキルが欲しかったな。
それだったら、ずっと村に居られたし、10歳になってから、どうするか選べられたのだ。
村で暮らすか、人間の町に行くかとかさ。
2歳で修行に出るのって、やはり厳しいと思うもん!
私の不満そうな顔を見て、神父さんが説教する。
「森の人は何かのスキルを貰うのが普通だと思っているが、人間のほとんどはスキルは貰えないのだよ。100人に1人ぐらいしかスキル持ちはいない。努力して身につけるのだ」
サリーも私も初耳で驚いた!
「ええ! じゃあ、どうやって暮らすの?」
そこから、神父さんに普通の人々の暮らしを聞いた。
「ほとんどの人は農民として生まれ、農民として死ぬ。この前の戦争では、農地から引き離されて、兵士として亡くなったが……」
一瞬、驚いたけど、前世の昔の人の生活はそんな感じだったのかも?
「でも、行商人もいるわ!」
サリーの反論に、神父さんは笑う。私達が知っている人間は、エバー村の住民と行商人だけだからね。
「勿論、商人や、職人もいる。その中には、スキルを持っている人もいれば、持っていない人もいる。だが、人口のほぼ4分の3は農民だよ」
ふうん、そうなんだね! 歴史の本で読んだ気がする。
「でも神父さん、人間の町には大勢の人が住んでいると聞いたわ」
バンズ村に帰ってきた若者から、サリーの兄ちゃんのサムが聞いたみたい。
「町には多くの人が住んでいるが、ほとんどは農村に住んでいるんだよ。森の人の何万倍も人間はいるのだからね」
バンズ村の人口は、100人に満たない。
狩人の村が何個あるのかは知らないけど、この前、集まった村長さん達は8人だった。
エバー村やニューエバー村は、バンズ村よりは大きいとしても、森に住んでいるのは1000人程度なの?
私が考えているうちに、サリーが別の質問をする。
「人間の町で、森の人は何をして暮らしているの?」
あっ、それは知りたい!
「狩人のスキルを持つ森の人は、兵士か冒険者が多いな」
冒険者! ファンタジーな世界だね。
「でも、人間が住む町には魔物は出ないのでしょう?」
神父さんは、笑った。
「この森ほど大きな魔物は滅多に出ないが、小物はちょくちょく出る。それに、他にも森はあるから、そこの魔物が作物や家畜を襲ったら、大損害だからな」
確かにね!
「それに護衛も必要だから……」
行商人さん達も、残党兵が盗賊になって困ると言っていた。治安は悪そう!
「神父さんは、人間の村も回るのでしょう? 護衛はいらないの?」
クスクスと神父さんは笑う。
「神父を襲っても、お金は持っていないからね。まぁ、それでも村人が次の村まで、付いて来てくれたりもするけど、襲われた事は無いよ。森の魔物は、それを知らないから、ああやって護って貰っているが……ああ、アルカディアの狩人が迎えに来てくれたようだ」
話に夢中になっていたけど、森の奥から狩人が、木と木を移動して、こちらにやってくる。
ラング村の若者は「では、ここで!」と村に帰っていく。
「ありがとう!」と叫ぶと、ヒラヒラと手を振って消えた。
「神父さん!」
スッと地面に音もしないで降りたアルカディアの狩人は、神父さんと知り合いみたい。
「リュミエール、迎えに来てくれたのかい?」
グリーンの髪の毛と濃い緑の目、って事は、子どもなんだね。
着ている服はチュニックとズボンだけど、生地は上等そう!
「ええ、そろそろ来られる時期だから。この子達は?」
神父さんが紹介してくれる。
「この子達は、アルカディアで修行するサリーとミクだよ。アリエルとオリビィエに弟子入りするのだ」
えっ、リュミエールの顔が歪んだ?
「プッ、本当に弟子を取ったのですね! 神父さんは、あの2人に何か魔法でも掛けたのですか?」
笑いを堪えようとしたみたいだけど、我慢できずに噴き出した。
嫌な予感しかしないよ。
「これ、リュミエール、幼い子が不安になるだろう」
神父さんは、叱るけど、リュミエールは肩を竦めている。
「おチビちゃん達、師匠に我慢できなかったら、私の所に来るんだよ。村まで送ってあげるからね」
リュミエールが親切なのか、意地悪なのか、今は判断できない。保留にしておく。
サリーも不安そうな顔をしている。
「兎に角、アルカディアまで案内しますよ。2人は木と木の移動はできるのかな?」
神父さんと話す為に、ロバの横を歩いていたからね。
「ええ」と答えると、にっこりと笑う。
「なら、ついておいで! 神父さんには守護魔法を掛けておきます」
えっ、神父さんをほって行くの?
守護魔法って、何? 薄らと神父さんの周りが光っているけど、それかな?
「サリー、ミク、リュミエールと行きなさい」
私とサリーが戸惑っていると、神父さんが許可を出す。
「じゃあ、お先に!」
2人でリュミエールの後を追う。
「うん、ちゃんと移動できるね! 何歳なの?」
それは、こちらも聞きたいよ!
「2歳です」
サリーが答えると、リュミエールは驚いたみたい。
「修行に出るには早過ぎない? 村まで送ってあげようか?」
いや、まだアルカディアに着いてもいないから!
「リュミエールは幾つなの?」
見た目より幼い気がする。守護魔法とかは使えるようだけど!
「私は5歳だから、おチビちゃん達よりお兄さんだよ」
やはり子どもだ! サムより幼い気がしたんだ。
「おチビちゃんじゃないわ。サリーとミクよ」
「わかっているよ! でも、私より小さい子は初めてだから、少しはお兄ちゃんの気分にならしてくれても良いだろう?」
初めて会ったアルカディアの狩人は、お兄ちゃん振りたいリュミエールだった。
この出会いが良かったのか? 悪かったのか? サリーと私は、後々までも悩むことになる。




