初めての森!
次の日の朝は少し早く起きて、芋を熾火に4個埋めて、菜園の水遣りをした。
若者小屋の前の菜園は、まだ芋が収穫されていなかったから、パスしたけどね。
「おやおや、今日からはヨハン爺さんの森歩きなんだね。ううん、なら人参の4分の1はあげなきゃいけないね」
そう、今までは預かり賃を半額にして貰っていたのだ。
「人参、好きなのに良いの?」
ははは……とワンナ婆さんは笑う。
「前に食べたいから種を買ったけど、上手く育てられなかったから、良いんだよ。それより、遅れるよ!」
おお、そうだった!
慌てて家に帰って、背負い籠とポシェットを掛ける。ポシェットの中には、木を薄く削ったのに4個の焼き芋を包んで入れる。
ナイフは、ベルトに挟み、ナタを手に持って村の出口まで走る。
「遅いぞ!」
ヨハン爺さんに叱られたけど、サリーは「私も今来たところよ」と笑って言った。
「今日から、サリーとミクも森歩きだ。注意する点を言っておく。魔物が出たら、木に登れ! わしとジミーで狩るから、邪魔にならないようにするのだぞ」
まぁ、狩人のスキルは無いからね。
「それと、これを渡しておくから、逸れたら笛を吹け。吹く時は木に登ってからだぞ」
木登りできるかな?
「あのう、木登り苦手なんだけど……」
サリーも、ミンやケンみたいに家の屋根を飛んだりしていないもんね。
「えええ、そうなのか? なら、今日は木登りの練習からだな」
ヨハン爺さんに、溜息をつかれたよ。
笛は木でできてて、紐で首から下げられる様になっている。
「ピー! と強く吹くのは、魔物が出た時だ。ピーピーピーは迷子になった時だな」
吹き方の練習をして、村から出る。
無患子を植えた時にちょこっと出た事があるだけなんだよね。
「ヨハン爺さん、無患子を育てて行くね!」
門の横にある無患子を植えた土地に手をついて「大きくなぁれ!」と唱えてから、走ってサリーの横に行く。
まだここら辺には木は生えていない。魔物が出なければ、小麦を植えたいよ!
「ミク、ここに食べ物を植えても、魔物に食べられるだけだ」
そうなんだよね! 一日中、見張っていられないもの。
前世でも鹿とか猪とかの農作物被害がニュースになっていた。まして、魔物が出る森の中だからね。
木々が生い茂る森の中の小道を歩く。
「ほら、雪で折れた小枝とかを拾いながら歩くんだぞ」
ジミーは慣れているから、少し小道から外れた所の小枝を拾っているので、サリーと私は近くのを拾う。
ちょっと森に入った場所で、ヨハン爺さんは脚を止めた。
「ジミーは薪を拾っておけ。サリーとミクは木登りの練習だ。先ずは、どの木が登り易そうか見極めろ!」
サリーと2人で、キョロキョロ見渡す。
「さっさと見極めて、登らないと魔物に喰われるぞ!」
私は、手を伸ばせば枝に届きそうな木にする。
「なかなか良い木を選んだな! サリーも早く選んで登れ!」
私の方が先に選んだけど、サリーの方が登るのは早かった。
「ミクは……まぁ、練習あるのみだな!」
鈍臭い! と言いかけて、ヨハン爺さんはやめたみたい。植物成長スキルと料理スキルと薬師スキルだもんね。
まだ、サリーの風の魔法スキルの方が森歩きには役に立ちそうだよ。
「ミク、下の枝では、魔物がジャンプしたら喰われるぞ。もっと上まで登れ!」
前世では、木に登った事は無かった。初木登りなのに、割とスルスル登れるのは森の人特性なのかもね?
「そこからジャンプして降りれるか?」
無茶言うね! でも、サリーはピョンと飛び降りている。
私は、二枝降りてから、飛び降りるよ。
「ふぅ、夏の間に特訓が必要だな」
ヨハン爺さんに、しごかれそう! でも、森の中を自由に移動できるようになりたい。
「はい!」と元気よく返事したら、苦笑された。
木の枝を拾いながら、もう少し奥に入ると、小川が流れていた。
「言っておくが、水がある場所には魔物が集まる。だから、油断しないように! こら、ミク! 聞いているか?」
聞いているけど、あれって水セリだよね!
「ヨハン爺さん、あれって食べられそう!」
植物成長スキルは、食べ物がわかるみたい。ラッキーだよ。
似ていても毒がある植物もあるからね。
「食べられるのか? なら、採取して良い。見張っておく」
一本採って、小川で洗って口に入れる。
「ホロ苦いけど、サッとゆがいたら美味しそう!」
サリーやジミーも真似をする。
「苦い!」ジミーはペッと吐き出した。
「どれどれ?」ヨハン爺さんは、もぐもぐ食べている。
「見張っておくから、わしのも採ってくれ」
3人で水セリを採る。
全部は採らずに残しておくよ。
「さて、もっと奥に行くぞ! できたら、小物を狩りたい」
ジミーとヨハン爺さんは弓と矢を持って来ている。
静かに歩く練習も必要なのかも?
「こんなに足音がうるさかったら、何も出てこないな」
サリーと私は、ヨハン爺さんとジミーの倍の足音がしている。
「静かに歩く練習をしながら、小枝を拾うのだ」
うん、難しいよ。でも、必要なのかもね?
かなり森の奥に入ったと思ったけど、狩人達は見かけない。つまり、まだそんなに奥じゃないのかも?
「ミク、あっち!」
滅多に口を開かないジミーが珍しい。
「ああ、もう少ししたら、あそこら辺にはコケモモが生える」
それは良いな!
「成長させても良いかな?」
ヨハン爺さんも、頷いているから、ジミーに案内してもらって、コケモモの芽が出ている地面に手をついて「大きくなぁれ!」と唱えておく。
もう少し歩いたら、お腹が空いてきた。
「ヨハン爺さん、焼き芋を持って来たので食べましょう」
ヨハン爺さんは、少し呆れたみたいだけど、ちょこっと小高くなった岩場でお昼にする。
「森で昼飯を食べるなんて、初めてだ!」
薄く削った木に包んだ焼き芋を皆に分ける。
「うん? わしのもあるのか?」
1人だけで食べたりしないよ。
「美味しい!」
サリーはもう皮を剥いて食べている。
「うまいな!」
ジミーの家では、湯がくだけなのかな?
「焼いた芋は美味しいな!」
焼き芋1個だから、あっという間に食べたよ。
サリーの皮袋から水を貰って、飲んだら、帰る。
「今日は、初日だから疲れる前に引き返そう!」
ヨハン爺さんは、子どもの森歩きに慣れているから、無理はさせない。
それに、これから秋までずっと大雨じゃない日は森歩きだからね。
帰る時は、小道から外れた所を歩いた。
「シッ!」
私とサリーは、立ち止まって静かにする。
ヨハン爺さんは、ジミーに狩らせるつもりみたいだ。
遠くに兎に角が生えたのが1匹見える。
シュバ! ジミーの矢が当たった!
「まだだ!」
ヨハン爺さんが小声で指示を出す。
えっ? ああ、もう1匹いたんだ。
シュ! 外れたと思ったら、シュバ! っとヨハン爺さんの矢が射止めた。
「この時期のアルミラージュは番いが多い。覚えておけ!」
ちょっと悔しそうなジミーだけど、0歳で狩りをしているのって凄すぎるよ!
角兎の脚を縄で括って、籠にぶら下げると、村に帰った。
前世だったら、可哀想とか思ったのかもしれないけど、狩人の村に生まれたからか、美味しそう! って思っちゃうんだよね。
サッと湯がした水セリと、角兎のソテー! 涎が出ちゃう。
なんて、呑気に帰ったけど、村の様子が少し変だ。
「何事だ?」
ヨハン爺さんも少し眉を顰めている。
埃っぽいと言うか、空気が悪い。
「若者小屋の大掃除だわ」
サリーが笑っているけど、20人程の若者小屋の人達は、不機嫌そうに洗濯をしたり、布団を干している。
臭いのは、布団の匂いだ!
「この布団は、洗わないといけないな! 羽根を取り出して、布団の生地を洗うのだ」
村長さんは、狩りに行かないで、掃除の監督をしているけど、今から洗ったら今夜は布団なしになるよ。
次々と帰ってくる狩人達も、臭い布団に眉を顰めている。
「不潔にしていると、魔物に逃げられるぞ!」
村長さんは「明日は、朝から布団を洗うぞ!」と厳命して、若者小屋からブーイングを受けていた。
でも、村の狩人全員から「綺麗になるまで狩りは禁止だ!」と怒られて、肩を落としている。
ヨハン爺さんも「アイツらを躾け直す必要があるけど……ワンナ婆さんは、赤ちゃんの守りだし……ルミは掃除が上手いが、狩りに行きたいだろうなぁ」とブツブツ言っている。
「セナ婆さんは?」
ジミーの言葉に、ヨハン爺さんが笑う。
「アイツなら、若者を躾け直せるだろう。少し若者達が気の毒だけどな」
セナ婆さんは、ヨハン爺さんの奥さんだ。もう、狩りには行ってないけど、家で織物をしている。
行商人が来ない期間は、村で布が欲しくなったら、セナ婆さんに頼むしかないのだ。
村長さんも同じ考えに行き着いて、明日からはセナ婆さんが、若者小屋の監督をする事になった。
「明日は、布団を洗うから、一日中監督をするけど、その後は、朝にチェックするだけだよ。私は織物をしなくちゃいけないからね」
ちゃんと掃除して、布団をキチンとしないと、狩りには行かせない! と村の大人が決めたみたい。
その日の夜は、鳥系の魔物の骨でスープを取って、芋を煮込んだシチューにする。
それに、サッとゆがいた水セリを散らしたら、春の味がした。
「美味しいわ!」
ママとパパは大絶賛だ。
「骨は、皆欲しがらないから、今度からは絶対に貰おう!」
出汁とか取らないのかな? まぁ、競争率が低い方が良いけどね。
「森歩きは、どうだった?」
私は、ヨハン爺さんに習った事を報告する。
ああ、前世でも学校であった事を両親に夕食の時に話したかったなぁ。




