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夢を見る国  作者: 3otu
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8-14-3

どうにも晴れない気持ちを引きずりながら、僕は闘技場の受付へと向かっていた。

マツが何か話そうとしては僕の顔を見てやめるのを繰り返している。

試合の時間まで三十分を切っていた。


「受付さえ終われば、後は指示通りに動けば問題ない」


沈黙を破り、マツが言う。僕はコクリと小さく頷いた。


「さっきまでのイライラをぶつける場所があってよかったよ」

「そうかい。ナイスタイミングってこったな」


受付にに名前を告げる。そのまま、闘技場の入口へと案内された。


「ここから俺は行けないから。終わったらまた合流しよう」

「あぁ。ありがとう」

「緊張すんなよ。頑張ってな」


ヒラヒラと手を振りながらマツは去っていった。一人になると急に緊張が襲ってくる気がした。

試合開始まで残り10分程、特にすることもなく入口で待機することしかできない。


「こんにちは」


背後から急に声を掛けられ、驚いて振り返る。

真っ黒なスーツに身を包んだマヒトの男性が立っていた。


「こ、こんにちは」

「闘技場への参戦は初めてですね?」

「はい…」

「ルールの説明は必要ですか?」

「一応…お願いします…」


そういえばルールについてはよくわかっていなかった。

相手を倒せばいいのではないのか。

男は口を開くと、簡単なルール説明をしてくれた。要はこんな感じである。


①闘技場内で使用できる武器は試合前にランダムで割り振られたもののみ使用できる

②相手が行動不能、もしくは降参を宣言した場合のみ試合終了とする。

③行動不能、もしくは降参を宣言した相手に攻撃をすることは許されない。



「へぇ…装備はないものだとばかり」

「入場後、選ばれた武器をお互い装備してから開始です。もうゲートが開きます。ご武運を」

「ありがとう」


礼を言い終わると同時に、目の前のゲートが開いた。

激しい歓声と、眩い光が強烈な刺激となって襲い掛かる。

目を眩ませながら入場すると、周囲360°どこを見回しても視線の海であった。


『さぁ!今回は久しぶりのビギナー対決!さらに久しぶりのガラムア出身!ハル選手の入場です!』


どこからか鳴り響く実況の声に併せて、観客の熱狂も一段と盛り上がる。

コロシアムの中央で僕は相手を見据えていた。相手はどうやらアジンのようだ。


『対するお相手もビギナーです!ノスキリーネから参戦!武器の扱いはお手の物か?アキト選手です!』


アキトと呼ばれた相手は観客席に向かい、緩やかに手を振った。どことなく余裕の表情である。


『さぁ!両者出そろった所で武器の選択から始まります!今回お互いに選ばれた武器は…これだッ!』


アキトと僕の間に突如何かが落下してきた。砂煙を払うとそこには篭手が転がっていた。

アキトの目の前には大剣が刺さっていた。


『これまた珍しい武器を引きましたハル選手!私も久しぶりに見ましたが闘技場で最も不人気な篭手を獲得です!』


観客席から笑いが起こる。篭手を手に取り嵌める。不思議なほどしっくりと手に馴染む。


『アキト選手は大剣のようです!リーチの差が厳しい戦いとなるか!両者構えてください!』


腰を落とし、左足を引く。右手の拳をカイバムの鼻の高さに合わせて僕は構えた。

アキトも同じく剣を構えた。


『それでは…始めッ!』


「おおおおおおぉぉぉぉ!」


実況の声と共に、アキトが雄叫びを上げながら突っ込んでくる。

なんとも直線的な攻撃。右に飛んでそのまま距離をとる。

空振りしたアキトはそのまま凝りもせずに突っ込んでくる。

真正面。少し距離もあった。


「くらえッ!」


大きく振りかぶり、アキトが大剣を僕の頭に向かって振り下ろす。

重く空気を割く音が響く。


「へぇ…」


ただ振り下ろされただけの大剣をするりと避け、そのままガラ空きの腹に拳を打ち込む。

振り下ろした勢いを殺すこともできず、アキトの体は二つに折れた。

鈍い音を立てて、大剣が床に落ちる。


「くッ…ごほッ…ぐぐぐ…」


起き上がろうとするアキトを眺める。動ける限りは終わらないのだろうか。


「やめときなよ」


僕は一言告げた。


「なめるなよ…この闘技場に入る権利をどれだけ待ったことか…」

「気持ちはわかるけどさ。やめときな。」


忠告を無視してアキトは立ち上がった。


「ここで負けるようならもう俺の帰る場所なんてないんだ!」


叫びながら右拳を振り上げて殴りかかってくる。

他愛もない。カウンター気味に右拳を顔面に打ち込む。


「……ッ!」


アキトは声もなく吹っ飛んで行った。

そのまま動く気配がなくなる。


『…ッ!これは…ッ!アキト選手行動不能ッ!初戦をまさかの圧勝で乗り越えましたハル選手ッ!』


観客が沸き上がる。正直、自分の求めた試合とは大きく違う気がしていた。


『おめでとうございますッ!これからの闘技場に大きな波紋を投じたハル選手でしたッ!』


興奮冷めやらぬ闘技場に背を向け、僕はマツを探すのであった。

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