お出かけ
「これがお出かけですか」
市井に出掛けた皇子と少女は仲良く並んで串に刺さった肉を食んでいた。筋の多い部分を購入したようで2人ともなかなか噛みきれずずっと口を動かしている。
「そう、これがお出かけ」
皇子は王都の人たちに『邪魔するなよ』という視線を向けて牽制していた。王都の人々も若き青年の恋路を邪魔するつもりはないし、ようやく恋をした青年の応援をしたがった。
だからわざと2人の距離が近くなるように2人の周辺だけ人が密集していたりゴロツキっぽく絡んで皇子に見せ場を作ったり。
少女は全てこれらが作戦であると分かっている。こう見えて暗殺を生業としていたのだから。
だから、なぜか手を繋いで歩いているこの状況には困惑していた。人と触れ合うのは人を切る時。切った後に本当に命を落としているかを確認するのみだ。だから、体を強張らせて手を離させようとするも皇子の握力は強く解けなかった。いや、本気を出せば皇子の体など遠くに放ることもできるが何かが少女にそうさせるのを邪魔している。
「間違って手を出しそうなのでやめて下さい」
「それね、本来は俺が言うセリフだよ。まあ、手を出す、の意味が違うだろうけど」
「だからっ!?」
その時、ピリ、としたものを首筋に感じた。
殺気。
串に刺さった肉を口に放り込んで串を投げた。
「え、行儀悪いよ、それはやめたほうが……」
「うるさい。ちょっと手を離すけど、気にしないで」
そして串を投げた方向に少女はものすごい速さで駆け出した。残された皇子。
王都の人達はぽかんと少女の後ろ姿を見つめ、それから講師を労った。
そんな日もあるさ、と。
少女は串を脳天に刺して仰向けにひっくり返る大男を蹴った。
路地裏。誰もいない空間に少女は頷く。
「あー、こいつはあれか、うん、派閥争いって奴だわ」
1人頷いて男をそのまま放置した。串だけ回収し、服からマッチを出して燃やした。