婚約までは急ピッチ
「んで、何で皇子サマは平民上がりの怪しい娘なんかにビビビときたんだよ、アホか?普通暗殺者だろとか思うだろ。あんた、絶対に短命だ毒飲んで死ぬぞ」
皇子は少女に声を掛けて少女を連れてサロンに2人で向かった。他の参加者は惚けた様子で2人を見つめてすぐに頷いた。恋に縁のなかった皇子が積極的にアプローチをしている。これは国を挙げて応援しなければ。謎の連帯感が生まれていた。公爵はうまくいったことに少し拍子向けをして少女の耳元で「上手くやってきなさい」と話した。
「暗殺者だなんて温室育ちの貴族の子供にはまだ早いですしそういうものに関わっている貴族も少ないですからそう言う考えには至りません」
「でも、あんたは私と会って一度殺されそうになっているだろ。なら、そう思う。私がフードをかぶっていて顔を見れなかったとはいえ、危険そうな人物と2人きりは危ないだろう」
「皇子に説教ですか、あなたであればきっとここで華麗に私を殺せますよね。それなのに殺さない。だから信頼できます。その前に私は惚れた相手になら殺されても良いと」
「だーかーらー、命を惜しまないやつの命なんて軽いもんだ。そんな奴は殺さないしそもそも私が殺す基準に達していないんで殺せないし」
令嬢の話し方、振る舞いをかなぐり捨てた少女は諦めの目を向けつつ残念そうな顔を皇子に向けた。
「残念な奴だな」
「ありがとう」
「何故礼を言う!?私にそんな趣味はないぞ!?」
「あなたに言われることならなんだって嬉しいです」
「怖い、やめろ、殺せない分怖いから普通に猫かぶってキラキラ皇子を演じてくれ」
顔につけっぱなしの仮面については何も聞いてこない。普通であれば質問をしてくるものを。少女は聞いて欲しいわけではないが気になって問うてみた。
「何故私のこれについて聞いてこない。普通であれば気味悪がって聞いてくるが」
「気味が悪いなんて見る目ないですね、その人は」
「あんたに言われたくないと思うぞ」
少女は一歩大きく後退をして皇子を怖いものを見るような目で見やった。
「で、バカですぐ死にそうな私なので一つあなたを巻き込みます」
「何に」
「今からあなたを抱きしめながら両親にあなたを婚約者にすると言いに行きます」
「待て」
「待ちません。もう十分待ちました。それにあなたを雇った公爵もそれを望んでいるのでしょう。ウィンウィンです。良かったですね」
「私は何も利益がない」
「知りません」
「おい」
暗殺者はそのまま皇子にズルズルと引き摺られて皇子の両親に紹介された。その場には今回の婚約者パーティーに招待された人が集結していたので皇子にようやく婚約者ができたことはその日のうちに国中に伝わることとなった。