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前編

真実の愛って言葉について思い付いた事を書いてます。前後編。

「真実の愛を見つけた」


 この言葉を聞いた瞬間、王都の隣に領地を持つベルメー公爵家当主のゼン・シュタリア公爵の娘、セーラ・シュタリアは目を瞑って自身を鼓舞した。ゆっくりと瞼を開けて夢見るようなホワリとしたラベンダー色の目を真っ直ぐ相手へ向ける。彼女の真向かいには、5歳で決められた婚約者であり、この国の王太子であるフェリオスが居る。


 現在、2人は婚約者同士の交流という名状でお茶会中だ。正確に言えば登城して王太子妃教育を先に終えたセーラがフェリオスを待っていた所だった。時刻に少々遅れ詫びた早々、フェリオスがそんな事を切り出したのである。護衛がフェリオスとセーラの背後にそれぞれ立ち、侍女がフェリオスにお茶を出した直後だ。つまり、誰に聞かれても良い、とフェリオスは思っているという事だろう。


 であれば、その真実の愛の相手は、既に国王陛下並びに王妃殿下もご存知の相手と見るべきである。或いは宰相辺りも知っているかもしれない。宰相はセーラの母が務めている。この国では男女の差別無く能力の有る者が取り立てられるため、元々文官として名が知れていたジュリア・メイスタ改めジュリア・シュタリア公爵夫人が宰相位に着いたのは、7年前だった。ゼン・シュタリア公爵は政で辣腕を振るうよりも領地を富ませる方に才覚があったので、基本的には領地経営を行っている。


「セーラ? 聞いているか?」


 辛うじてため息を吐き出す事はしなかったが、国王陛下並びに王妃殿下がご存知ならばセーラにはどうする事も出来ない。……胸が痛むが仕方なかった。それよりも普段なら直ぐに返事をするセーラが黙っている事について、フェリオスは心配になったらしい。


「失礼しました、殿下」


 お互いが5歳で婚約を決められ、王子妃教育が直ぐに始まった。14歳でフェリオスが王太子だと国内外に発表され、同時にセーラが婚約者である事も発表されてからは、婚約者であるセーラは王太子妃教育も始まった。15歳で国立の学院に2人は入学し、同年代の令息令嬢達と交流を重ね、フェリオスの側近候補も決まった。3年間の学院生活も無事に終わり、2人の仲は恙無く。次のフェリオスの生誕祭では2人の婚姻式の日取りも発表するという矢先でのこと。


 尚、フェリオスが王太子だと発表される直前まではセーラは「フェリオス殿下」と呼んでいた。王太子……つまり未来の国王陛下になられる身である事が発表されてからは、敬意を払って「殿下」と呼んでいる。


「いいけど、珍しいね。セーラが私の言った事に対して返事が遅いなんて」


「申し訳なく思いますわ」


「いや。……体調が悪い? 疲れ?」


「体調は大丈夫ですわ。少しだけ疲れてしまったのかもしれません。それより殿下」


「うん?」


「真実の愛のお相手が見つかった事、お喜び申し上げます」


「ありがとう」


「ですが、殿下。婚約者としての務めで申し上げたい事がございます。先ずは公的な婚約者としての立場から」


「聞こう」


「ありがとう存じます。では失礼して。一つ。そのお相手の方の爵位はいかがでございましょうか。私と同じ公爵家・或いは侯爵家・伯爵家でしたら側妃として召し上げられます。しかしながら子爵家・男爵家・準男爵家・騎士爵家ですと我が国の法を鑑み、愛妾としての召し上げになります」


「そうだな」


「ご理解頂きましてありがとう存じます。また、愛妾の身分ではなく側妃にされたいのであれば、公爵・侯爵・伯爵の何処かに養女としてお迎えになられてからではないと難しいでしょう。ただ、殿下。お願いしたい事がございます。正妃に、とは考えないで頂きたいのです。今の私は公的な婚約者としての立場でお願いを申し上げております。ですので、何故正妃に迎えないようお願い申し上げているのか説明させて頂きます」


「それは?」


 王城の庭園でのお茶会。ガゼボとはいえ爽やかな風は吹き抜ける。続けて口を開こうとしたセーラの頬を撫でるように風が吹き抜けて目と同じラベンダーのハーフアップに纏められた髪がサラリと流れた。それは同時にセーラの目の前に居る白金の髪を持つ王太子の髪も弄ぶ。セーラは、少しだけその髪に見惚れた。だが、強めの視線に気付いて取り繕う。紺碧の目がセーラを見つめている事に少しだけ狼狽えながら続きを、とセーラは改めて口を開いた。


「正妃に迎えないで欲しい理由でございますが。先ずは単純に王太子妃教育の量の多さがございます。5時の時から王子妃教育を受けて下地を作った私でさえ、王太子妃教育は更に大変なものと知っています。それを踏まえれば何年も教育を施されていない方が、殿下との婚姻式までに王太子妃教育を完了出来るとは思えません。婚姻式後は王妃教育が始まるのですから尚更です。それでも側妃に迎えられる高位貴族のご令嬢でしたら、もしかしたら殿下との婚姻式までに王太子妃教育が終わるかもしれませんが……下位貴族のご令嬢では先ず無理でしょう」


「成る程。他には?」


「また。真実の愛のお相手の方が、お優しい方ならばやはり正妃にはお勧めしません。殿下も王太子教育を受けていらっしゃる以上、王家の歴史をご存知でしょう。それも」


「裏の歴史、か?」


「左様でございます。心優しい方ならば、王家の裏の歴史を教えられては、心が壊れる可能性もございます」


「セーラは?」


「私は……長い王子妃教育のお陰で何を聞いても壊れないような心の持ち主になるよう、育てられていますので」


 辛くないと言えば嘘にはなるが、幼い頃より王族の一員として生きて行く自覚を植え付けられてきたから、自分の中で消化する術がある。けれど、そうして育っていない方では潰れてしまう程の重い歴史。出来れば側妃か愛妾で心穏やかに過ごし、フェリオスと愛を育んでフェリオスを癒して欲しい、とセーラは思っている。


「そうか」


「それでも。殿下がその方を正妃にお迎えしたい、と仰るのであれば、私は潔く身を引きましょう。王家と我が家の契約では有りますが、諸々の事も殿下ご自身で解決される事でしょうから」


「そうだな」


「ただ。公的な婚約者としての立場から……私は殿下と婚姻し、未来には王妃となって殿下をお支えしたいと思っております」


「そう、思ってくれているのか?」


「それが私の役目ですから。それから……私的な婚約者としての立場でもお話したい事がございます」


「私的な婚約者としての立場?」


「はい」


「聞こう」


 フェリオスは、護衛や侍女に遠ざかるよう指示を出す。2人の姿は見えるが、声は聞こえない範囲まで皆を下がらせた。こういう気遣いが出来るところが、フェリオスを好ましく思う一つだ、とセーラは思っている。フェリオスの真実の愛のお相手は、フェリオスのこういった気遣いに惹かれたのだろうか。

後編は明日更新します。

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