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四字熟語を物語で覚える ~隠忍自重~

「誰だ、またつまらないことを言っているのは?」

鈴木先生の呆れた声で教室は爆笑に包まれる。


クラスではひょうきん者として、何気ないことを笑いにし盛り上げていた誠志。

この日も先生の何気ない言葉に反応し、軽快にダジャレを放り込み、教室を笑いに包んでいた。


誠志はクラスメイトに関わらず年上年下関係なしに信頼の厚い人物で、美化委員長という生徒会役員の一員でもあった。

友好関係も幅広く、中村寛治という親友もいた。


この親友との出会いも不思議なもので、誠志と寛治は小学校は違うところに通っていたが、友達の紹介で一度寛治の家に遊びに行くことがあった。

寛治は普段から学校に来ず、家でゲーム三昧の日々を送っていた不登校の生徒だった。

そこでお互い惹かれあったのか、彼にはどうしても学校に来てほしいという強い思いから、毎日迎えに行き、ともに登校をするようになった。

寛治をどうすべきか職員会議が行われるくらい悩ませていた教員たちから感謝されるほどに誠志は貢献したのだ。


寛治は決していじめられていたわけでもなく、特にキラキラした陽キャラ集団からも好かれるような男子であった。

ただ純粋に学校が嫌いだったのだろうか、真実は定かではない。



この日も新しいゲームが発売されたので、寛治の家で一緒にゲームをして遊んでいると、誠志の携帯に女友達の智子からのメールが届いた。


内容は、寛治が智子に対してどう思っているのかを聞いてほしいというものだった。

智子は小学校時代から寛治のことを好いており、その気持ちを伝えられずにいた。

学校にも来なくなった寛治にどう思いを伝えていいのかもわからず、途方に暮れていたところ、誠志が寛治と毎日一緒にいる姿を見ていたことで、誠志との仲が良かった智子とすれば救世主が現れてくれたという格好だ。


智子は学年でも一、二を争う容姿の持ち主で、彼女に思いを伝える男子が月に1人はいると噂されるほどの人気者だ。

その分取り巻きの女子も多く、高根の花というのにふさわしい女子である。

以前から寛治についての相談を乗っていたこともあってか、この日は少し踏み込んだ質問を投げかけてきた。


「寛治君がさ、私のことどう思ってるか聞いてみてくれる?」


智子には、探りを入れることを了承し、


「二人はお似合いな気がするから頑張れよ!俺は応援してるからな!」と伝えた。


ゲームがひと段落したところで、寛治に智子からの質問を投げかけた。


「お前、智子のことどう思う?俺から見ると二人はお似合いに見えるんだよなぁ。」


寛治はすぐさま


「智子?俺、タイプじゃないわ。」


と返してきた。


思わぬ返答に少したじろいでいると、


「お前、智子になんか頼まれた?」


と、寛治の鋭い眼光が誠志に向く。


寛治との友情を壊したくない誠志は、智子からの好意について寛治に伝えてみた。

二人はお似合いなんだから早くくっついてくれよ、という意味も込めて。

すると寛治は、


「めんどくせぇなぁ。みんな友達でいたいのになんで一歩踏み込んでくるんだろうなぁ、女子って。誠志、悪いけどお前から断っといてくれる?」


と言われた。



恋愛に関して全く無頓着だった誠志は、あまりにも安易に智子の気持ちをぶつけてしまったことを反省していた。

智子のメンツ丸つぶれ。

かといって寛治から嫌われたくないという思いもあり、板挟み状態となった誠志は寛治からの言葉を少しオブラートに包んで智子へと伝えることにした。


「寛治に聞いてみたけど、智子は友達以上には考えられないって言ってたよ。ちょっと困ってたみたいだからさ、あきらめてやってくれよ」

熟考の上ではあったが、智子の気持ちを考えずにメールを送った誠志。

しかし、智子からの返信はなかった。




次の日、普段と変わらず教室のドアを開けると、冷ややかな視線が誠志を襲ってきた。

これまでひょうきん者としてクラスのムードメイカーとして行動してきた誠志であったが、学年の姫を敵に回したことで、立場は一転。

授業中に突っ込む会心のギャグに対しても、誰も笑わないどころか、誠志が発言すれば智子の取り巻きと言える女子たちが小声で悪口を発するまでになった。



そのようなことが数日続いたことで、誠志はこれまでのようなひょうきんな立ち居振る舞いができないと察し、今後は隠忍自重な学生生活を送らざるを得なくなってしまったのである。


今回は「隠忍自重」という言葉を用いて、短編小説を執筆してみました。


隠忍自重とは、「怒りや苦しみなどをじっとこらえて、軽々しい行いをしないこと。 また、そうするべきであるとする戒めの語」を意味します。

ホームからアウェーへの移り変わりを学校生活に落とし込んで作成してみました。

恋愛相談で板挟みになったことがある作者からすると、痛いほど気持ちがわかる気がします。


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