『風に匂う剣士』 その4
≪五大魔法種族≫。それは、魔法界を支える古参の魔法一族である。
最大の勢力を誇る≪風移しの一族≫。
龍の力を受け継ぐ≪緋龍一族≫。
独自の魔法技術を駆使する≪清嵐の一族≫。
最も温和で争いを好まない≪平らかなる一族≫。
他の魔法種族との接触を避け、内実を見せない≪破魔三身の一族≫。
テッドは、≪白黒鼎一族≫の生まれだ。かつては≪緋龍の一族≫の系列に属していたが、他の魔法一族との競争に遅れ、地上世界に堕ちてしまった。その後、系列種族に戻ろうとしたが、叶わず今の状態に至っている。系列から離れると、魔法を使う機会が減ってしまう。時が経つにつれ、一族の魔法力は次第に薄れ、魔法使いになれそうな程の魔法力を持つ子供が生まれる事もほぼ無くなっている。
「でもな。俺は別に山の生活が嫌だとか思った事は無かったぜ。魔法を使う機会自体無いと、それが必要なんて思わないもんな。一応、俺には少し魔法力があるけど、実際、魔法使いになるなんて思わなかったもんな」
「ん? 魔法は使ってはいけないんだろう?」
「いや、魔法を仕事として使ってはいけないだけで、自分が生活する上で使うなら大丈夫なんだ」
「細かいな」
「もう、慣れっこさ。……慣れっこだったんだがな」
元気の無い声にネクスは振り向いた。
「どうして、俺をこんなとこに送り込んだんだろうな」
「お前の一族がか?」
「ああ。突然言われたんだ。この魔法学校に行けって。確かに俺が入れる魔法学校なんて、ここくらいしか無いさ。それは、俺自身良く分かってる。でも、ここに来なくても良かったんだぜ。狩人のまま一生を終えても良かったんだ」
「誰かに勧められたのか?」
「てか、強引にな。もう、長老達の間では決まってたんだ」
「その理由は?」
「さあ、聞かされてないな」
テッドは投げ遣りに言った。
「口減らしなのか、何なのか分からん」
ネクスは、そのテッドの言葉に感情の揺れを見ていた。この男は、何かを隠している。深い悩みを抱えているような判然としない色だ。