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『風に匂う剣士』 その8

 ぎりぎりセーフで飛び込んだ教室には、二十人余りの生徒があちこちに散らばっていた。クラスの人数は、四十人程だから、半分の出席率だ。

 テッドもジェムも特に驚く事無く落ち着いて真ん中辺りの空いた場所に座る。教師から半円形に広がる教室は、木製の段が後ろに行くに従ってせり上がる形になっており、生徒は好きな場所に座り込んで授業を受ける。教師の説明を聞いて、実践するのが基本な為、授業中はノートに書き込む事はしない。授業が終わってから、各自覚えておく内容をメモする。

 一学年百二十人から百五十人。学年毎に≪紅竜こうりゅう≫≪白鳳はくほう≫≪籠虎ろうこ≫の三クラスに分かれている。学年を上がる毎に成績不足や自主退学等の何らかの理由で三割は姿を消す。その為、学年を上がる毎に生徒数は少なくなり、全校生徒は、約三百人から良くて四百人といった所だ。勿論、七大魔法学校では、最も生徒数が少ない。七大魔法学校の中でも最低の学校だ。予算がそんなに多く無いのは当然だ。魔法学校は、必要経費は全て魔法界が持ってくれる為、生徒の懐が痛む事は無いが、それなりの結果を出さなければ、卒業さえも覚束無いのだ。学年を上がるだけでも劣等生には厳しい。但し、卒業出来たと言っても魔法使いの資格を取れるかどうかは別になる。

 テッドも折角入学したからには、落第したくはないが、元々魔法を本気で学んでなかった身に魔法術の勉強はちんぷんかんぷんだ。

 ふたりが座った後ろでは、最初から真面目に授業を聞くつもりが無い連中が三つのコップを逆さにして≪中身当て≫の遊びをしていた。サンザとメッティとフーリエの三人だ。≪中身当て≫は、単純にコップのひとつに丸めた紙を入れて、どれに入っているかを当てるゲームだ。並の魔法種族なら五歳の子供の遊びだが、ここでは真剣勝負のゲームでもある。まともに当てる事の出来る人物はなかなかいない。

「お、テッド。サボりかと思ったぜ」

 サンザが声を掛けた。人一倍大柄な体を揺する。腕っぷしの強さを自慢し、他者に威圧的な態度を取る事が多い。特に、狩人で剣の腕前が良いテッドには、何くれと突っかかって来る。

「うるせえよ」

「どうだ。どこに入ってると思う?」

 サンサの腰巾着のメッティが挑戦的にテッドに言う。

「右さ」

 テッドは興味無さ気に答えた。

 連中が右のコップを上げると、果たしてくしゃくしゃの紙が確かに入っていた。

「おー、まぐれ」

 気が弱く、サンサに良いように使われている太っちょフーリエの低い声。その言葉に笑う奴ら。

「言ってろ」

 テッドも笑みを見せて前を向いて座った。

「朝から勘が冴えてるね」

 ジェムも横から茶化して来たが、テッドは心で首を傾げていた。

(うーん。妙に自信あったな、今のは……。何でなんだ?)

 ≪中身当て≫のゲームは小さい頃から友人や兄弟間でもやっていた。只、能力の衰えた一族の子供らには厳しいゲームだ。当たり前のように勘で遊んでいた。しかし、さっきは何故かコップの中身を感じていた。胸の辺りから何かの力が脳に働き掛け、視野が急に狭まり、中身を透視していた。

(いや、俺は透視なんか出来無い筈だが……)

「おかしい……」

「ん? 何?」

「ああ、いや、何でもない」

 ジェムは両足を揃えて授業を聞く体勢を作っていた。生徒の理解度に興味を示さない教師がいつも通りに熱意の無い講義を始めると、ジェムはその一語一語に集中する。その本気振りにテッドはいつも舌を巻いている。

(まあ、勘だな)

 ジェムは、ゲームの結果を軽く受け流す事にした。自分のような落ちこぼれにそんな能力が芽生えたとはどうしても思えない。有り得ない。夢に違いない。夢じゃなかったら、やっぱり勘違いだ。

 そう。ジェムは勘違いだと思い込む事にした。

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