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最凶から始めるラスト世界  作者: 仲乃古奈
序章
9/13

第九話 動き出すモノガタリ

「この川の向こうは、よく狂暴な獣が出るというのじゃ。それがやけに連携のとれた獣で集団で襲ってきて困ってんのじゃよ。そして、その先には大きな家があるのじゃ。ちょっと洋風の豪邸じゃの。今はだれも住んでいないが、そこには悪いうわさしか出ない。そして、その家を見たものは()()()()()という」

「……ん?」


 そこで境はみょうなとっかかりを覚えた。頭の中を整理しながらその疑問と向き合う。その屋敷は誰も見たことがない。――ならなんでこのおじいさんはあることを知っているのだろう。見ていないのであればわからないはず。ましてや、洋風とかなどわかるはずもない。じゃあ、なんでこのおじいさんは()()()()()()()かのように言うのだろう。

 それを不信がっていると、おじいさんは最後に、


「絶対、行ってはならんぞ。危険じゃ」


 と念を押すように言い捨て、足早にその場から歩き去っていった。

 やはり、なにか怪しい。そう境が思いふけていると、肩に手が置かれた。振り返ると、健太が……やけに目をキッラキッラと輝かせまくった健太がいた。


「なぁなぁ、キョウ。あのさ、ちょっとだけさ、おねが」

「ダメ」

「ぬおッ!? まだなんも言ってないじゃんかよ!」

「……ロクなことじゃないだろうけど、じゃあどうぞ」

「川の向こうにいきた」

「ダメ」

「うわぁあああああ!? おにぃいいいいいいいい!」


 そっけなく願いを切って捨てる境に、健太がしがみついてきて駄々をこねる。


「なんでだよ! 逃げてちゃストーリー進まないぜ!? こーゆーの待ってたんだよ、どう考えたってこれは始まりの町とかの最初のクエストだろこれは!?」

「いーよストーリーなんか進まなくたって。ここで平和に生きてられたらいいの。どっかの勇者とかなら違うかもしれないけど、僕らはただの一般人だから」

「いいじゃんかよ! ちょっとくらい! ケチだなほんと!」

「ほいほいケチでいいですよー」

「…………、わかった。諦める」


 そう言って、うつむく健太。いつもなら押し通すはずなのに、自分から引くとは珍しい。そう驚きながらも、わかってくれたことに頬をほころばせる。そんな境に、健太が「なぁキョウ」と呼び掛けてくる。健太は、どこかふっきれたような清々《すがすが》しい笑顔で言うのだ。


「そういうことで、川の向こうの獣たちを殺戮しに行こう?」

「ちょっと何言ってるかわかんないや」

「そういうことで、川の向こうの獣たちを殺戮しに行こう?」

「別に聞き取れなかったわけじゃないよ!? ……ん? 川に入ってなにするの? わたるの? え、ほんとに行くの!? 準備とかさそういうのはない感じなのかなうんなさそうだねって、や、やめて腕引っ張んないで川に落ちる落ちる落ちるぅ――わぁあああああああああ!?」



 ― ― ― ― ― ―



 ざぶぅーーん! と、後ろから激しい水の音が聞こえた。

 その音を、木の影に隠れるように寄りかかった人物――さっき境たちと会ったおじいさんは耳を澄ませながら聴いていた。

 否、おじいさん()()()といったほうが正しいだろうか。


「……」


 その人物は耳を澄ませてじっとしていた。だけど、何かがおかしい。

 その()()()()()()()()()ように感じられるのだ。着ている服の擦れる音がまるでしない。呼吸音や心臓の音。見えているのに、その存在に気付かないような存在感。そこにいるのが――そこにあるのが当たり前のようにも感じられてしまう異様に妙な雰囲気。命を持たない古い彫刻のように。

 不意に、そのおじいさんだった人物が目を開く。

 その目はさっきのような優しそうなものではなく、鷹のように鋭い、狩る側の()()になっていた。


「……行ったか」


 静かに呟かれた言葉は、年季の入っているものの芯の通った声。


「あの黒髪の少年には、若干じゃっかん気づかれたか。少ない可能性だが、このままだとあの取引に支障が出るかもしれぬな。……、報告じゃ」


 パチンと指を鳴らす。

 数十秒後、背後の茂みがガサガサと喚き立ち、中から黒い狼が現れた。その狼は、艶のある黒い毛並みを風にたなびかせながら、音もなく男の前に移動し座る。


「さっそく取引相手に報告を……いや、相手はたかが子供が二人。報告するまでもない。先に掃除してしまえばいいんじゃな。んー……、でもかわいそうかの? 子供にはあまり手を出したくないんじゃが……」


 そう誰へともなく呟いて、少し考えるように腕を組んで。


「ま、明日には忘れてるし別にいいか」


と、ぞっとするようなことを、なんでもないふうに軽く言いのける。それから、ご主人の言葉をおとなしく待つ狼の頭にポンと手を置いた。


「お前たちに頼んでもいいかの?」

「……」


 狼は答えない。

 ただただ、次の言葉を促すようにじっと静かな瞳を向けている。それは無言の賛同だ。

 そんな狼の様子に、男は口を横に裂けて考えられないような壮絶な笑みを浮かべて言うのだ。



「さぁ仕事をしようか。【職業ジョブ】起動――【猛獣使威《ビーストテイマー】」



 狼が、曇り始めた大空に向かって首を高く上げる。

 そして狼の長い遠吠えが、村に響いた。


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