第七話 丸焦げのモモカン
何かが根本的に間違ってるので、結局台無しである。
境はその間違いに目を点にして呆然としてしまう。
「…………は?」
「そうだよ! 旅って言っちゃ冒険がつきものじゃねぇか! ここの奥とかまだ見てないだろ! こーゆー古いとこは絶対宝箱的なものがあるって! まぁここの持ち主の幽霊とか亡霊とかも出るかもしんねぇが、ドンとこいだぜ! さーさー行くぜ! まってろよ、俺の輝かしい英雄譚――って、いって!? おい、涙目で殴ってくんな、いってぇって!? ちょ、痛い痛い痛い!?」
調子乗って突拍子もないことを言ってのける健太を、殴ってやった。何だったんだ、さっきの通じ合った感は……と肩を落としつつ、調子の乗ってる健太に口を開く。
「なぁんで、そーなるのかなぁー? 休むっていう言葉知ってる? ねぇ、知ってるの?」
「し、知ってるに決まってんだろ!? で、でも、冒険したいんだよ! わかるか!? いや、わかれよ! そうじゃなきゃ、殴る!」
「理不尽の極み!?」
わーわーと掴み合いをする境と健太。猫のじゃれあいのようにゴロゴロゴロゴロあっちに行ったりこっちに行ったりと床を転がっていく。ほこりがもうもうと上がってきた。もとから健太は運動ができてなかなかしぶとい。かといって負けられないんですよ、この如月境の人生をかけた戦いはー!? と意味不明なことを考えながら必死に食らいついていく。
すると。
――きゅるるぅぅ……
「「……」」
何んとも間抜けな音が腹から、鳴った。体は正直なのである。
「…………ぁ、え、えっと。夜ご飯にします?」
「そ、そうしましょう」
あまりの気まずさと恥ずかしさに二人は顔を真っ赤にしながら腹を押さえて俯くのであった。
― ― ― ― ― ―
囲炉裏の火がぱちぱちと音を鳴らす。
なんで火っていうものはこんなに安らぎをくれるのだろうと、境はゆれる光を見ながら考えた。
そんな安らぎの中の晩御飯の献立――丸焦げになった缶詰。
「ねぇどうしてこうなったの!? なんでももを焼いたの!? どうして缶詰ごと火に放り込んだの!? なんか中の空気が膨張してボールみたいにパンパンになってんですけど! 黒い液体がはみ出して見えるんですけど! 食べるのはもちろん見るのすら嫌なんですけど!?」
缶のはじからたらーっと垂れるドロドロした黒い液体を心底嫌そうな目で見ながら、境が叫ぶ。その言葉に健太がふっと笑った。
「……好き嫌いはよくないぜ?」
「缶の丸焼きを好んで食べる人ってそうそういますかね!? あと、こんなに丸焦げにしたのはケンタだからね!?」
「……食べられればいいんだよ。食べられれば」
「食べられたはいいけど、そのあと嘔吐しそうなんだけど!? あと、そのいちいち変えるドヤ顔やめろよムカつくわ!」
でも、食料は大切な貴重品。何が起こるかわからない今は、食料を無駄にはできない。恐る恐る手を伸ばして。いや、だがしかしと手を引っ込めて。そしてまた手を伸ばし引っ込める。
そんなビビり絶好調の境の様子を見て、健太が「はぁ……」とため息をついた。そして、とても静かな瞳で境を見る。
「キョウ」
「……え、な、何かな?」
「顔をこっちに向けて。深呼吸して。口を大きく開けて」
いつにもなく真剣な健太の気迫に戸惑いつつ、言われたとおりにしてみる。
なんか、いやな予感がする。自分の【凶運】がすごく起動してる気がする。
「キョウ」
「う、うん」
「さぁいただきますをしましょうかぁあああああああああーーッ!!」
「やっぱこんなことだと思ったよぁあぁあああああぁぁぁああッ!?」
口に缶の中身を思いっきり叩きつけられ、あっけなく昏倒する境なのであった。しばらく気を失うのだが、そのあとなんか癖になってもう一度試してみようとしたら健太に『お前の新しい扉開いちゃったか……ゴメン……!』となんかよくわかんないけどとても不名誉なことを言われたのはまた別の話。