第六話 できたらいいなイシソツウ
なんとなく中身の予想はついているが、いちおう聞いてみる。
「こんなかには、缶詰とかペットボトルとか簡単な服とか入ってる。……防災用っていうやつをかっさらってきた。実は、今日、学校に持ってきてたんだ」
「……、まじか……」
「ささ、行こうぜ。もうちゃんと計画済みだからさ」
そう話しているうちに、ぽつぽつと遠くにあった村の明かりがともり始めた。夜だ。
行動をするなら今すぐにもしなくてはいけない。
さぁどうすると境は考える。
(帰る? でも、帰って待ってんのは地獄に例えてもいいような日々。……なら)
脳裏によぎるのは、黒と、笑い声と、体育館裏と、花火と、そして声。
境は、取り払うようにがりがりと寝ぐせのついた黒髪をかいた後。健太に目を向けた。
「わかったよ……。うん、行こう」
その言葉に、健太がさも当然と頷いた。そして、もう一度手を境に突き出す。
境は、それを今度はちゃんと握り返した。
「よし、行こう! この世界から逃げるぞ!」
「ああっ!」
― ― ― ― ― ―
真っ暗。
月の光すらも届かないそこは暗闇に包まれていた。
境もその寒気すらする暗闇の中で、手元を動かし何かを探していた。すると、前から足音が聞こえて、顔をあげる。
「なーなー、ちょ、暗すぎね? 明かりはまだかよ?」
「うむむ……。今探してるから……」
ガサゴソと、手元をあさる境。真っ暗すぎて、手元すらみれない。
「ねー、ケンタぁ? これ本当にランプ入っていないんのー?」
「入ってる、ちゃんと探せよー?」
「暗くてわかんないんだよ」とブツブツ愚痴を漏らしつつ手探りで探していく境。すると不意に叫び声が前方から聴こえた。
「ぎゃぁああああああああ!?」
「ケンタッ!?」
異常に気付いた境が、焦って顔を上げる。しかし、そこはやはり闇ばかりあり、なにも確認できない。
「ケンタ!? ケンタ、どうしたの!?」
「何かが足に絡みついて……!? あ、ぐわ! いってぇ……こけた……って、足が動かない!? 誰かに掴まれて……!?」
「え、え、え、い、今ランプを探すから……!」
「ギャァアアアア!? なんか、今、顔に何か降ってきた! 唾液!? 唸り声も聞こえ……ヒヤァアア!? 手も掴まれて……俺、獣に襲われてる!? 食われる!? 死ぬ!?」
「ま、待って!? 抵抗して!? 今すぐにでも見つけて……あ、あった!」
「ゴメン。キョウ、俺死ぬわ。遺言はリュックの左ポッケの奥に……」
「えっと、えっとスイッチどこ!? うわ、こっちラジオだった!? ケンタ、いかないで!? ケンタ!?」
「アーメン」
「ケンタァアアアアアアアアア!?」
その瞬間、パチンと手元から鳴り、パッと眩い光がそこにあふれた。暗い場が明るい場に変わり、あまりの眩さに目を細める。視界がまだ光になれていないのも関わらず、境は健太の姿を探す。いた。
地面に転がり、目を白黒させている健太は……。
「ケンタ! 無事だった!? だいじょ……う……、……」
健太は長いコンセントのひもに器用に絡まり、穴が開いた天井からぽつぽつ降ってくる雨漏りに顔を濡らし。窓から洩れる風の音にブルブルさせている情けない姿があった。
「…………」
「…………」
「…………ケンタ?」
「…………ごめんなさい」
「よろしい」
恥ずかしいのか顔を赤くさせてそっぽを向く健太に、境はジト目を送りながら許してやるのであった。
それから、健太を拘束しているコンセントをほどいて。そして、ランプの明かりで全貌があきらかになったこの場所を見渡す。
第一印象的には『田舎の空き家』っていう感じの場所だった。木造で、手入れがされていないらしく、ところどころ腐っていたり穴が開いていた。
それでも少し広めで二人が生活するのには申し分ない。
さらに、ここの元持ち主は急用があって出ていったらしく、金目のものは期待できないがある程度の家具が残されていた。囲炉裏に、座布団、大きなちゃぶ台に、洗いどころ。箱形のアナログテレビに冷蔵庫てきな物もある。多分、電気はもう通ってないが、それでも十分泊まることはできる。
「ほぉーん、けっこうよくね? なんかすげぇ秘密基地感出てるしさ」
手に巻き付いたコンセントのひもを払い捨てながら健太が言ってきた。境もそれに賛同して頷いた。確かにいい。最悪、野宿を覚悟していたが、やはり壊れていても屋根と壁があるのは安心する。
なんとか今日泊まる場所を確保できて、ほっと安どの息を漏らす境。
(いやー、何とかなるものだね。よかったよ。もうきっと夜の八時くらいだし、雨漏りしてるってことは外は雨降ってるってことだよね。……明日に向けて寝ようか)
そこまで考えて境は顔をあげ、健太を見る。健太も視線に気づいたのか、顔を向けた。
「ケンタ、もう外は真っ暗だ。風も少し出てるし、外は危ない」
「ああ、そうだな」
「今日はとっても走って疲れたし。それに、ランプの電気もできるだけ節約していきたいんだ。……言いたいことわかるよね?」
「もちろんわかってる。俺も同じこと考えてた」
うんうんと頷く健太。
「やっぱり、あれは絶対必要だよな! キョウ!」
「うん、あれは必要だね!」
境が頬を緩ませながら応じる。これこそ親友というか、意志がつながっているというか、同じことを考えてるって言うのは、なんだかこそばゆい。
健太もそう感じているのか、はにかみながら言った。
「そう、僕たちの必要なものとはズバリ――この疲れを癒す睡眠がッ!」
「そう、俺たちに必要なものとはズバリ――ここを探索する冒険がッ!」
これを人は台無しという。