第五話 逃げ出そうぜコノセカイ
「く……、はぁッ、ハッ……はぁ……」
どれくらい走っただろうか。あたりは、暗くなり始めて。空が赤と、オレンジと白のきれいな色に染まり始めていた。少し田舎まで来てしまったようで、帰り道がわからない。視界に入る限り、人がいる気配はなかった。
つまり、自分ひとり。
境は一心不乱に動かしていた足を、ゆっくりにする。息が苦しい。
汗でびっしょりになった顔を拭くこともなく、だんだん、だんだん、減速し、止まった。
ポタポタ……と、アスファルトの地面にしずくが落ちる。涙だった。
「ふぇ……う、うう……うぁああああああん、ああああぁぁ――」
空へ届くばかりに泣きじゃくる。あふれる涙をそのままにして、境は叫び続けた。この世界への憤怒を、憎悪を。今までため込んできた分すべてを吐き出すように喚き散らした。
なんでみんな僕を嫌うのだろう。
なんで痛いんだろう。
なんで裏切るのだろう。
なんで、なんで僕は生まれてきたのだろう。
なんで世界は、僕という存在を創ったのだろう。
痛いよ、つらいよ、もう限界だよ。やめてくれよ、もう嫌だよ、いやだ――!!
この世界は、いつだって僕に理不尽なことばかりだ――
「――――キョウ」
「……ッ!」
いきなり背後から声をかけられびくりとした。振り向かなくてもわかった、健太だ。
「なんで、ここまで来ちゃったのさ……」
背を向けたまま聞く境。こんなボロボロの姿を、親友の健太にだけは見せたくなかった。自分の最後に残ったちっぽけなプライドがそう言っている。
そんな境の内心に反して、健太は息を整えながら、どこまでも静かに答える。
「当たり前だろ、ほってなんか置けないよ」
「いいよ! ほおっておいてくれよ! 一人にしてくれ!」
「キョウ……」
「やめろ! 来るな! もういい、帰れよ! こんな……こんな馬鹿な僕なんか見捨てろよ! 頑張ればみんなが認めてくれるって思ってた僕を! 大人に簡単に騙され、泣いた僕を……! この世界から嫌われた僕を……っ。もう、生まれた、意味なんか……ない、ぼ……ぅ、うぁあ……ッ」
「もう、いい。なんも言うな」
そういって、健太は後ろから手をまわして抱きしめてきた。
「キョウ。キョウは馬鹿じゃない。見捨てない。俺が認める。生まれた意味だってある。少なくとも、俺はお前とあえて本当に良かったって思ってる」
「ぅ……え……」
「立ち向かわなくていい。もういいよ、我慢すんなよ」
腕から解放された境が、後ろを振り向く。そこには夕日の光を後ろに浴びた健太が暖かく笑っていた。手のひらを、境に突き出す。遊びにさそうように、いつものように。しかし、その意志の強い鋭い瞳に確かな決意を燃え上がらせて。言うのだ。
「――逃げ出さおうぜ、この理不尽な世界から」
「――ッ!」
境は大きく目を見開く。
そんな境の反応に、健太は「ん?」と首をひねった。
「あれ? 嫌だったか? まぁキョウが戦うっていうなら、俺も戦うけどな。世界だろうと、ドラゴンだろうと、異世界だろうと!」
「ち、違う違うそうじゃない! せっかくのシリアス返せ! あと、この世界にそんなものないから! どこにあるんだよそんなもん!」
「脳内」
「はい、予想を超えるロクでもない解答ありがとうございます!?」
「そぉーじゃなくて!」と吠える境。
「なにさ、世界から逃げるって!? 一回死んでテンセーでもするつもり!?」
「おっ、キョウもなかなかの妄想マスター。ついでに死ぬわけじゃないから、キョウと一緒に心中はご遠慮いたします」
「なんで敬語!? 微妙に悲しくなるからやめてよ!」
「んじゃぁ説明な。まぁ、逃げんだ。もう学校にはいかずに、いろんなとこ旅しようぜ。一緒にさ!」
こやつ伝説の奥義無視を使いやがった……とジト目をする境だったが、それよりもその説明に驚いたので、ひとまずそれは置いておく。
「え!? た、旅って……。僕たちまだ中学生だよ? そんなの無理じゃ……」
「んじゃあ、そんな中学生のキョウは、あんな生活で生きていけんのか?」
「う、ぐ」
「無理だろ? それにいいじゃねぇか、二人で旅! わくわくするじゃねぇか!」
唖然とする境の前で、健太は腕を頭の後ろで組んで「にししっ」と楽しそうに笑う。ハッと我に返った境が、「いやいやいや!?」とのんきな健太に詰め寄った。
「そんな!? もしもそうするとしても、どうやって生きるつもり!? 怪我とか、服とか、ごはんとか……!」
「薬草とかー、川で洗濯とかー。魚とか、キノコとか、上達したら狩りしようぜ。まぁひとまずは、しばらくコレで」
そう言った健太は、「じゃん」と効果音をつけながら肩をずらしてみせた。そこには後ろから大きめのリュックが。さっきまでは暗くなり始めていたこともあり気づかなかったが、そこには確かに黒いリュックが背負わされていた。
「……それは?」
ふぇ~、やっとここまで来たぁって感じです。
こっから、三話くらいはコメディっぽくなりそうです。
行き当たりばったりで、あとから編集するかもしれません。
誤字、脱字など気になる点がありましたら、ご報告お願いします。
これがここでの初めての作品で、多分表現力やストーリーが甘いところもあると思います。なので、もしよければ、どこがいけないのかなどご教授お願いいたします。
ここまで読んでいただきありがとうございます!