ゲルグと不愉快な仲間たち
「・・・こ、これはいったいどういう事だっ!?」
ヨシダを救出に向かった剣士ネルソンだったが、王城へと続く街道にはそれを阻む者達が待ち構えていた。
その背丈は長身のネルソンよりも2メートル以上も高く、丸太の様な両腕には戦闘斧が握られている。そして、それらは今すぐにでもネルソンに襲いかかってきそうな、獰猛な息遣いをしていた。
猛獣ミノタウロス。
たった1匹でも冒険者達を瞬時に殺してしまうと言われている、そんな猛獣がネルソンの前には20匹以上もいたのであった。
「これはこれは、伝説とまで言われる剣士ネルソン殿、お待ちしていたよ!」
キングミノタウロスの群れの奥から、1人の中年男が姿を現した。
「・・・貴様、何者だ!なぜ街中に猛獣がいるのだ!?まさか貴様が黒魔術で操っているのか!?」
そう言うと、剣士ネルソンは背中のバスタードソードを引き抜いて、静かに戦闘態勢に入る。
「いやいや、これは失礼した。私の名はゲルグ。これからこの猛獣達を使って王国を支配する男。宜しく頼むよ剣士殿。ククククク・・・。」
「ガルルルルルっ!!」
ネルソンのそばにいたコマリが、ゲルグに向かって唸りだした。
「・・・貴様、気でも狂ったか!?しかし、たかがミノタウロスの数十匹で王国を滅ぼそうとはな。それにお前の目の前には、この私がいるのだぞ!!」
「ネルソン、お前はヨシダという男を助けにいくのであろう?あの男はもうすぐ死罪になるのだ。邪魔させるわけにはいかんのだよ。そしてお前の存在も我が野望の邪魔なのだ。クククククク・・・!」
「ヨシダ殿が死罪だと!?フザけた事を言うなっ!!しかし、それがもし真実だと言うのなら先を急がせてもらう!容赦せぬぞっ!!」
剣士ネルソンはバスタードソードを身構え、ミノタウロスの群れに斬りかかっていった。
「魔獣どもよ!剣士ネルソンを殺せえええっ!!!」
ゲルグが命令を下すと、魔獣達は凄まじい雄たけびを上げてネルソンに突っ込んで行く。
「ブンモオオオオオーっ!!」
ネルソンは猛獣の群れに次々と囲まれ、その姿がまったく見えなくなってしまった。
――――するとその時だった。
猛獣の群れからおびただしい鮮血が辺り一面に吹き出し、猛獣ミノタウロス達の首は次々と地面に落ちていったのだった。
「ば、バカなっ!?25匹全てが瞬時にやられたというのかっ!? 冒険者ランクA級でも苦戦すると言われるミノタウロスだぞ!?」
「私も随分と甘く見られたものだな。・・・覚悟しろ、ゲルグよっ!!」
「クククク・・・。流石は剣士ネルソン!これ程までとはな!ではこちらもとっておきを出すとしよう!」
そう言うとゲルグは後方の物陰に向かって叫びだした。
「ハナ子おおーっ、助けてくれええええっ!!」
「!?・・・ハナ子だと!?ま、まさかヨシダ殿の連れていた・・・!?」
すると、ゲルグの叫び声に反応するように、後方の物陰から1頭の牛が姿を現し、何かをつぶやき出した。
「ヨシダ、オンジン、マモル!」
瞳が赤く光出したその牛は、体が勢い良く大きくなり、猛獣キングミノタウロスになってしまった。獰猛さや肉体の大きさと強靭さも、今までのミノタウロスとは比較にならない程であった。
「ま、まさか!本当にあのハナ子なのか!?その男はヨシダ殿ではないのだぞ、ハナ子っ!!」
ネルソンは目の前の猛獣が、ヨシダが連れていた牛のハナ子だと分かると、攻撃する事が出来ずにジリジリと後退し出してしまった。
「ぐははははははああーっ!!この化物には私の姿がヨシダに見えるのだよ!ククククク、黒魔術の力は素晴らしい!お前もそう思わないか、なあネルソンよ!!」
「き、貴様ああっ!何て事を!」
「私の同志には黒魔術のエキスパートがいるのだよ。これからは集めた家畜たちを獰猛な魔獣に変える事が可能だ!すばらしい、すばらしい、すばらしいいいいいいーっ! グハハハハハーっ!!」
後退しているネルソンに、変貌したハナ子が襲いかかる。
「ブンモオオオオオーっ!!」
「・・・クっ!!」
ネルソンは変貌を遂げたハナ子の凄まじい攻撃に、防戦一方になってしまった。そして次第にハナ子からの攻撃を防げなくなり、何度も凄まじいパンチやケリを全身に食らってしまったのであった。
「ぐあああああああーっ!!」
「よし、ハナ子っ!ネルソンにトドメをさせえええっ!」
ネルソンは最後にハナ子からの痛恨の一撃を喰らい、その身は空高く舞い上がり地面に落ちていった。
ネルソンが倒れると、コマリもハナ子に襲い掛かるが、どういう訳かハナ子はコマリを攻撃しなかった。
「なんだどうした?犬は殺さないのか?・・・まあいい、そんな犬放っておけ。次はヨシダの公開処刑でも見物してやるか。グハハハハハーっ!!」
魔獣になったハナ子は元の姿に戻ると、ゲルグと供にその場から姿を消してしまったのだった。
―――その頃、
王宮ではヨシダの公開処刑が行われようとしていた。
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