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伝説の剣士と腐った竜の首


  

 激闘を制した、魔人ヨシダハナコは右手を天に突き上げ、勝利の雄叫びを上げる。



「ヴンモオオオオオオオオオオオオーっ!!」



 その激し過ぎる雄叫びは、無残に残された古代竜の胴体を粉々に粉砕してしまう程であった。



 そしてしばらくすると、魔人は元の酪農家ヨシダと獰猛どうもうで可愛らしいキングミノタウロスに戻っていった。



「いやー、オラとした事がついカッとなって、竜の首をもいじまったなあー。」



ヨシダは照れくさそうに頬を赤らめ、自分の頭をポリポリかいている。



呆然としていた剣士ネルソンが我に返ると、彼の傍らには古代竜の大きな首がゴロンと転がっていた。


ネルソンはまだ現実が受け入れられずに、苦しそうな死に顔を浮かべている古代竜の首をぼんやりと眺めている。



「・・・そうだ!大怪我している人達はオラの作った薬を飲むだ!」



 そう言うとヨシダは、そこら辺の雑草を潰しただけのポーションを、ネルソン達に飲ませた。


 

 ネルソン達は案の定「オエエエーっ!」と吐き出しそうになるが、またもやキングミノタウロスのハナ子が彼らの口を塞ぎ、まるで劇薬でも飲ませて毒殺するかのように無理やり雑草ポーションを飲ませた。



「よし、これで何とか助かるべ!じゃあ帰るか、ハナ子。」


「ウンモオオオっ!」


「・・・ちょ、ちょっと待ってくれ!まだ助けてもらった礼を言ってない!」



 その場を立ち去ろうとしていたヨシダを、剣士ネルソンが呼び止めた。



「お礼なんていらねーだよ。困っている時はお互い様なんだから!」



「いやいや、そうはいかない!私達を助けてくれて本当にありがとう!あなたがいなければ私達は確実に全滅していた。ぜひ、お名前をぜひ教えて頂けないだろうか?私は剣士のネルソン・オリバーだ。」



 ヨシダは照れくさそうに自己紹介をして、ハナ子と供にダンジョンを立ち去ろうとした。



「あ、待ってくれ。その古代竜の首をギルドに持って行くといい。それが魔物討伐の証拠になり、報酬の金がもらえる事になっている。」



「そうなのか!大事な事を教えてくれて本当にありがとな、ネルソンさん。」



 ヨシダは古代竜の首を風呂敷にしまってそれを背負うと、ハナ子と供にダンジョンを去っていった。



 しばらくすると、ネルソンの仲間達もすっかり元気になり、ダンジョンを立ち去る準備に取り掛かっていた。すると、仲間の魔術師カーティスがネルソンに話しかけてきた。



「ネルソンさん、竜の首の事教えてしまって良かったんですか? 黙っていればネルソンさんの手柄になって報酬をもらえたのに。そうすれば娘さんの病気だって治してあげられたのでは?」



「カーティス、そんな卑怯な真似は出来んよ。それに私達はヨシダ殿に命を助けてもらったんだ。それ以上望んだらバチが当たるというものだ。」



 ネルソンはそう言うと、崩壊してしまったダンジョン地下12階層の天井を、にこやかな表情で眺めている。


 

 とその時、ダンジョンの物陰から2人の会話を聞いていた男がいた。



 帰り道が分からずに引き返して来たヨシダだった。



 しばらくしてからヨシダはネルソンの仲間達に合流して、その後無事にダンジョンを脱出する事が出来たのだった。





――――ダンジョンでの激闘が終わり、2日が経ったある日の事。



 剣士ネルソン・オリバーは冒険者ギルドから程近い、とある療養施設に来ていた。



「ケイティ、しばらく来れなくてすまなかったな。具合はどうだ?」



「・・・うん、パパはお仕事だから仕方ないよ。ちょっと胸が苦しいけど大丈夫だよ。」



 ネルソンの1人娘のケイティは、原因不明の難病に倒れて病院も兼ねているその施設で療養生活を送っていた。



「ネルソン殿、少しお時間よろしいでしょうか?」



 療養施設の代表を務める医師が、ネルソンを施設の外に連れ出してその重い口を開いた。



「ネルソン殿、娘さんはあなたの前では気丈にふるまっていますが、かなり病状は深刻です。かなり高額になりますが、一日も早く医学が進んだ他国の医師団を呼ぶ必要があります。さらに・・・」


「さらに・・・?」


「どういう訳なのか、この療養施設も国からの運営費を打ち切られそうなのです。」



「・・・何と言うことだ。あと少しでまとまった資金が調達出来たんだが。私はあまりに無力だ!」



 ネルソンは膝を落とし、己の無力さを嘆いた。



――――と、その時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。



「おーいっ!ネルソンさん、探したぞー。こんな所にいたのか。」



 酪農家ヨシダが、牛のハナ子と愛犬のコマリを連れてやって来たのだった。



「おお、ヨシダ殿ではないか!私をお探しだったのか?」



「そうなんだよ。実は今オラが持っている竜の首だけど、これが腐敗して臭いこと臭いこと!オラは腐敗臭は大嫌いだから、ネルソンさんが片付けといてくれねえかなあ?」



ヨシダは竜の首が入った風呂敷を、ネルソンの前に差し出した。



「なんと!!い、いや、それを受け取る訳にはいかぬ。ヨシダ殿の手柄ではないか!」



「だから、オラは腐敗臭が大嫌いなんだ!こりゃー臭くてかなわねーだよ!」



 そう言うと、ヨシダは竜の首が入った風呂敷を無理やりネルソンに渡すと、ハナ子とコマリを連れて足早に帰っていったのだった。



 「・・・ううううっ!!ヨシダ殿、このご恩は生涯忘れはせぬぞ!!ありがとう、ありがとう、う、うおおおおおおおーっ!!」



 伝説と言われた剣士、ネルソン・オリバーは豪快に男泣きし、ヨシダから手渡された古代竜の首が入った風呂敷を力強く抱きしめていた。




 そして彼はある事に気がついた。




「うっ!!・・・く、くっせえええええええーっ!!」



 ヨシダから手渡された竜の首は、本当に臭かった。





まだまだ続きます!

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