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「本当に行っちまうのかよ、おっさん。」

「寂しくなるわね。」


 トムとリンダは名残惜しそうに、旅立とうとしているヨシダに声をかけた。


「ああ、ここでお別れだべ。オラは皆と出会えて本当に幸せだっただよ!」


 ヨシダは愛犬コマリと牛のハナ子を連れて、今まさに王国を旅立とうとしていた。


 トム達には詳しい理由は話さなかったが、ヨシダは自分が動物を魔獣化したり魔人化したりする力を恐れたのだった。


 二度と同じ悲劇を繰り返さない為にも、魔獣化出来る動物を連れてどこか遠くの辺境の村にでも行こうと、ヨシダは考えていた。


 ヨシダの考えに賛同したヨシダールとゲルグ、そしてブタのキャサリンも異国の地を目指して旅立つ事になり、3日ほど前に彼らもまた旅立っていたのだった。


 ヨシダは、ヨシダールと会った時から、他人とは思えない繋がりを感じていた。

 

 ヨシダの祖先には異国の人間もいると、亡くなった祖父から聞いた事があるが、ヨシダールとゲルグがもしも日本に向かったのなら、「もしかしたらもしかするのかもしれないなぁ」とヨシダは楽しそうに妄想していた。



「トムさん、リンダさん、ネルソンさんや王様達にも宜しく伝えてくれ!」


「ああ、分かった。伝えるよ。おっさん元気でな!」


「おじさん、この国を救ってくれて本当にありがとう!!」


 トムとリンダに見送られて、ヨシダと2匹の動物はゆっくりと歩き出した。ヨシダは何度も振り返って2人に手を振るのだった。



◇◆◇



 その頃、剣士ネルソンは娘を連れて、海を見渡せる小高い丘の上に来ていた。


 小高い丘の上には2つの小さな墓標があり、カーティスの名前とかつて恋人だった女性の名前がそこに刻まれていた。


「カーティス。お前の言う通り、綺麗事ばかりでは平和は成り立たぬ。人間は今後も戦争を繰り返す生き物なのかもしれない。だがな、私は傷付けられる人間がいるのなら全力で守りたい、ただそれだけだよ。」


 ネルソンは旧知の仲間であったカーティスを人知れず弔い、生前彼が好きだった花をそこに供えた。


「パパ、カーティスさん、恋人だった人と天国で会えたかなあ?」

「ああ、きっと会えたさケイティ。絆があればまたきっと会えるんだよ。」


「そっか。じゃあ私もママにもいつか会えるね!」

「そうだな。絶対会えるとも。」


 ネルソンは丘から見渡せる海を眺め、絆で結ばれた友の旅路を祈った。




◇◆◇



 ヨシダ達が王国を旅立ってから2ヶ月が過ぎ、季節はあっと言う間に冬になっていた。


 ヨシダと彼に連れられた牛のハナ子、愛犬のコマリは真冬の森の中を歩いていた。


「この森を越えた所に海の見える静かな村があるらしいからな、もう少しの辛抱だべ!」


 やがて辺りは吹雪になり、ヨシダ達は懸命に深い森の中を歩き続けた。


 彼らは道に迷い、何時間も森の中をさまよい歩かなければならなかったが、しばらくすると森の出口が見えて、彼らは嬉しくなり一気に出口まで駆け抜けたのだった。



 ――――するとそこには信じられない光景があった。



「ここはっ!?ほ、北海道!?」

「ワオン??」

「モオオオオー?」


 彼らが目にしたのは、異世界転移する前の元の世界だった。


「し、信じられないだよ!元の世界に戻って来ただっ!!」


 ヨシダはしばらくの間、呆然と立ち尽くして、雄大な北海道の冬景色をぼんやりと眺めていたのであった。


 遠くの空では、渡り鳥の群れが優雅に空を飛んでいる。


 やがてヨシダはそれを見て、不敵に笑うのだった。





◇◆◇




 オラの名前は吉田 喜三郎きさぶろう


 動物好きの酪農家で、借金を背負って家族に逃げられた「ろくでなし」だ。


 でもひょんな事から異世界に転移して、色んな冒険を経験したんだ。そしてかけがえの無い仲間達に出会った。


 彼らに学んだ事は「本物の絆は誰にも壊されない」という事。


 そして綺麗事だけでは現実は変わらない事も知った。現実を変えるには、行動あるのみだったんだ。前向きになって全力で頑張れば、絶対に誰かが応援してくれる。ピンチになっても助けてくれる。



 だからオラはもう迷わない。



 オラは借金で手放した牧場を買い戻す為に、新たな事業を始めた。


 事業と言っても、牛のハナ子の牛乳で作るジェラートの販売だ。もちろん商売ってのはそんなに簡単な事じゃない。


 オラは人気のジェラート店のオーナーさんに何度も頭を下げて、そのノウハウを教えてもらい、時間をかけて自分のものにしていった。


夜も寝ずにジェラートの研究をする事も日常茶飯事だったんだ。


 美味しいと評判のソフトクリームやジェラートの店があると知れば、すぐに食べに行ってその味を研究したりもした。


 そして1年が過ぎた頃、オラはついに小さなテナントを借りて、ジェラートのお店を持つ事が出来た。


 来客0の日もあったし、家賃の支払いを工面する月もあったりで苦労が続いたけど、ありがたい事に沢山の人がオラに協力してくれて、オラの店はどんどん軌道に乗っていったんだ。


 そしてオラは2人に手紙を出して待ったんだ。2人がオラの元に帰ってくるのを。


 だが2人はいくら待っても帰って来なかったんだ。


 何年住んでいても北海道の寒さは身に染みた。




 ――――やがて季節は春を迎えた。


 その日の夜、オラはジェラートの店のシャッターを下ろして、安アパートに歩いて帰ろうとしていた。北海道は春になってもまだまだ寒い。


 オラが白い息を吐きながら歩いていると、近くで聞き覚えのある声がしたんだ。


「パパーっ!!」


 声の主は勢い良く駆けて来て、オラに抱き付いた。一人娘のハナ子だった。すぐ近くには涙を浮かべた妻のよし子も立っていた。


「ハナ子っ!!よし子っ!!」


 オラは子供の前にも関らず、声を張り上げて泣いていた。涙はずっと止まらなかった。



「本物の絆は誰にも壊されない」


 

 オラが異世界で学んだ、たった1つの大事な事だ。





最終話までご愛読ありがとうございました!

新作も連載開始しましたので、どうぞ宜しくお願い致します!


あとがきにどうしてもリンクが反映されない。

(--;)


どうにかこの下の広告の下にリンク貼れました。

良かったら読んで下さい。

↓↓↓


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― 新着の感想 ―
[良い点] こういう 何も考えずに楽しく読めるの探してた(^-^) [一言] 続きが読みたいな
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