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カーティスの策略


 剣士ネルソン・オリバーを先頭に冒険者たちの一行は、次々に王国兵士や魔獣の群れを撃破し、王宮の地下牢に辿り着こうとしていた。


 そこにはクーデターによってシュナイゼルに捕らえられてしまった国王やその一族、そして軍事侵略を反対する貴族達が囚われていたのだった。



「よし、この階段を下れば地下牢だ!国王をようやくお助け出来るぞ!」


 ネルソンは周囲を警戒しながら、地下牢に続く階段を一気に下り切る。


 すると薄暗い牢の中に、沢山の王族や貴族が囚われている姿が見えたのだった。


「いかんっ!ネルソン殿、これは罠だ!すでに国王はカーティスに連れて行かれた!引き返すのだ!」


「そうだ、こっちに来てはダメだ!!もう時間がないのだ!カーティスを止めてくれ!!」


 王国の大臣達が牢の中から、ネルソン達に叫んだ。


「それは一体どういう······!?」


 ネルソンの言葉を遮るように、薄暗い地下牢の奥からおびただしい数のキングミノタウロスとキングオークの群れが湧き出るように現れた。


「ネルソン殿!カーティスは太古の禁呪を使い、1匹の魔獣を強力な魔神にしようとしておる!王宮の中央に立つ1番高い塔に奴はいるはずだ!頼む、急いでくれっ!」


「しかし、貴方たちを放っては置けない!」


 迫り来る魔獣に対して長剣を抜こうとしたネルソンだが、仲間の冒険者達に肩を掴まれ止められる。


「ネルソンさんはカーティスの元に向かってくれ!ここは我らで何とかする!」

「しかし、あの魔獣の数では・・・・・・!」

「カーティスを止められるのは貴方だけだっ!」

「すまん!ここは君達に任せる!!」


 ネルソンは魔獣達を冒険者仲間に任せ、カーティスが国王を連れて行った場所へと走り出したのだった。




◆◇◆



 王宮のほぼ中央にそびえ立つ1つの塔がある。


 その地下は主に犯罪者や敵国の捕虜などを捕らえておく牢獄があり、1階から最上階である18階までは貯蔵庫になっていたり、戦争時の見張り台になっている。


 または王族以外立ち入り禁止の秘密の部屋などがあるという噂もあった。


 そして塔の中心部は大きな空洞になっており、その周りの内壁にそって螺旋らせん階段が最上階まで続いている。


 つまり塔の1階から天上までは大きな吹き抜けになっているはずなのだが、塔の1階にたどり着いた剣士ネルソンは、そこに信じられない光景を目の当たりにしたのだった。


「こ、これは・・・・・・!!?」


 ネルソンが目にしたのは、塔の1階から最上階まで届きそうな背丈の巨大な魔神の姿だったのだ。


 おぞましい角が頭部にも数本生えているが、その角らしき先端の尖った物は魔神の巨大な身体の至る所から数え切れないほど、びっしりと生えている。


 魔神の目をは閉じられてるが、規則正しい心臓の鼓動と呼吸の音がネルソンの耳に届いていた。


「遅かったなネルソンよ!たった今、究極の魔神が完成した所だよ。」


 魔術師カーティスは塔の3階付近の螺旋階段上に立ち、ネルソンの到着を見物するかのように眺めていた。


「カーティス!貴様ああああーっ!!」

「ククク・・・・・・。素晴らしいとは思わないかいネルソン?牛のハナ子と国王の融合で最強の魔神が誕生したのだ。これでヨシダが魔神になっても手は出せまい!」


「き、貴様ああああーっ!!何て事をっ!!」

「この魔神と魔獣軍団で世界を支配すれば、もう戦乱の世の中は訪れないのだ。こんなに素晴らしい事が他にあるか? ネルソン、お前も世界平和を願っていただろうが!?」


「お、お前は狂っているぞ、カーティスっ!!」

「・・・・・・ククク、狂いもするさ。こんな戦乱の世の中ではな。」

「こんな事をしても、お前の家族や恋人は帰っては来ないのだぞ!」


 カーティスはネルソンの言葉に拳を強く握り締め、砕けそうなくらいの歯ぎしりをする。そしてゆっくりと口を再び開いた。


「お、お前に・・・・・・お前に何が分かるっ!? 明け暮れる他国との戦争、魔族との戦い、そんな時代の中で生きる伝説とまで言われ英雄となったお前に、一体何が分かると言うのだああああああーっ!」


「他国を侵略すれば、お前の家族や恋人のように命をで落とす人間が大勢生まれる!なぜそれがお前には分からんのだ!?」


「黙れネルソンっ!永遠の平和を勝ち取るには犠牲が必要なのだああっ!綺麗事ばかりでは何も変わらぬ!!俺はこの地上の王になり全ての人間を屈服させるのだ!!」


 そう言うとカーティスは移動扉マジック・ゲートの呪文を唱え、螺旋階段からその姿を消した。


「フハハハハハーっ!この下らぬ世界をまずは破壊し尽くすぞ魔神よ!!」


 ネルソンが気が付くと、カーティスは巨大な魔神の肩に乗り、手に持った魔術師の杖を大きく振りかざし禁呪を唱えていた。


 すると禁呪に反応するように魔神は目をゆっくりと大きく見開き、両拳を力強く握り締め、凄まじい雄叫びを上げるのだった。




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