形成逆転
――――王国東の城門。
王国に攻め込むべく、リンダが率いて来た盗賊団の数は約500人。それに対して東の城門を守っている王国騎士団は3000人を超えていた。
しかもその3000人の中の100名は、精鋭中の精鋭である王直属の近衛騎士団であり、その指揮を執るのは王国騎士団副団長にして武勇の誉れ高い、ディクソンという若い騎士であった。
「おい、ディクソン!たかが500人程の盗賊だぞ!すぐに討ち取って王宮に侵入した冒険者共も退治せねばならぬのだ!早くしないとシュナイゼル様のご機嫌が損ねるであろうがっ!!」
安全な場所から恐る恐るやって来た騎士団長のバートンは、現場を任せているディクソンにまくし立てるように詰め寄った。
「······お言葉ですがバートン様、たかが500人と言えど相手は盗賊団です。何か策を用意しているに違いありません。うかつに正面から攻めるのは愚策かと思われます。」
「何だと、この若造がっ!こっちは精鋭部隊を含めた3000人だぞ!どうやったら負けると言うのかっ!私の命令が聞けんのなら、人質となっているお前らの家族の命は無いぞっ!」
ディクソンはその拳を強く握り締め返答する。
「······分かりました。用意が出来次第城門を開け、こちらから攻め込みましょう。とりあえず、ここは私に任せてバートン様は安全な場所へご避難ください。騎士団長にもしもの事があったら一大事ですので。」
「フン、そうはいくか!お前らが裏切らないように監視する役目が私にはあるのだ。さっさと戦闘準備を急がせろ!お前自らも出撃してすぐに片付けてくるのだ!いいな!?」
数秒の沈黙の後、ディクソンは城門を開けて盗賊団に攻撃をしかけるよう号令をかけたのだった。
やがて、ディクソン率いる近衛騎士団を先頭に約1000人近くの騎馬隊が城門をくぐり、大きな土埃をあげながら盗賊団に元に駆けて行った。
するとどういう訳か、リンダが率いる盗賊団が騎士団との距離を取るように、すぐさま後退してしまったのであった。
「あいつら、いったいどういうつもりだ!?何か罠でも仕掛けているのか!?」
盗賊団は全力で後退するが、馬の扱いはディクソン率いる騎馬隊が優れている為、時間と供に両者の距離は縮まり、ついに両者の間で戦闘が始まろうとしていた。
しかし、先頭にいた近衛騎士団達は、盗賊団の群れから大きな白旗が上がるのを目の当たりにしたのだった。
「······し、白旗だとっ!?」
「奴らいったいどういうつもりだ!?」
ディクソンも呆気に取られていたが、しばらくすると盗賊団のリーダーのリンダが群れから現れて口を開いた。
「私は新しい盗賊ギルド長のリンダだ!私達は王国近衛騎士団と戦う意思は無い!」
「王国騎士団、副団長のディクソンだ!盗賊団よ、それは一体どういうつもりか!?」
「近衛騎士団は人質を取られて仕方なくシュナイゼルに従っているんだろう!?今私達の仲間があんたらの家族の救出に向かっている。上手く行けばもうすぐここに来る手筈になっているわ!」
「······な、なんだと!?そ、それは本当なのかっ!!」
リンダは馬から降りて、両手を上げてディクソン達の方へと歩み寄った。
「もちろん本当よ。とは言ってもなかなか信じてもらえないだろうから、とりあえず副団長さんの家族だけをここに連れて来る事になってるわ。」
「な、なんと······!!」
それから半時ほど経ってから、トムを先頭にした盗賊団1500人が馬を走らせてやって来たのだった。
「トム、どうやら成功したようね!」
「当たり前だろが、こっちは潜入のエキスパートだぜ。暗殺が得意な奴らもいるしな!」
馬上のトムの背後にはディクソンの妻と幼い息子の姿もあった。
「お、お前たち!無事であったか!」
馬から降りた妻と息子にディクソンが駆け寄り、3人は抱きしめ合ってお互いの無事を喜び合った。
「あなた、他の家族の方も盗賊の皆さんが助けてくださったのです!」
「そいういう事だ。全員無事だから安心しな!今は俺達の隠れ家に避難している所だ。」
トムの言葉に、周りの近衛騎士団から歓喜の声が響き渡る。
「何と言う事だ!また家族に会えるとは!」
「盗賊達よ、何とお礼を言えばいいのか!この恩は一生忘れないぞっ!」
何人もの騎士がトム達に抱き付いて喜びと感謝を現した。
「おいおい、俺は男に抱き付かれるより若い女の方がいいんだけどな~!」
そんな中、冷静さを取り戻したディクソンは、リンダとトムの元に歩みより口を開いた。
「盗賊ギルド長リンダ、そして他の盗賊の者達全員も、この度は感謝の言葉もない!命を賭けて私達の家族を助けてくれて本当にありがとう!」
「礼にはおよばないよ。あんた達は貴重な戦力だからね!一緒に戦ってくれるわね?」
「言われるまでもないっ!!王国近衛騎士団および、その配下の1000人は、これより裏切り者の騎士団長バートン、そしてシュナイゼルを討伐する為に、馳せ参じようぞっ!!」
「「うおおおおおおおおおおおおーっ!!」」
ディクソンの掛け声に反応した騎士団の地鳴りのような歓声が、辺り一面にいつまでも響き渡っていた。