サブリナの恩返し
「き、貴様あああーっ!カーティス!!どういうつもりだああああーっ!!」
「家畜などに情があるようでは魔獣軍団を率いるのは無理でしょう?いや、我らを裏切る可能性すらありますからね。ゲルグ、あなたにはここで死んでもらいますよ!」
――――カーティスが呪文の詠唱に入ったその時だった。
魔神ヨシダ・キャサリンの目から、凄まじい威力のレーザー光線が出てカーティスに直撃し、カーティスの体は燃え尽きてしまった。
「よし!サブリナの仇は取ったぞ!」
「······いや違う!あれは幻術だっ!」
ヨシダールの言葉にゲルグが反応した。
2人が上空を見上げると、今までよりもさらに高い位置に魔術師カーティスは浮遊していたのであった。
「······くっ!古代竜の炎すら生ぬるく感じる程の破壊光線だな。まさかこれ程とは······!もっとハナ子に強力な呪術を施す必要があるな。では、ここはひとまず退散するとしよう!」
ハナ子の名前を聞いた魔神ヨシダ・キャサリンは激高し、カーティスに再び破壊光線を浴びせようとするが、それよりもカーティスの魔法による瞬間移動の方が速く、もうすでにその姿は消えてしまっていた。
しばらくすると、魔神ヨシダ・キャサリンは元のヨシダとキャサリンの姿に戻り、ヨシダールとコマリ、ザックとグーフが歩み寄って来た。
「······くそおおおーっ!!オラはあの魔法使い、絶対許せねーだ!サブリナをよくも、よくもおおーっ!!うおおおおおおおーっ!!」
ヨシダは拳を何度も地面に叩きつけて、大粒の涙を流していた。
「残念じゃが、あいつは命を助けてもらったゲルグに恩返しが出来て、きっと満足しているはずじゃ······。」
ヨシダールの目にも涙が溢れている。
「······お、俺はバカだった。······サブリナ、許してくれええええーっ!!」
ゲルグもサブリナの死によって、自分の愚行を思い知ったのであった。
「お、俺は、俺は……酪農と家畜達をバカにする奴らがどうしても許せなかったんだ!汚いだの、臭いだの、貧乏だの、散々バカにされ、そういう奴らを見返したかった!……それがいつの間にか手段を選ばなくなり、どんどん悪事に手を染めてしまった······。」
肩を落とすゲルグにヨシダールが口を開いた。
「あの頃は牧場の経営も上手くいかず、お前には本当に苦労をかけた。その事は本当にすまなかった。しかしな、お前がどんなに悪事に手を染めても、わしと2匹のブタはお前が帰ってくるのをずーっと待っていたんじゃよ……。」
ヨシダールの言葉を聞いて、ゲルグは再び激しく泣きだした。
ヨシダ達は静かにそれを見守るように見ていた。
「······うう、オヤジ、カーティスと、そしてシュナイゼルを止めるんだ!数時間後には王族の処刑を予定しているし、隣国に魔獣軍団を攻め込ませる手筈になっている!もう時間がねえっ!」
ヨシダとヨシダールはお互いの顔を見て供に頷いた。
「よし、このまま一気に悪い魔法使いとその親分の所まで、攻め込んで行くだーっ!!」
「ヨ、ヨシダ、今までの事を許してくれとは言わない、だが俺も一緒に連れて行ってくれ!カーティスとシュナイゼルを止めなければならん!!」
懇願するゲルグの顔を見たヨシダは何も言わず静かに頷いた。
負傷した足を引きずりながら歩くゲルグであったが、しばらくするとザックとグーフが両脇からゲルグを支え供に歩いた。
「······お、お前ら!す、すまない。今まで本当にすまなかった!許してくれ······!」
「ゲルグ、あんたにはこっぴどくこき使われたけど、行き場の無い荒くれ者だった俺達を養ってくれた。その事だけは事実だからな。」
「ま、そういう事だな。供にヨシダの旦那に付いて行こうじゃねえか。」
「······うう、俺はいったい今まで何をやって来たのだ!!」
ヨシダ達は、ゲルグとその手下達を一行に加え、シュナイゼルのいる王宮の中心部へと駆けていったのであった。