命の絆
「ヨ、ヨシダキャサリンだとおおーっ!?フザけた名前付けやがってええっ!!きっと大きいだけの見掛け倒しに違いあるまいっ!この魔神ゲルグがお前などに負ける訳ないわあああーっ!!」
魔神ヨシダ・キャサリンに震え上がっていた魔神ゲルグであったが、すぐさま反撃に出ようと拳を振りかぶる。
しかし、魔神ヨシダ・キャサリンはギョロリとゲルグの方を睨み、突然雄叫びを上げるのであった。
「グアガアアアアァァァァァアアアアーっ!!」
そのとてつもない声量の雄叫びに、魔神ゲルグは後方へ吹っ飛び、王城の正門付近も辺り一面崩壊してしまったのであった。
大きなダメージを受けた魔神ゲルグは元の人間の姿に戻ってしまい、魔神ヨシダキャサリンの強さに震え上がる。
「バ、バカなあああーっ!!こ、こっちは強力な呪術で圧倒的な力を備えた魔神だったんだぞおおーっ!?それすらを凌駕する力を持つとは、い、い、いったいどうなっておるのだあああーっ!?」
そこへ老人ヨシダールが、ゆっくりと歩み寄って口を開いた。
「キャサリンとサブリナはのう、ずっと昔からうちの養豚場を狼やゴブリンから守る為に戦ってきたのじゃ。最近魔獣になった牛やブタとはキャリアが違うのじゃ。キャリアが。」
「……何だと!?ひょっとしてあのブタ達は、俺が子供の時拾って来た2匹のブタ達なのか!?」
「その通りじゃ。草原で餓死寸前だったブタ達じゃよ。お前も人の道を踏み外さなければ、とてつもない強さの魔神になっていたかもしれんの。何しろ動物との絆がそのまま強さになるのだからな。」
「き、絆……!?バカな、そんな物何の役にも立つものかっ!!」
「お前らは動物達を黒魔術で操っているだけで、その真理にはまったく辿りついておらん。魔獣に変身出来るのは、人間と供に生死を乗り越えた動物だけなんじゃからな。みんな恩返しがしたいのじゃよ。」
「……バカな!そんな理由で魔獣になるなんて!」
2人が話していると、サブリナが元のブタの姿に戻ってゲルグの方に駆け寄って来た。
「ブヒブヒ!」
サブリナはゲルグの傷口を癒すようにペロペロと舐めている。
「……お、お前サブリナか、俺が分かるのか!覚えているのか!?」
「ブヒ!」
――――するとその時、巨大な炎の球体が上空からゲルグを狙ったように急降下して来た。
「······な、何だこれはあああーっ!?ひ、ひいいいいいいーっ!!」
急降下しながら、激しく燃え上がる巨大な炎の球体は、ゲルグを直撃したかのように見えたが、突然サブリナがキングオークの姿になり、ゲルグを庇うように全身で炎の球体を受け止めていたのだった。
「……サ、サブリナああああーっ!?……ど、どうして俺なんかの為にっ!!」
サブリナは巨大な炎の球体によって全身が焼かれ、やがて力尽きて倒れてしまった。
「サ、サブリナ!?……うう、うあああああーっ!サブリナあああーっ!死ぬなあああーっ!死なないでくれええええーっ!!」
ヨシダールも慌てて駆け寄り、仙人汁を飲ませようとするが、サブリナはまったく反応しない。
「おやおや、ゲルグさんともあろう人が家畜1匹の死でこんなにも取り乱すとは!……あなたはもう本当に使い物になりませんねえ!」
上空を見上げると、飛翔呪文で空に浮かぶ魔術師カーティスの姿がそこにあったのだった。